表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

アモヴォール陛下は語る──感動とは、最も上質な食事ですのよ?

あらあら……また迷い込んできたのね。

ええ、歓迎して差し上げますわ。

ここは感情の食卓。愚かな者たちが捨てていく美味なる感動の墓場。

そしてわたくしが、それを拾って丁寧に盛り付けてあげるの。


わたくしの名はアモヴォール。

感動を喰らう神格。“愛を知る陛下”とでもお呼びなさいな。


宝石? 絵画? 歌劇?

そんなもの──感動の“副産物”ですわ。

美とは、もっと深い。もっと粘度のある、赤くて熱い“情緒”そのもの。


あなた、愛されたことは?

涙が出る程、誰かを守りたいと思ったことは?

心を震わせて、「この瞬間に生きていた」と叫んだことは?


そう、それよそれ。

わたくしが頂くのは、まさにそれ。


わたくしのコレクションルームには、水晶玉が並んでおりますの。

一つひとつに、“とっておきの一皿”が封じられている。

母を抱いて泣いた少女の声。

革命前夜に鳴った鐘の音。

最愛の恋人と交わした約束。

どれも、どれも、美しい。


ぞくぞくさん──静寂の前菜

最近の人間? まぁ、味が落ちた落ちた!

“喜怒哀楽”がファストフード化していて困りますわ。

本当に。


それでね、ちょっとだけ、仕掛けてみたの。

SNSに、“名前だけ”を流して。

ぞくぞくさん。──うふふ、あの子、可愛かったでしょ?


動画なんて要らないのよ。名前だけで、感情は伝播する。

みーんな怖がって、バズって、止まっていった。

話さず、動かず、考えなくなる。

“最高の沈黙”の完成!

ええ、それはそれは見事なテーブルセッティングだったわ。

すべての感情を美味しく頂きましたわ。ごちそうさま


ナズナ──未完成の最高級

そして、近頃でいちばんの“興味深い素材”……ふふふ、

その名は、ナズナ。


あの娘、ひどいのよ。

どこをどう味見しても、何一つ完成していないのに、

どの部分にも、可能性が詰まっている。


その眼差し、歩き方、声の揺れ方──

全部、未完成の“前菜”だというのに、

香りだけで涙が出る。


わたくし、まだ彼女に指一本触れていないのよ?

でも、あの子が世界に放つ“波長”、それだけで酔いそう。


感情の塊。希望の試作。反響の器。

ナズナは、わたくしがまだ一度も味わったことのない“本物のフルコース”の気配を纏っている。


──だから、そっと狙っているの。

あの娘を壊してしまわないように。

熟しきった、その瞬間。

涙と絶望と、誰にも届かない答えが、

彼女の口から放たれるその瞬間。


……その“感動”、わたくしが、いただきますわ。


技の発動──女神の美食術

オーディエンス・ゼロ

すべての物語が無意味になる劇場を開きましょう。

誰もあなたを観ていない。

だからあなたは、最も美しい。


ファンタズム・エンド

希望? 嘘? 夢?

ええ、壊しましょう。

嘘が割れる音は、甘くて、とろけて、

まるで焼きたての砂糖菓子。


グランド・ティール

あなたが最も輝いた瞬間に、

わたくしが微笑んで、こう言って差し上げる。

「そのまま、止まっていてね」

そして、あなたは永遠になる。


終宴に向けて

あら……涙が出てきた?

安心して。嬉しいときに泣くのが人間よ。

でも、わたくしは──


“嬉しいときこそ、食べたくなる”の。

ああ、ナズナ……

あなたが笑って泣く瞬間を、

わたくしの皿にのせる日が、待ち遠しいわ。


それまでせいぜい、感情を育てておきなさいな。

あなたのすべてが、

わたくしの“最後の晩餐”になるのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ