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190、ビィの本来の姿と白い猫

 7階層のボス部屋前には、空き待ちをする冒険者はいなかった。それどころか、ボス部屋がある小島にも、僕達以外の姿はない。


「申し訳ありません……」


 アントさんに念話で叱られたのか、眷属のビィは、また無表情に戻り、僕に深々と頭を下げた。芳香剤みたいな匂いを放つ花に魅了されて、行動不能になっていたからな。


「あの花は凍っていても、匂いが強いからね。この小島の植物は、キミ達の世界のモノだよ」


「はい……申し訳ありません」


 彼は、かなり落ち込んでいるらしい。見知らぬ異世界に来て緊張していたから、余計に、知っている花の香りに惹かれたのかもしれないな。


「これが、ビィの弱点だな。食虫植物の魅了には、簡単に引っかかる。だが、それ以外の魅了には強い耐性があるぜ」


「じゃあ、この付近だけ、気をつけてもらわないとね。他の場所には、今のところは変わった植物はないから……」


 待ち切れないのか、アントさんはボス部屋の扉に手をかけた。


「ケント、話はボス部屋でしようぜ。また、コイツが匂いにやられる」


(ん? 違うよね)


 アントさんの言葉には、言い訳っぽい響きがあった。あぁ、湖上に僕達をサーチしている冒険者がいるのか。


「じゃあ、入りましょうか」




 ◇◇◇



 扉が閉まりかけたとき、白い猫もボス部屋に滑り込んできた。僕は、慌てて扉を押さえる。


 僕の前で、ちょこんと座って、何か言いたげだな。


「おっ、獣人の赤ん坊は、少しは成長したか」


 アントさんが白い猫に気づいて、僕にそう問いかけると、僕が返事をする前に、アンドロイドは姿を変えた。


(初めて見る姿だな)


 確か、見せてくれと言ったときには、服がないからダメだと言っていたっけ。性別は不明だが、赤ん坊ではなく、幼児になっている。


「アントさん、いらっしゃいませ」


「へぇ、ちゃんと話せるようになったじゃねぇか。すごいな、おまえ」


 アントさんに褒められて、猫耳の幼児は、僕にドヤ顔を向ける。まぁ、いつものことだ。


「服がわからないと言って、今まで見せてくれなかったんですよ」


「そうなのか? 綺麗な子だから、どんな服でも似合いそうだぜ。階層が増えることで成長するようだな」


「はい、新たな階層を造ると、1歳ずつ大きくなるようですね。まだ複雑な話は発声できないと思います」


(あっ、拗ねた……)


 猫耳の幼児は、ぶすっと膨れっ面をすると、白い猫に姿を変えた。ほんと、超反抗期だよな。



『階層ボスにするには、観察が必要です!』


「あぁ、それで見に来たのか。アントさん、ボス部屋は階層ボスの個室なので、外からは見えません。眷属けんぞくの彼の、蟲の姿を見たいです」


「そうだな。コイツに討伐させようか。


「じゃあ、扉を閉めますね」



 僕は押さえていた手を離すと、扉はガタンと閉まった。ボス部屋の中は、白い霧で満たされている。



『よく来たな、人間!』



 ただの白い霧しかないのに、アントさんは、階層ボスのことがわかっているようだ。


「へぇ、霧のエレメントか。俺の知らない種族だな。楽しそうだが、ここは、ビィに任せるか」


「オーバーキルしてしまうと、回復薬がドロップしません。この階層ボスは、ちょっと良い回復薬が討伐報酬になっています」


「ん? 読めない文字が浮かんでいるが、ステイタスか? 魔法無効だとでも書いてあるのか?」


「はい、ステイタスが数値で表示されています。それを見て、冒険者が戦うので」


「そうか。まぁ、エレメント系なら、攻撃は効きにくいだろうが、体力は低いだろ。本来の姿で戦ってみろ」


「はい!」


 眷属の彼は、うやうやしく一礼すると、パッと姿を変え、白い霧の中に飛び込んで行った。




 異世界にいた普通のビィとは、全くの別の種族に見える。体長は、普通のビィの倍の2メートルほどある。全身が黒く、頭には長い触角が2本、頭も全身も硬そうだな。透明な羽は動いているから、何枚あるかわからないが、これも、かなりの強度がありそうだ。


 そして、4本の手には、剣とヤリが握られていて、白い霧からの様々な魔法攻撃を切り裂いている。いや、4本じゃないな。使っていない手足が、何本も見える。



「手足の数は、基本的には6本だ。だが、必要に応じて作り出せる。一応、留守番用に、分体が作れるようにしてあるからな」


「えっ? 分体って、分身ですか? 留守番を置かなくても、ボス部屋に挑む冒険者が来たら、他の場所から強制転移で移動することになりますよ?」


 僕がそう説明すると、アントさんは、嬉しそうな顔をしている。そういえば、さっきも、何かを話したそうにしてたよな。



「ケント、この階層ボスには、異質な魂を使っているな?」


「あぁ、はい。この迷宮にとどまりたい魂を使っています。でも、縛りつけているわけじゃないので、本人が望めば、役割から解放しますが」


「いや、そういう意味で尋ねたのではない。ここでの話を聞いているだろう? 信用できるのか?」


「信用しているから、階層ボスの役割を任せているんですよ」


 即座にそう反論すると、アントさんは、フッと優しい笑みを見せた。


「そうか、じゃあ、ここで話そう」


(あっ、倒した!)


 だが、オーバーキルをしたようだ。討伐報酬はドロップせず、宝箱が現れた。



「階層ボスは、復活まで3分かかります。その間は、話は聞こえないと思いますが」


「3分以内に出なければならないのか?」


「いえ、急がなくても大丈夫です。呼ばなければ、復活しても現れませんから」


「そうか。部屋の主人がいないときを狙うのも悪いな。少し待とうか。もう、ビィのデータは大丈夫か?」


『人型に戻っていただいて構いません。8階層のボスになると、冒険者との戦闘時のステイタスは、私が設定した架空のものになります。冒険者に倒されても、大きなダメージは受けません。ただ、復活までの3分間は異空間に入っていただくため、部屋とは遮断されます』


「わかった。この個体には、階層ボスに合わない部分はないか? 次の参考にしたい」


『架空のステイタスを受け入れてくださらないと、困ります。そこを割り切っていただければ、特別の問題はありません』


 白い猫は、アントさんには素直に説明するんだな。



「復活したようだな。では、ケントに大事な話をしようか」


 アントさんは、天井の一部に視線を向けた後、僕の方を真っ直ぐに見つめた。


「はい、大事な話というのは?」


「話は、二つある。まずは、ビィのことから話そう。コイツは、ここのマナとケントの魔力を練り上げたエネルギーを利用して創った」


「へ? 僕の魔力と迷宮のマナ?」


「あぁ、コッソリと持ち帰っていたからな。結論から言えば、コイツは、このダンジョンの外に連れ出せるはずだぜ」



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