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2、帰還したら意味不明なことになっていた

『ようこそ、小豆島第3帰還ゲートへ。帰還者の皆さんは、プロテクターを選び、次の部屋へ移動してください』


(小豆島?)


 異世界から戻ってくると、そこは、ガランと広い博物館のような建物の中だった。何度も同じアナウンスが流れている。


 元の高校に戻ると思い込んでいた僕は、一瞬、思考停止していた。こんな建物が造られるほど、異世界からの帰還者が多いということか。


 しばらく様子を見ていると、パラパラと人が現れ、皆、アナウンスの指示に従っていく。僕も、その流れに従って進んだ。


(こういうとこって日本人だよな)


 異世界では、列に並ぶなんてことはなかった。帰ってきたんだと実感する。




『お好みのプロテクターをお選びください。適合しないものは選択できません』


 回転レーンのような物に近寄ると、新たなアナウンスが聞こえてきた。プロテクターの意味はわからないが、皆は、金属の塊を取っている。


(意味不明だな……)


 この建物内で、防具でも作るのか? いや日本だし、ありえないか。僕の頭の中からは、まだ異世界ファンタジーが抜けていない。


 適当に手を伸ばしてみたけど、なぜか金属の塊は、僕の手をすり抜けていく。これが、適合しないということか。他の人達も、つかめる物を探しているようだ。



「全部スルーするけど、どないなっとんねん!」


 回転レーンに手を伸ばす大学生くらいの男性が、近くにいた係員に対し、大声で怒鳴っていた。近寄りたくないタイプだな。


 だけど僕も、彼と同じ状態だった。どの金属の塊も、手に触れない。



「ボールも流れてきます。お試しください」


(ボール?)


 何かの専門用語かと思ったら、本当にボールが流れてきた。手を伸ばしたが、やはり触れない。


 大学生っぽい人は、さっき僕が触れなかった、ゴム製のバスケットボールみたいなものを取ったようだ。


(あっ! やっと触れた)


 僕が取ったのは、軟式テニスで使うゴムボールのようなものだった。いや、もっと柔らかいか。


 これで身を守ることができるとは思えない。プロテクターが防具だというファンタジー脳は、ここで消えたな。




『プロテクターが示す扉の先へ移動してください』


 ゴムボールを握ると、別のアナウンスが聞こえた。僕の進むべき扉が開いて見える。他の人達は、左や右の扉の先に行くのに、僕は真ん中の扉らしい。


(危険者の選別か?)


 回転レーンでプロテクターを選ぶという無駄な時間は、能力サーチのためだと考えると納得できる。異世界からの帰還者は、異能力を持って帰る者も少なくないはずだ。


 僕は魔剣士だったから、派手な魔法は使えない。でも、地球に戻っても異世界で得た能力は消えないと、白の魔王フロウが教えてくれたっけ。




 真ん中の扉の先は、長い通路になっていた。ガラス張りだから、他の扉を通った人達の姿も見える。


(僕だけ?)


 この通路の先が、牢屋だなんてことはないよな? 


 しばらく歩くと、左右どちらの通路を歩いていた人達も、部屋に入った。だが僕の通路は、まだ先に続いている。


(嫌な予感……)


 左側の部屋は、船着場になっているようだ。順に、大きな船に乗り込んでいく。右側の部屋は、飛行場か。


 僕が歩く通路の先に、バスのような車が見えてきた。僕の知るバスとは、雰囲気は違うけど。


(あっ、あの人……)


 さっき怒鳴っていた大学生っぽい人が、バスに乗り込むのが見えた。もしかすると、帰宅先別に振り分けられたのかな。


 あの人は明らかに関西の人だろうし、僕は関西生まれじゃないけど、大阪の高校に通っていた。小豆島からだと、フェリーで帰れる。フェリー乗り場までのバスだろうか。



 ◇◇◇



「今日は3人ですね。出発します」


 バスに乗ると、さっきの大学生だけでなく、20代前半くらいの女性もいた。服装は転移したときの物に戻っているから、ジャージ姿の僕だけが場違いな気がする。



「皆さんはボールでしたよね? プロテクターを見せてください」


 バスが走り始めると、バスガイドのような女性が、にこやかに話しかけてくる。その要求に応じて、僕達はボールを見せた。


「はい、ありがとうございます! 皆さんはこれから、迷宮特区へご案内します」


(迷宮特区?)


「意味わからんで。何を言うとんねん」


 大学生っぽい人がすぐにツッコミをいれた。こういうときの関西人って、頼りになる。



「順にご説明します。あっ、橋が見えてきましたね。まずは、窓を開けてみてください」


 そう言われて素直に窓を開けると、強烈な熱風が吹き込んできた。窓から見た海の色がおかしい。茶色く濁って見える。そもそも小豆島から海を渡る橋なんてないはずだ。


「なんや? 真夏にしても暑すぎるで」


「これが今の気候です。これでも、海にかかる橋の上は涼しいのです。今は2099年2月、真冬です。2070年には高熱化が進み、地上に住めなくなりました。2080年前後に複数の台風が直撃したことで、西日本はほぼ壊滅し、地上は砂漠化しています」


(はい?)


「は? 俺は、2024年に異世界転移して、10年も経たんうちに戻ってきたんやで? 高熱化なんか知らんで」


「僕は、2019年に異世界転移して、数年で戻りました。西日本に住んでいた人は、亡くなったんですか」


 僕も思わず、会話に参加してしまった。


「高熱化で時空に歪みが生じているため、異世界転移が影響を受けているようです。帰還者の叡智により、多くの命が救われました。多くの人が、安全な地下迷宮に住みたがっています。皆さんには期待しています」


「迷宮って、ダンジョンのことを言うてんのか?」


「はい、そうです。企業迷宮では、大きな台風が来ると被害を受けます。だから、ダンジョンコアを持つ帰還者に、安全な地下迷宮を造っていただきたいのです」


「ダンジョンなんて、人が造るもんちゃうで」


「帰還者の叡智により可能となりました。各地に数多くの帰還者迷宮があります。ですが、人工コアではもろく、すぐにモンスターの巣窟となり、閉鎖に追い込まれます。皆さんのような、ボールのプロテクターを扱える帰還者は、私達の希望なのです!」


(意味不明すぎる……)


 僕の頭は、チリチリしてきた。


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