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7、ダンジョンコアの形成

 案内の女性は、さっさとテントの中へ入っていく。


「はぁあ〜、暑いわぁ。やだやだ、早く終わらせちゃおっ。冷たいかき氷でも食べたい気分だよぉ。あっ、こっちね〜、早く来てくださいですよぉ〜」


「あの、その話し方、やめてくれませんか。見た目と言葉遣いがチグハグすぎて、違和感しかありませんよ」


 僕は、イラつきが限界突破してしまい、思わず文句を言ってしまった。それでも一応、話し方には気をつけたつもりだ。本当なら、ギャルの真似してんじゃねぇぞ、くそババア! くらいのことを言いたい気分だ。


(なんか、おかしいな)


 僕は我慢強い方だ。だからこそ、異世界では魔王達と上手く付き合えていたはずだが……。


(なぜ、こんなにイラつく?)



 テントは、10人程度がゆったり休めるほど広かった。中央には、その存在を隠すかのような目立たない岩がある。いや、土の台座か?


「この台にぃ〜、ボールのプロテクターをセットして、手を置いてくださぁい」


(僕の指摘はスルーかよ)



 僕は、土でできた台の上に、ふにゃふにゃのテニスボールみたいな物を置き、案内の女性の大袈裟な身振り手振りに従って、手をかざす。


 すると、身体の中を何かが駆け巡る感覚の後、手からテニスボールに魔力が移っていく。


(ダンジョンコアの形成か)



 何の説明も受けなくても、マナが教えてくれる。


 この台は、ダンジョンコアを形成し、ダンジョン全体のエネルギー調整機能を有する魔道具のようだ。


 テニスボールが台に吸い込まれるように消えた。ここを核としてこれから形成されるダンジョンを守るために、足元に広がっていくのを感じる。見た目はテニスボールだったけど、不思議な物質だな。


 このダンジョンをどう育てるべきか、僕の考えを知ろうとする意思のようなものが伝わってくる。


『ケント、また遊ぼうねっ!』

『せっかく勢力争いを楽しむ機会なんだぜ?』


 僕の心の中にあった記憶を、何かが探ろうとしているらしい。赤の魔王ラランと蟲の魔王アントの声が蘇ってきたのは、転生予約の回路のせいか。


 もし魔王ラランがこの世界を見たら、何と言うだろう? 引き止めてくれた魔王アントは、こんなことなら戻らない方がよかったと嘆くだろうか。


 今の深刻な状況を、僕はまだ完全には理解できてないと思う。バスでの短い旅で、大きな衝撃を受けた。それに、時空がズレてしまったから、もう僕の家族や知り合いに会えるとは思えない。


 僕は、何のために戻ってきたんだ?


 だが、逃げるわけにはいかないか。


 帰還者を希望だと何度も言っていたあの女性の言葉、あれは彼女の心からの叫びだと感じた。


 今、こんな砂漠化した世界で暮らす人は、僕が知る日本を知らないだろう。しかも、あんな薬みたいなものが人気の弁当だなんて、あまりにも不憫ふびんだ。


 コンビニに行けば、いつでも何でも手に入る。そんな当たり前の世界を知らないんだ。僕がダラダラしていたあの頃と同じ21世紀なのにな。



 ガタン!


 何かが開くような大きな音がした。その次の瞬間、僕が手を置いていた台が、スーッと地面に吸い込まれるように消えていった。




「お疲れ様でした。まだ立っていられるかしら?」


(ん? 話し方が変わった)


「別に問題はありませんが? やっと話し方を変えてくれたんですね。その方がいいと思いますよ」


 僕がそう言うと、案内の女性はニヤッと笑った。


「私は、別にギャルの真似をしていたわけじゃないわよ。誰が、くそババアですって? まぁ、面白かったけど」


「はい? あっ、心を覗くスキルですか。やはり帰還者なんですね」


「少し違うわね。私が使っていたのは、精神支配系の術よ。だから、あの二人は素直に従ったでしょ? 私と同等の相手には効かないんだけどね」


「精神支配? だから僕は妙にイラついたのか」


「そうみたいね。それに話し方は変えてないわよ? ギャルのように聞こえたなら、それはキミのレジスト失敗じゃない?」


「今は、普通に聞こえるということは、術を解いたんですね。ただの案内なのに精神支配を使うなんて、どうかと思いますよ」


 僕が言い過ぎたのか、彼女は少し表情を歪めた。


「術は解いてないわ。キミが主人あるじになったから、迷宮が私の術を破ったのよ。さっきは同等と言ったけど、訂正するわ。キミは実績を偽っていたわね? キミの方が私よりも上位種だわ」


「上位種って……同じ人間ですよね?」


「何を言ってるの? 帰還者は異世界人よ。あぁ、人工物は、ただの人間だけどね」


(えっ? 人間じゃないってこと?)


 僕の驚きが、顔に出たらしい。いや、心を覗いたのか。彼女は、ふふんと勝ち誇ったような笑みを浮かべている。



「自己紹介しておくわ。私は、本条 佳奈。迷宮特区の案内責任者をしているの。異世界では、光と闇を操るシャーマンとして神扱いされていたけど、戻ってきて身の程を知ったわ。あっ、言っておくけど、この姿は本当の私ではないから。とある迷宮で呪いを受けてしまったの」


「シャーマンって聖職者でしたっけ? 呪いは弾けるんじゃ?」


「だから、身の程を知ったと言ったでしょ! あの迷宮のボスの術は、弾けなかったのよ。だから今、姿を戻す方法を探しているの。キミは私より上位種なんだから、何とかしてよね」


「そのボスを倒せば、呪いは解けるんじゃないんですか」


「倒せないって言ってるでしょ! 私がこんなにお願いしてるのに、意地悪ね」


「本条 佳奈さん、全くお願いになってませんよ?」


「なぜフルネームなのよ! カナちゃんでいいから」


「はぁ、それで、僕の案内はこれで終了ですか、カナさん」


「カナちゃんよ!」


「いや、どう見てもアラフォーの女性にそれは……」


「私は戻ってきたときは、15歳の姿だったわよ!」


「じゃあ、今は?」


「15歳よ!」


「戻ってきたばかりじゃないですよね?」


「5年くらい経ったけど、帰還者は見た目は変化しないから、死ぬまで15歳なのよ!」


「それで、カナちゃん、ですか」


「ええ、その呼び方を忘れないようにね。じゃ、キミの迷宮を見せてもらおうかしら」


「見るんですか?」


「当たり前でしょ! 私はキミの案内担当なんだからね」


(あっ、階段だ)


 テントの奥には、いつの間にか、下へ降りる階段が出現していた。


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