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189、蟲の魔王アントと眷属のビィ

「ええっ? 厄災の魔物レベル!? めちゃくちゃ強いじゃないですか」


「あぁ、ケントの戦闘力の10分の1を上限にしたから、まぁまぁ強いぜ。このレベルのビィには、魔法属性を付与できないんだ。だから、実戦データが欲しい」


「でも、彼は毒を使いますよね?」


「ビィは、毒が得意な種族だからな。念のために毒だけは残したが、基本的には物理攻撃だな」


「念のためって、迷宮内では死んでも復活しますよ?」


 僕がそう言うと、アントさんはニヤッと笑った。何かを早く話したくてウズウズしているようにも見える。だが、周りをすーっと見回し、表情を引き締めた。


「あぁ、そうだったな。それよりカジノ……じゃなくて、新しい階層を見せてくれよ」


(早くスロットで遊びたいらしい)


 僕がニヤッとしたのだろう。アントさんは苦笑いしている。僕の思考は覗いてるだろうから、図星らしい。なるべく早く階層ボスの手続きを済ませないとな。


「迷宮内ワープを使いますか?」


「いや、階層ボスを見学するぜ。次の参考にしたい」


 アントさんは、勝手知ったる感じで、ガゼボ近くの階段を6階層へと降りていく。眷属けんぞくの彼は、アントさんに従っているが、キョロキョロと落ち着きなく、冒険者たちを観察しているようだ。




 ◇◇◇



「おっ、人が増えたな」


 6階層は、テントが減ったことで、真ん中の道から真っ直ぐにボス部屋へ向かうことが可能になっていた。せっかく雲の道を作ったのにな。まぁ、台風の避難者が来ればテントだらけになるから、無駄ではないが。


「ゲームセンターには、レストランも開店したので、以前よりは増えましたね」


「仕事が終わったら、ひと勝負しないとな」


 蝶やアリから、彼には常に情報が届いているだろう。レストランの開店も知っていたみたいだな。



 あっ、ボス部屋は、今、戦闘中になっている。しかも、ボス部屋待ちが、3組もいた。宝箱がカップ麺の詰め合わせだと知られてからは、ミッションも増えたようだ。


「アントさん、どうします?」


「ワープを使うか。コイツには、ワープ権限はないかな」


「いえ、大丈夫だと思いますよ。ウチのアンドロイドは優秀なので」


 こう言っておけば、ビィにもワープ権限を与えるだろう。念のために、僕が連れて行こうか。



「じゃあ、移動するか。ん? ケントは何をしてるんだ?」


「防寒コートです。7階層は寒いので。とりあえず、僕の住居に移動しましょうか」


「いや、階段でいいぜ。俺の眷属から、7階層が美しいという連絡があった。まずは、この目で見てみたい」


「わかりました。じゃあ、詳細な場所指定のワープはできないと思うので、僕につかまってください」


 僕が両手を出すと、アントさんはすぐに手を繋いでくれた。眷属の彼は戸惑っているようだったから、僕が腕を掴んだ。


「あぁ、ケント、手間をかけさせたな。コイツは、ただのビィを改良したから、見慣れない場所では警戒心が強いんだよ」


「いえ、大丈夫ですよ。他種族には触れられたくないかもしれないけど、ここは特殊な空間なので、我慢してくださいね」


 僕がそう言うと、アントさんの眷属は、独特すぎる驚き顔をしていた。顔色が一気に赤くなり、目玉が落っこちそうなほど目を見開いて、頬がヒクヒクと痙攣けいれんしている。


 これまで無表情だったから気づかなかったが、確かにビィだな。ピィは、蟲の姿だと巨大なミツバチのような種族だ。大きな個体でも体長は1メートルくらいだっけ。常に仲間と群れていないと落ち着かないらしく、仲間とはぐれた人型のビィに遭遇すると、よくこんな顔をしていた。


 でも、人型のピィは、僕よりもかなり背は低かったはずだ。目の前にいる彼は、僕より少し背が高い。


 それに普通のビィは、そんなに強くはない。群れると厄介だが、それをどう変えたのだろう? 厄災の魔物レベルにするなんて、まるで別の種族だよな。




 ◇◇◇



「最後の折り返しの所に移動しました。この先、一気に寒くなりますよ」


 迷宮内ワープで移動すると、防寒コートを着ていても寒いと感じる。階段を降りていく方が、寒さに慣れてよかったか。


「俺は、平気だぜ? 俺の森にも、氷湖はいくつもあるからな」


(あっ、そうだった)


「でも、ビィは、暖かい所にいますよね?」


「ふっ、よく覚えてるじゃねぇか。まぁ、コイツは、氷湖くらいなら大丈夫だぜ。へぇ、すごいな、ここは」



 7階層に降り立つと、アントさんは氷湖を見渡して、ふーっと息を吐いた。


「幻想的でしょう? 階層モンスターの間隔が狭いから、かなり明るい階層になりました」


「あぁ、美しいなんてもんじゃねぇな。しかも、大勢が頑張ってるようだな」


(あっ、スケート)


 5階層のドワーフが、靴の上から装着する道具を売り始めたと聞いた。また、2階層では、スケート靴を仕入れた店もあるそうだ。


「この時代の人達は、スケートをやったことがないから、なかなかボス部屋にはたどり着けないんですよ。モンスターは、弱いんですけどね」


「もみくちゃになるのは、同じだな。ビィは苦手か。でも、ケントも酷かったよな」


 アントさんは思い出し笑いをしているようだ。確かに酷かった。手すりのないスケート場なんて、行ったことなかったからな。



「僕は、普通に動けますよ」


「ふっ、じゃあ、競争しようぜ。あの小島がボス部屋か」


(競うの好きだよな)


 アントさんは、もう足に、靴の上から装備する道具を付けている。彼の眷属も、その道具を持っていた。事前に用意してきたな。


 僕も同じ道具を付け、凍った湖に降りた。



「エレメントを出したら倒せよ?」


「氷板に触れなければ、出てきませんよ」


「ククッ、楽しくなってきた。ん? おまえも滑る気か?」


 アントさんにそう問われて、眷属の彼は、不安そうに頷いている。無理なら飛んでくるだろう。ビィは、人の姿をしていても、羽を出せる。



「じゃあ、競争だ」


 アントさんは、そう言った瞬間、もう滑り始めていた。僕も負けないように追っていく。


 氷の板よりも、冒険者を避ける方が大変だ。人にぶつからないように氷板に当たるしかない時もある。


(うー……)


 僕は両手に短剣を持ち、多属性を纏わせ、エレメントを斬っていった。アントさんは、どんどん僕を引き離していく。彼も氷板に触れているが、何かを飛ばして倒してるんだよな。


 結局、大差をつけられてしまった。



「アントさん、速すぎるよ」


「今朝も、氷湖を渡ってきたからな。しかし、ここは楽しいぜ。あぁ、ビィは反則負けだな」


 やはり彼は、透明な羽を広げて飛んできた。僕達の頭上を飛び越え、ボス部屋の近くに降りたようだ。あの芳香剤のような匂いに惹かれたか。


「さて、ボス部屋で、話の続きをしようか。あっ、あのバカ! 変な花に……」


 アントさんは、ビィの救出に行ったようだ。花は凍っているから大丈夫だけど、彼は魅入られたかのように動けなくなっている。ビィは、食虫植物に弱いよな。



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