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196/409

196、ビィ達のナワバリ争い、もしくは暴走

 ボス部屋でしばらく待っていると、音もなく右側の扉が開き、人の姿をした眷属けんぞくの彼が戻ってきた。


「お疲れ様。大丈夫? どこか調子悪いとかはない?」


「はい、不思議な体験でした。大丈夫です。何かに覆われていて、目の前にいるモノの識別ができませんでした。声も理解できるはずなのに、知らない言語に聞こえました」


(へぇ、そうなんだ)


 白い猫に視線を向けると、ドヤ顔をしている。眷属の彼を上手く階層ボスにできたようだな。



「じゃあ、僕がいるとわかったのは、復活してから?」


「いえ、戦っているうちに、わかってきました。戦闘開始時は、私は、不思議な強制力に操られるように動いていました。ですが、戦闘相手の行動が予想外のときは、強制力が弱まる瞬間がありました」


「それで、自我が戻ってきたのかな。確かに、キミの動きは、特徴的なビィの動きだったけど、戦闘センスの良さを感じたよ。架空のステイタス以上に、強い階層ボスだね」


 僕達が話していると、白い猫は外の様子を気にし始めた。ボス部屋の中にいるから外の様子は見えないが。




「マスター、討伐後の転移魔法陣が消えても構いませんか?」


「あぁ、横の扉から退出すると、消えるのかな。外で何かあった?」


「はい。私の分身が一つ、潰されました」


「えっ? 銀色の猫が?」


「はい。ボス部屋内に入ると、外の様子がわかりにくいため、近くに分身を配置していましたが」


「何が起こったのかな」


「わかりません。ですが、この小屋の近くにいる何かが襲撃を受けています。私の分身は、その巻き添えになりました」



「すぐに外に出よう!」


「ケント様、私の出入り口は、こちらです」


 眷属の彼は、さっき出てきた扉へと僕を誘導する。


 その扉の先は、何もないガランとした広い部屋だった。これから、彼が自由に改装するだろう。


 左側の奥に扉があった。それを開けると、丸太小屋の裏側に出ることができた。



「正面の方です!」


 眷属の彼が、僕を先導するように素早く歩いていく。


(はい? どういうことだ?)


 整然と整えられていた庭園は踏み荒らされ、プンと特殊な青臭い臭いがした。この臭いは、ビィの血か。




「何をしている!」


 眷属の彼は、襲撃者達を怒鳴りつけると、剣を抜いて、駆け出した。だが、僕は立ち止まって小屋の陰に隠れる。


(そういうことか)


 白い猫は、オロオロしている。自分が何か失敗したと思っているらしい。



「慌てなくて大丈夫だ。これはビィのナワバリ争いだよ」


「私は、何を間違えたのでしょうか。階層モンスターが、ボス部屋を襲撃するなんて」


「間違えてないよ。たぶん、ボス部屋の使用人が自然発生したからだよ。僕が追加してしまったんだと思う」


「えっ? あっ、そういえば、攻撃されているのは、向こう側に創った住人ではないみたいです。あれ?」


 白い猫は、混乱しているみたいだな。


「キミが階層ボスを調整するのを待っていたら、異世界での記憶がよみがえってきたんだよね。気づいたら、普通のビィが、花の蜜を集めていた」


「マスターが、創ったのですか!? あっ、彼の能力と共鳴したのかもしれません。広い小屋にひとりっきりだということに、彼は戸惑いを感じたようです」


「なるほどね。基本的にビィは、単独行動はしない種族だからな。それで使用人が現れたんだね」



「マスターは、ここに隠れているのですか?」


「鋭いね。これは、彼が階層ボスであることを、階層モンスターに知らせるためにも必要なことでしょ。彼は、普通のビィの改良種だ。土のビィや手長ビィは、普通のビィよりも格上の種族だからね」


「階層ボスが格下の種族だからって、モンスターが襲撃してくるなんて……ダンジョンコアが……」


「大丈夫だよ。お菓子の家の方は襲撃されないよ。ここは、迷宮の支配に逆らう異質なモノだから、こんなことになってるんだと思う」


 僕がそう説明した頃には、庭園の方は静かになっていた。白い猫は、まだ焦った顔をしているが。


「そろそろ、良さそうだね」


 僕は、すべてを斬り終えた彼の方へと移動した。




 ◇◇◇



「決着は、ついたかな」


「はい。庭がぐちゃぐちゃに、血生臭くなってしまいました。土のビィと手長ビィは、ドロップ品に変わって消えましたが、ここにいたビィ達が……」


 数人を残して、他は皆、血を流して倒れている。


「この場所の使用人は、3時間後に、ボス部屋の入り口で復活します。死体はしばらく、このままにしておいてください」


(人間扱いか)


 白い猫はそう説明すると、淡い光を纏った。アンドロイドは、この場所の修復も始めたようだ。



「ドロップ品を集めようかな。放っておくと、マナに変換されてしまうからね」


「はい。あっ! 糖ですか!?」


 眷属の彼は、ドロップ品を拾うと、目玉が落っこちそうになっている。


「飴玉だね。そっか、糖って言う方が伝わりやすいかな。キミの世界には、飴玉はなかったね。えーっと、べっこう飴と、懐かしのドロップかな。どっちが土のビィ?」


「黄金色の糖が、土のビィです。手長ビィは、いろいろな色の糖です」



 ドロップ品を拾い集めると、眷属の彼に渡した。


「えっ? あの……」


「キミの小屋に置いておけばいい。そうだな。しばらくは、この階層のモンスターをキミが狩ってもいいね。この襲撃への報復だ。そうすれば、たくさんの飴玉を集められる。使用人に食べさせてやればいい」


「私が、そんなことをしても良いのでしょうか」


「モンスターの再生スピードは速いから、構わないよ。それに、もし、迷宮特区管理局や比叡山の奴らが、迷宮内のモンスターの暴走を引き起こしても、キミが恐れられていれば、この階層やここより浅い階層には、暴走が起こらないはずだ」


 僕がそう指摘すると、彼は表情を引き締めた。白い猫は、またオロオロしている。そうなった迷宮があるようだな。さっきから少し違和感があった。アンドロイドが何かをすると、階層モンスターが暴走する機能があるんだな。



 ポラリス星のおりは、生きている者は死ぬまで出られない。冥界に立ち入った者を捕える物だ。


 この迷宮は、今は、生きている人間は自由に出入りできる。だが、異世界人は出られない。一方で、魂は、2階層に集まってきているように、出入りは自由だ。


 迷宮が、出入り可能な条件を変更することは可能だろう。ダンジョンコアはシステムに繋がり、そのすべてを管理局が握っている。


 何かの事情で、迷宮内にいる人間の数を減らそうとするなら、モンスターを暴走させ復活機能を停止すれば、簡単なことだ。そういう機能が、アンドロイドの操作ミスで発動することもありそうだな。


(やはり、監獄か)




「僕は、階層内を少し歩いてみるよ。キミは、ビィ達の復活を待ってあげるといい。生き残ったビィ達も不安だろうからね」


「ケント様、ありがとうございます! そうさせてもらいたいです」


「じゃ、僕は、適当にこの階層を歩いてから、6階層に様子を見に行くよ。アントさんは、またスロットで負けてると思うから」


「あはは、はい。なぜか魔王は、勝てないんですよね」


「でも、カジノは好きだよね〜」



 僕は、眷属の彼を残して、渓谷の方へと歩き始めた。白い猫は、いつの間にか、やしろに戻ったようだ。


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