キミが私の全てだった
大学四年生の春、夕焼けの映える海辺の公園で何の捻りもなく想いを告げてくれたキミ。その真剣な想いに付き合ってあげても良いって思えた。
「静が俺の全てなんだ」
あの時の告白はちょっと気持ち悪くて同時にむず痒かったな。
そんな思い出の公園でキミは私に話があるの? 期待しても良いよね。そう思ったのに……自分から告白しておいてそれはないでしょ。
「なあ、俺たちもう別れないか?」
「……どうして?」
「俺といる時、楽しそうに見えないし――静にはもっと良い出会いがあるよ」
「……そう」
もっと良い出会いがある……か。無責任だ。私のことを考えて言ったようなフリをして――私に飽きたんだね。愛想のない私に。冷たいって言われがちな私に。キミの想いはその程度だったの?
「じゃあ、そういうことだから」
「うん」
立ち去る彼の姿が堂々として見える。私はそんなに嫌われてたの? 言いたいことはいっぱいあって……あり過ぎて言葉が渋滞して詰まった。ねえ、そのいつもよりオシャレした服はこれからどこかに行くためのものなの?
海に沈む太陽の光が哀愁を感じさせる。私はキミを好きなってあげても良いって思っていたのに、好きだったのに……。公園で遊ぶ子供の声がどこか遠い世界で響いている。私は世界から取り残されたみたいだ。
どうやって帰ったのかなんて知らない。気づいたら、家の中にいてキミの面影のあるコップや服を目の前の机に並べていた。キミのコップを指でなぞって問い詰める。
「ねえ、私の何が足らなかったかな?」
力んだ指はコップを倒して椅子のクッションの上に転がり落ちていく。拾い直すのが億劫でキミの初めてくれた安物のネックレスが目に入った。
「ねえ、好きな人ができたの?」
見た目だけは綺麗なネックレスは中身が安物だって分かっているだけに胸に堪える。キミの想いもメッキだけだったの? それに私は騙されたの? あの時の気持ちは本物だよね。
机の中央に置かれたダサいワンピースが笑っている気がして問わずにはいられなくなった。
「ねえ、キミの想いはその程度だったの?」
肯定するようにワンピースのダサさが際立って見えた。その服、私に似合わないもん。貰った時は嬉しかった。それがどれだけダサくても良かった。それが別れた後には……キミの想いがなかったことを象徴しているみたい。
キミが私よりも幸せになるなんて……許したくないよ。許したく……ないんだ。
彼の来ていたこの家には私以外にもう誰もいない。目が玄関を眺めてキミが来るのを心待ちにしている。キミがくれたものも、思い出も、私の想いも、全部――捨てられたら良かったのに……頭に浮かぶキミの笑顔が邪魔をする。
ねえ、どうして笑顔なの?




