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19、第2階層、居住区

「僕は、2階層を確認してきます」


「待って! 私も行くわ」


 僕が、2階層への階段を降り始めると、カナさんもついてきた。だけど避難者達はついてこない。アリ探しに必死みたいだ。


 そもそも避難者は、1階層から動くつもりはないだろうな。未オープンだった僕の迷宮には、戦うチカラのない人ばかりが集まっているんだから。



 1階層への階段と同じく、数十段降りると踊り場があって折り返しになっていた。だけど、数回折り返しただけで、最後の階段が現れた。


(おお! 素晴らしい)


 階段には、モンスターは出現しない。だから、階段の途中から、二手に分けることをイメージしていたんだ。アンドロイドは、ちゃんと案内の立て看板まで、作っている。



「えっ? キミ、これはどういうこと? 階段が分かれたわ。右側へ進むと居住区で行き止まり? 左の階段の先だけが、新たな階層へ進むためのボス部屋に繋がるの?」


「はい、そうですよ。居住区にはモンスターは出現させません。2階層の中央に円形の街を造ったつもりです」


「二重構造にしたの? ほんと、器用ね。だけど、そんな凝った造りにしていたら、迷宮の維持エネルギーの消費が大きくなるわ。なかなか3階層まで育たないわよ」


 カナさんは無意識らしいが、文句が多い。


「安全な住居を求めていると言ってたじゃないですか。バスの案内の女性も、とても真剣に訴えていた。だから僕は、まずは安全な住居1万人分を造ることを優先しました。それに、それくらいの住人がいれば、理想のストリートができますからね」


 僕は、24時間営業のコンビニを絶対に作りたい。だが、食べ物は魔法じゃダメだ。美味しくない。しかしまだ、どうすべきかの具体策はない。だから、これから、いろいろと試す必要がありそうだ。


 あとは、ファミレスやハンバーガー屋も欲しい。ドラッグストアや雑貨店なんかもあると嬉しいよな。そのあたりは、企業迷宮に何があるのかを調査してからだな。



 僕は、まず居住区への階段を降りていく。カナさんも、キョロキョロしながらついて来た。


「えっ!? 何ここ?」


「居住区のメインストリートですね。この先の街の真ん中には、噴水を造りました。人工的な泉です。1階層の小川と同じ性質の水だと思いま……あっ」


(やっぱ、子供だ)


 カナさんは、広い道を真っ直ぐに走って行った。僕には、全体が見えている。迷宮の主人あるじであるということ自体が、かなりすごい能力なのかもしれない。


 迷宮の壁や天井、そして建物等すべての構築物から見えるものは、僕の目にも映っている。だから、カナさんが噴水にたどり着いた途端、だらしない顔でニヤけたのも見えている。



 この階層は、天井は1階層ほど高くはない。だから、ストリートの両側の建物が高く見える。いずれも、5階建なんだけどな。


 天井は、都会の夜のような感じだ。暗いんだけど、真っ暗ではない。ストリート沿いには、たくさんの街灯がある。まだ全く店がないから、寂しい街だけど。


 ストリートには、いくつもの路地がある。それぞれのアパートに繋がる路地だ。


(なかなか、いい感じだな)




 僕が噴水に近寄ると、カナさんがハッとした顔で、振り返った。


(遊んでいたのか?)


 彼女の上着の袖や、なぜか前髪が、水でビチャビチャだ。あまり余計なことを言うと、面倒くさいことになりそうだから、気づかないフリをしておこう。



「この水も飲めるわ! 小川の水の方が冷たく感じたけど。えっと、キミの迷宮には、何人くらいが住めるのかしら」


(さっき、1万人って言ったよな?)


 いや、詳細の説明を求められているのか。そう考えた瞬間、数が浮かんでくる。ウチのアンドロイドは優秀だ。


「2階層は、アパートだけの建物は、2,000室ちょっとあります。ファミリー向けを意識したので4〜5人で住める3LDKです。メインストリート沿いは、1階層と同じく、3階から5階が住居です。これは単身者用のワンルームになってますよ」


「えっ? ちょっと待って。1階層の部屋を見たわ。シャワー室まであって驚いた。あれが単身者用? 嘘でしょ? 高級なファミリー向けよ」


(昨夜のうちに、見たのか)


「いや、8畳くらいしかないですよ? ミニキッチンはつけたけど、ガスコンロはありません。あれは、自炊しない単身者用ですよ」



 すると、カナさんはまた走り出した。


(見に行くのか)


 路地を疾走し、目についたアパートに飛び込んだ。まだ、鍵をかけてないみたいだな。あっ、鍵はないのか。魔力を利用した魔道具を使う仕様になっている。


(これは、僕の知らない仕様だな)


 部屋の中に入ってしまうと、僕にも見えなくなった。まぁ、そうじゃないと、迷宮の主人は覗き放題になってしまう。これで正解だ。



 しばらくすると、カナさんが興奮した様子で戻ってきた。ごく普通の市営団地レベルなんだけどな。


「広い部屋が4つもあったわ!」


「あぁ、うち、一つはリビングダイニングですよ。なので、実質、部屋は3つで……」


「1室で、20人は住めるわ! それが2,000室もあるなら……た、たくさん住めるわ!」


(暗算が苦手らしい……)


「さすがにそこまでは住めないですよ。もしかして、そういう住環境なのですか」


「ええ、1階層にあった部屋でさえ、豪華すぎて驚いたわ。天井は手が届かないし。キミがいた時代は、広い部屋が当たり前だったのね」


(狭いと思ってたけど……)


 こんな深刻な状況だから、私物を置く場所は不要なのか。みんなは、小さなリュックを背負っている。あれは、おそらく魔法袋だろう。容量は不明だが、あの中に入るくらいの私物しか持ってないんだ。




「じゃあ、僕は、さっきの階段に戻って、居住区の外の様子を見てみますね」


「あぁ、うん、どうぞ〜」


(ついてくるとは言わないのか)


 カナさんは、居住区の地図を作っているようだ。そういえば、迷宮特区事務局が、ダンジョンへの入場や入居者の管理をしてくれるんだっけ。



 僕は、階段を上っていく。


 最初の踊り場のところには、やはりきちんと看板が出ていた。ウチのアンドロイドは本当に優秀だな。


 僕は看板に従って、右後ろの階段を、モンスターのいる2階層へと降りて行った。



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