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4、帰還者のチカラ

 バスが停車している場所から数百メートル離れた右側の砂漠では、派手な戦闘が始まった。


 勇者だったというユウジさんは、剣を両手に持って、次々とモンスターを斬り倒していく。さすが戦い慣れている感じだな。


 そして、女王だったというユキナさんは、機関銃のようなものを大量に空に浮かべ、モンスターを一掃している。あんな魔法は見たことがない。錬金術なのだろうか。


(ん? 陽動か?)



 僕が感知した妙な魔力反応は、このバスの前方にある。意図的に魔力を隠すような不自然さを感じた。


 その何かは、派手な戦闘と停車中のバスを、交互に見ているような気がする。目では何も見えないが、ネットリとした不気味な感覚が伝わってくる。



 地下ダンジョンは崩壊をキッカケに、様々な法則が変わることも珍しくない。僕がいた異世界では、崩壊時に作動する、複数の出口を追加する魔術を仕込んであることも多かった。


 帰還者である主人あるじを失ったダンジョンが崩れ、中のモンスターが溢れている状態を、ユキナさんはスタンピードと呼んでいたんだな。


 普通、ダンジョンには、ボスモンスターがいるはずだ。その知能や個性はバラバラだけど、帰還者である主人の死後、その主人の魂を喰って進化するモンスターがいてもおかしくはない。


(やはり、陽動だな)



 今、二人が戦っている場所は、ダンジョンの出入り口があったのだろう。崩れるダンジョンから逃げ出そうとして、弱いモンスターが溢れ出ている。


 だが、崩壊程度ではダメージを受けないモンスターには余裕がある。人間が目に見えるモンスターに挑んでいく光景を観察し、今、まさに学習しているのか。


 主人の縛りから解き放たれた今、狩りを楽しもうとするか、もしくは人間を恨んでいるなら……。


 そんな僕の考えを読み取ったのか、奴は、じわじわと近寄ってくる。今、一瞬、僕が恐れたからか。死霊系は苦手なんだよな。


(でも、放置はできないか)




「僕も行ってきます。他にも出入り口があるようです。この道の前方から、近寄ってくるモンスターがいますから……」


「えっ? 何も見えないですよ」


 バスの中にいた運転手と案内の女性は、慌て始めた。


「僕が出て行ったら、扉をロックして、バリアか結界を稼働させてください」


「バスに、そんな仕様は備わっていません。強化ボディになっていますが」


「じゃあ、僕が簡単な保護バリアをかけますね。ボールは座席に置いておいても、いいですか?」


「はい、プロテクターは座席に。あ、あの、バリアを張るために体内のマナを消費されると……」


(ダンジョンコアの心配か)


「バリアをかけておかないと、たぶん喰われますよ? 相手はおそらく、亡くなった主人の魂を喰った死霊系のモンスターです。車体をすり抜けて入ってきますよ」


「ひっ! お、お願いします! あ、あの、剣は?」


「剣はあります、では」




 僕は、バスから降りた。


(暑いじゃなくて、熱いな)


 さすがにジャージのままというわけにもいかない。大気中にマナがないから、体力が削られる。


『モードチェンジ! 簡易武装!』


 心の中でそう命じると、僕の服が変わる。異世界でいつも着ていた軽装だ。この方が落ち着くね。


 異世界で使っていたチカラが、どの程度通用するかを試したいけど、ここでは無理か。他のダンジョンに悪影響が出ると、責任問題になりそうだ。


(あっ、バリア、バリア)


 僕は魔力を放ち、バスに思念傍受阻害のバリアを張っておいた。バスの中にいる人間の心の声が聞こえなければ、奴には、正確な位置がわからないはずだ。


(あれ?)


 奴は、僕のことも見失ったのか、戦闘中の二人の方へと方向を変えた。



『異空間収納! 剣!』


 心の中でそう命じると、アイテムボックスが問題なく表示された。ズラリと並ぶリストの中で、2つを目線で指定すると、僕の両手に2本の剣が現れる。


 白の魔王フロウが言っていた通り、アイテムボックスは使えた。だが、魔法袋は開かなくなると言われたから、赤の魔王ラランに譲り渡してきたんだよな。こんなときに便利な、死霊封じ系のアイテムがあったんだけど。


(後悔しても仕方ないか)



 右手の剣を高く掲げる。そして、闇属性の光を纏わせて空へと放つ。


 ボンッ!


 スーッと上がった闇属性の光は、弾けて空に広がる。空を覆う巨大な死霊の姿が、肉眼で見えるようになった。


(そういうことか)


 奴は、食事中だ。二人に狩られた他のモンスターの魂を喰って、ぶくぶくと巨大化していく。


 僕がイメージしていたモンスターとは違った。コイツは、知能は高くない。今は、ただの暴食死霊だ。人間の魂を喰い始めると、進化するだろうけど。




「ちょ、な、何?」


「なんじゃこりゃ」


 僕が奴を追っていくと、二人は空に広がる死霊に気づいたみたいだ。


「ダンジョンのボスだと思います。暴食状態だから、このままだと、生きた人間の魂を喰うモンスターに進化してしまいます」


「あ? 誰かと思ったらケントか。服が変わってるやんけ。それにそんな剣、バスにあったか?」


「僕の私物ですよ。奴を封じるか、もしくは……」


「ケントさん、こんな強大なエネルギーを持つアンデッドの封印は不可能よ。私が焼き払うわ!」


「あっ! 火はダメです! あー……」


 ボンッ! ボンボンボン!


 近くを漂っていたモンスターの魂が、爆発した。そして次々と連鎖していく。これだから、食事中の死霊は嫌なんだ。


「クッ……」


 連続する爆発で、ユウジさんが吹き飛ばされた。



「ご、ごめんなさい。死霊本体に術が届かないわ」


「魂が並んでいますからね。盾にしているつもりはないでしょうが、こうなります。封印アイテムがないので、放り出しましょう」



 僕は、左右の剣に、次々と属性魔法を纏わせていく。


「な、何をするの? 一体、何属性持ちなの」


「コイツを強制転移させます。今は時空が乱れていると聞いたから、それを利用しますよ」



 ゴウゴウと様々な属性が渦巻く剣に、奴が気づいたみたいだ。だが、もう遅い。僕は二つの剣を重ね合わせて、術名を念じる。


『ブラックホール!』


 剣から放たれた無数の色の光が、次々と奴を包み、辺りは真っ白に染まった。


 その直後、黒い光に反転すると、キューっと光は小さくしぼんでいく。やがて点となり、音もなく消え去った。



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