21、階層ボスについて
幽霊屋敷のようなこの建物には、扉が二つあるようだ。1階層にある丸太小屋よりかなり広いけど、なぜ扉が二つもあるんだ?
コンコン!
「五十嵐さん、居るよね?」
(なぜわかる?)
僕は、扉を開く。
(居住区?)
扉の先には、高い建物が見えた。
「やっぱり、社だったのね。階段の下に門があったから、そうだとは思ったんだけど」
「門ですか?」
「あれ? 門は勝手に出来たのかな。街からはわかりにくい場所になってる。昔の神社みたいな建物よ」
僕は、天井からの視点で、この場所を見てみた。
確かに、居住区へ降りてくる階段の下に、鳥居らしきものがある。カナさんが言うように居住区側からだと、この幽霊屋敷は、神社にある本殿っぽく見える。
(そういうことか)
ダンジョンコアを守る社は、居住区の外壁沿いに建てられている。僕が行き来しやすいように、階段近くに位置しているんだな。
扉が二つあるのは、モンスターがいるエリアと居住区の、それぞれの出入り口ということだ。
「居住区外からも出入りできるのね。だからキミが社に入るまでは、この神社が見えなかったのかぁ」
「モンスターがいる中を通って、ここまで来ましたよ」
「そう。じゃあ、私もそっちに行くわ。モンスターの数は多いかしら?」
「まぁ、それなりに。ダンジョンコアの確認なら、入ってもらっても大丈夫ですよ」
そう言ってみたが、カナさんは首を横に振っている。
「結界があって入れないわ。迷宮は踏破していない者を排除するのよ。報告も必要だから、ささっと回ってくるわ」
カナさんは、パタンと扉を閉めると、参道っぽい道を戻っていく。
(大丈夫かな?)
まぁ、比叡山に彼女のダンジョンがあったなら、お化け屋敷状態でも平気か。
『マスター、階層ボスが完成しました』
ダンジョンコアの台座に、銀色の猫が戻ってきた。
「お疲れ様。随分と生き物っぽくなったね。銀色なのは変わらないけど、シャム猫みたいで綺麗だよ」
『ありがとうございます! マスターのイメージが美しいので、私もこのような姿に変わりました。とても動きやすいです』
「そっか。よかったよ。えっとボス部屋は、突き当たりの岩壁のところかな? まだ下の階層はできないのに、もうボスを創ったのか」
『はい、まだ3階層への階段は出現していませんが、2階層のボス部屋を完成させました。階層ボスがいる方が、その階層のモンスターの復活が早まりますから』
「へぇ、そうなんだ。というか、思いっきりお化け屋敷になってるよね。何か意図があったの?」
僕は、文句を言うつもりはないが、その理由があるなら聞いておきたかった。きっと、カナさんに質問されるはずだ。
『この階層には、マスターが安全な住居をと願われていたので、弱い人間が降りる階段を間違えても、死なないように設計しました』
「なるほど。確かに、幽霊や火の玉には、殺意はなかったな」
『はい、この階層のモンスターは、人間の恐怖心をエサにしています。火の玉は、迷い込んだ人間を階段に案内する役割を備えています』
「えっ? 迷子係なの?」
『はい、帰りたいと泣き叫ぶと、階段に誘導します。迷路になっているので、案内がいないと帰れない人間が出ると考えました』
「すごいね、完璧だよ。だけど幽霊の倒し方を、なぜ、わっと脅かすことにしたんだ?」
『脅かす側が脅かされると消える、という仕様は他の迷宮にはないので、面白いと考えました。マスターの記憶の一部からお借りした仕様です』
(そんな経験、あったかな?)
古い記憶かもしれない。もしくは映画か何かだろうか?
「おかげで、ちょっと焦ったよ。まぁ、倒せなくても、ボス部屋には来られるよな?」
『はい、全く倒せなくても、階層ボスにたどり着くことは可能です。マスター、後で、階層ボスとの対戦をお願いします』
「あぁ、わかった。その理由は何かある?」
『階層ボスは、学習します。マスターとの対戦経験がないと、自分が強いのだと勘違いして、迷宮に逆らうことがあるのです』
「なるほど、そういうボスが、主人の死後、様々なことをやらかすんだな。比叡山迷宮には、モンスターが主人になっているダンジョンもあるんだってね」
『はい、階層ボスは、外を彷徨う魂をスカウトしてくることがあるので、迷宮の主人になれます。モンスターの姿をしていても、元は人間です』
「えっ? 人の魂を使ってモンスターを創っているのか」
『何かの理由で、生まれ変わりができない魂です。迷宮がその魂を利用することが救済に繋がると、帰還者の多くが語っています。マスターのお考えは、異なりますか?』
(あれ? 珍しく質問だな)
生まれ変わりができない魂か。僕がいた異世界では、何かの罰を受けてアンデッドになるか、呪いによる制約があると生まれ変われなかったっけ。
ただ、どちらも、何かの術がかけられていたわけで、魔法もマナも存在しない日本では……。
「もしかして、呪縛霊ってこと?」
『はい、そういう表現もあります。モンスターとして新たな生を与えることで、その役目を終えた後は、生まれ変わりが可能なはずです』
「それで、救済だと言ってるんだな。ただ、僕としては、強制はするべきではないと思う」
(ん? 何?)
銀色の猫は、明らかにホッとした顔をしている。もしかして、この階層のボスは……。
『はい、この階層のボスは、適当に捕まえた魂ですが、その魂が望む姿を与えました。マスターならそうお考えになると、推察しました。魂を使うこと自体に反対する主人もいるので、少し不安でしたが』
「そっか。まぁ、本人が望む姿なら、いいんじゃないか? でも、ダンジョンで何度も殺されるのは気の毒だな」
『迷宮内のモンスターは、致命傷を受ける前に消える仕様に設定しています。マスターが、死の苦しみに対する嫌悪感をお持ちなので、調整しました』
「すごいな。ウチのアンドロイドは優秀だ」
『はい、マスターが優秀なので、アンドロイドも綺麗で優秀になります』
(綺麗が追加されてる)
そっと頭を撫でると、アンドロイドは本物の猫のように、気持ちよさそうに目を細めた。
ドンドンドン!
「五十嵐さん! 大変だよぉ」
しばらくすると、幽霊屋敷の扉から、カナさんの泣きそうな声が聞こえてきた。




