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3、勇者と女王、そして魔剣士

「わけわからんわ」


 大学生っぽい人が、小声で呟いた。心の声が漏れたみたいだな。


「それは当然のことです。異世界からの帰還者である皆さんには、迷宮を造り育てていただく義務があります。今日は、そのことだけを知っておいてください」


「は? 義務やと?」


「そうです、義務です。ひと月後に、第3階層まで育てた方を対象にした説明会があります。詳しい話は、そちらで聞いていただきます」


 これまでとは違って、ピシャリと強い口調で言われると、僕達は何も反論できなくなる。



 今が2099年なら、この女性は僕達から見れば未来人だよな。帰還者の叡智という言葉が何度か使われた。彼女は帰還者ではなく、この高熱化した日本で生きてきたのか。


 気候が変化して砂漠化したとか、各地に数多くの帰還者迷宮や企業迷宮があるとか、他にもいろいろな話を一気に聞かされて、僕達は混乱した。


 だけど今、バスが走る音しか聞こえない静かな状態になると、少しずつ理解できるようになってきた。


 窓から見える景色は、茶色に染まっている。この辺りは、大阪だろうか。信じられなかった話が現実なのだと、実感させられる。



 しばらくすると、一定の間隔でテントのようなものが、見えてきた。まるで集落を形成するように、いくつも点在している。ただのテントではなさそうだけど。


 しかし、わからないことが多いな。地上が暑くなったら、普通なら地下都市を造るだろう。それなのに、なぜ地下迷宮なんだ? そもそも台風くらいで、なぜ地下まで被害が及ぶ? 浸水を防ぐ技術くらいありそうだけど。


 あっ、もしかすると台風の熱風は、赤の魔王ラランが吐く炎の息に近いのだろうか。


 そう考えると、地下都市を造っても熱風で壊されることは、容易に想像できる。魔王ラランの炎は、地中深くの岩まで溶かしていた。さすがに、あそこまでの威力はないだろうけど。




「ちょっといいかしら? 人工コアというのは、回転レーンを流れていた金属塊のこと?」


 今まで全く話さなかった20代前半くらいの女性が、口を開いた。かなり不機嫌そうに見える。


「はい、そうです。プロテクターは帰還者にしか扱えないため、多くの方々が異世界研修に参加しています。ですが、目立つ実績のない研修生では、ダンジョンコアを形成できません。そのため、人工コアを埋め込んだプロテクターが開発されました」


「そう。私達にはダンジョンコアの元となるマナがあるから、ボール状の素材だけなのね。これは迷宮プロテクターかしら? それともコアプロテクター?」


「その両方の役割が可能です。ボール自体には、術は組み込まれておりません」


「ふぅん、帰還者の能力に合わせるだけの仕様にしたのは、賢明な判断だと思うわ。だけど、改良の余地があるわね」


「はい、帰還者の叡智は、日々磨き上げられています。是非とも、お力をお貸しください」


「それなら、義務だなんて言わないことね!」


「は、はい、申し訳ありません」


(こ、こわっ)


 20代前半くらいの女性がそう言うと、案内の女性は、表情を引きつらせて深々と頭を下げた。



 難しい話だったが、金属の塊を取っていた人達が、その研修生だということはわかった。


 意味不明なプロテクターの話は、スルーで良さそうだな。そのうち説明会があるみたいだし、ダンジョンを育てられなければ、その説明会にも呼ばれないみたいだ。




「どこまで行くんや? 高速はないんか」


 大学生っぽい人が、変なことを尋ねた。台風直撃で西日本がほぼ破壊したと説明を受けたのに、忘れたのか。まぁ、迷宮特区の場所を聞きたいのかもしれないけど。


「滋賀県にある迷宮特区に向かっています。地下には高速道路がありますが、常に渋滞しているので、地上を走る方が速いのです」


(あるんだ、高速道路)


「なんで、皆は地上を走らへんねん。暑いからか?」


「地上は、特殊な車両しか走行できません。また、たまに、崩壊した迷宮からモンスターが溢れてくることがあるため、一般人が地上を車両で移動することは自殺行為です」


「ちなみに崩壊したダンジョンって、アレのことか?」


 彼は、僕とは逆の、右の窓の外を見ている。


「あっ! 新たな崩壊ですね。非常事態警報を出します」


 すると、20代前半くらいの女性が立ち上がった。



「ジッと乗っているのも疲れたから、少し身体を動かしたいわね。あの程度のスタンピードで警報だなんて、大げさでしょ」


(スタンピードって何? あっ、大氾濫?)


「この付近は、古い天然コアの帰還者迷宮が集まる危険区域です。崩壊は、迷宮の主人の死後に起こるため……」


「プロテクターを使ってない時代のもの?」


「はい、そうです。なので……」


「ふふっ、じゃあ、少しは楽しめるかしら? バスを止めて。アナタ達のチカラも見たいわね」


「協力して欲しいんやったら、そう言えや。バスに剣はあるんか?」


「あります! ただ、お気に召すかは……」


 運転手はバスを止め、前方の座席を倒した。すると、まさかの大量の武器が積まれていた。



「しょぼい武器ばっかりやな。無いよりはマシか。おい、ガキも手伝え。あぁ、簡単に紹介しとくわ。俺は、山田 悠二。異世界では、魔王を討伐した勇者ユウジ様や。ユウジと呼んでくれ」


(えっ? 勇者!?)


 大学生っぽい人に続き、20代前半くらいの女性も口を開く。


「私は、川上 由希奈。ユキナでいいわ。異世界では、錬金術に優れた小国を継いで女王となった。錬金術とは言っても、アナタ達の知る術とは違うと思う。基本的には魔導士だと思ってくれていい」


(女王様か。ちょっと納得)



 二人の視線が、僕に向いた。慌てて口を開く。


「僕は、五十嵐 健斗です。異世界では、ケントと呼ばれていました。お二人のようなすごい実績はありません。魔剣士です」


「魔剣士? 何やそれ?」


「勇者ユウジ、そんなことも知らないの? 魔剣士が存在しない世界だったのね。剣に魔力を纏わせて戦う剣士の総称だけど、その能力の範囲は個人差が大きいわね」


「一般冒険者ってことか。それなら、ケントは無理せんでええ。ユキナ、行くで」


 二人はバスから飛び出すと、右側の砂煙を目指して、すごいスピードで駆けて行った。


(あれ? そっちに行くの?)



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