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第1話「謎の老人とスキル獲得」

 深夜2時のコンビニは、蛍光灯の白い光だけが店内を照らしていた。

 俺は雑誌コーナーの前で、だらしなく背中を丸めながら立っていた。田中ユウヤ、大学2年生の19歳。特に夢も目標もなく、とりあえずバイト代を稼ぐために週4でこのコンビニで働いている。


「はあ……」

 小さくため息をついた。明日は午前中に講義があるのに、こんな時間まで働いているのは我ながらアホらしい。でも、昼間のバイトは競争率が高いし、深夜手当もつくからそれなりに稼げる。

 チャイムが鳴って、客が入ってきた。


「いらっしゃいませ」

 俺は反射的に声を出したが、入ってきたのは見たことのない老人だった。白髪に白いひげ、少しくたびれた茶色のコートを着ている。どこか浮世離れした雰囲気で、この時間帯にしては珍しいタイプの客だった。

 老人は店内をゆっくりと歩き回る。弁当コーナーを見て、飲み物コーナーを見て、お菓子売り場を眺める。ただ、なぜか商品を手に取ることはしない。ただひたすらに商品棚を見つめているだけだった。


 (万引きじゃないよな……?)


 俺は一応警戒しながら、レジカウンターから老人の動向を見守った。でも、別に怪しい行動をしているわけでもない。むしろ、商品一つ一つを丁寧に眺めているようにも見える。

 10分ほど経って、老人がレジカウンターに向かってきた。


「すみません、何も買わないんですがね」

 老人は申し訳なさそうに頭を下げた。


「あ、いえいえ、大丈夫ですよ」

 俺は慌てて手を振る。


「深夜の時間帯に、こうして若い人が働いているのを見ると、なんだか感心してしまいます」

「え、ああ……まあ、バイトなんで」

「バイトといっても大変でしょう。お疲れ様です」

 老人は深々と頭を下げた。

 恐縮してしまう。別に大したことをしているわけでもないのに、こんなに丁寧にお礼を言われるなんて。


「はあ、どうも。ありがとうございます。」

「あなたのような方に出会えただけで、今日は来た甲斐がありました」

 老人はにこりと笑うと、そのまま店を出て行った。

 俺は首をかしげる。変わった人だったな、と思いながら、再び雑誌コーナーに戻った。


 それから30分ほど経った頃だった。


 突然、頭の中に声が響いた。

 『スキル【在庫管理Lv1】を獲得しました』


「え?」

 俺は辺りを見回した。誰もいない。今の声は一体……?


 『スキル詳細:店舗内の商品配置、在庫数、売れ行きを直感的に把握できます』

 また声が聞こえた。いや、声というより、直接頭の中に情報が流れ込んでくる感じだった。

「何これ……まさか、夜勤で頭がおかしくなった?」

 俺は頭を振った。でも、妙に頭がすっきりしている。そして——

 不思議なことに、店内の商品配置が手に取るようにわかるようになっていた。


 冷蔵庫の奥にある牛乳が残り3本。弁当コーナーの唐揚げ弁当が売り切れ寸前。雑誌コーナーの週刊誌が平積みされすぎて取りにくくなっている。

 そんな情報が、見なくてもわかる。


「嘘だろ……」

 俺は実際に冷蔵庫を確認しに行った。牛乳の在庫——確かに3本だった。弁当コーナーも、唐揚げ弁当は1個しか残っていない。

「マジか……」

 これは明らかに普通じゃない。でも、夢でもないし、幻覚でもなさそうだ。

 もしかして、さっきの老人が関係している?あの人、何者だったんだろう。


 チャイムが鳴って、また客が入ってきた。今度は大学生らしき男性客。酔っぱらっているのか、ふらふらと歩いている。

「あー、弁当弁当……唐揚げ弁当ある?」

「はい、1個だけですが」

 俺は新しく獲得した能力で、弁当の場所を正確に案内した。普段なら「えーっと、確か……」と曖昧に答えるところだが、今は迷いがない。


「お、サンキュー。あと、牛乳も」

「冷蔵庫の奥にあります。残り3本です」

「え、なんで本数までわかるの?」

 客は不思議そうな顔をしたが、酔っているので深く追求はしなかった。

 商品を買って帰っていく客を見送りながら、俺は考えた。


 これは一体何なんだろう。スキルって、ゲームみたいな話だ。でも確実に、自分に変化が起きている。


 そういえば、最近ダンジョンの話をよく聞く。20年前に世界中に出現したダンジョンで、冒険者という職業も生まれた。友人の山田も、大学を休学して冒険者をやっている。


 もしかして、これもダンジョン関連の現象なのだろうか。

 俺は携帯電話を取り出して、山田にメールを送った。


 『お疲れ様。今度時間あるとき、ダンジョンのこと色々教えて。興味出てきた』

 送信ボタンを押してから、俺は改めて店内を見回した。

 商品の配置、在庫数、売れ行き——全てが手に取るようにわかる。


 これが、俺の新しい能力。

 なんだかよくわからないけれど、きっと何かが始まろうとしている。

 そんな予感がしていた。

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