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185、雲の上の通路と社跡の個人基地

「ケント、3階層の奴らはどうなっとる?」


 子供達を送り出すと、ユウジさんの表情は少し険しくなった。ユキナさんは、魔道具を使って誰かと交信している。たぶん、井上さんに、子供達に関する引き継ぎをしているのだろう。


「ボス部屋のある小島から、船に乗って、海上をウロウロしています。普通の結界しかないのに、まだやしろ跡は見つかってないようですね」


「ふぅん、それならええわ。もしかすると、海の中も、ついでに調査しとるかもしれんな」


「管理局の迷宮調査隊なのに、まだ社跡を見つけられないなんて、変ですよね。社跡を探しているように見えるけど、海の調査が目的だったのかな」


「奴らは、前例のないもんは、徹底的に調べよるからな。まぁ、ケントの迷宮の結界が強いんかもしれんで」


 確かにアンドロイドが、結界を強めている可能性はあるよな。3階層の社跡がなかなか見つからないなら、管理局の関心は3階層に向くだろう。



「ケントさん、さっきの件は、どこかしら? 差し支えなければ、そこで話したいわ」


(あー、基地か)


「アンドロイドに口止めされとるんやろ? それが何かは予想できるけどな。俺のとこにもあるで。ユキナもあるやろ? 確か、迷宮特区に6つあるって聞いたで」


「ええ、ケントさんの迷宮の情報は、まだ出てなかったけどね。管理局が中を見たいと言ってきたから、迷宮から排出してあげたわ」


「えっ? ユキナさんは、管理局の人を追い出したんですか?」


「当たり前でしょう? 私の部屋を見たいと言うこと自体が気持ち悪いもの」


「なるほど……確かに、住居ですもんね」


「ユキナ、ほな、なんで、ケントの部屋が見たいんや? やらしい響きにしか聞こえへんで」


「はぁ? 何を言ってるの? 私は、差し支えなければと、一応、前置きをしたわよ」


「女王様にそう言われて、断れる青少年はおらんで」


 ユウジさんにそう言われて、ユキナさんはキッと睨んでいる。そんな彼女に対してユウジさんは、おおげさに怯えたフリをしている。


(仲良しだねー)


 二人は、付き合ったりしないのだろうか。あっ、もしかしたら、付き合ってるけど内緒にしているのかもしれない。



「ケントさん、何? ニヤニヤして」


「へ? あー、いえ、何でもないです」


「何? 気になるじゃない」


(ひえっ)


「えーっと、ユキナさんが、さっきとは違うなと思って」


「あぁ、そういうことね。リーダーとして振る舞うのも楽じゃないわ。この三人でいると、ホッとするのよね」


「俺も、同じこと思っとったで。ユキナは、この三人でおるときが、一番気を抜いてるからな」


 ユウジさんが、からかうようなことを言うと、ユキナさんは睨むけど、確かに気楽な雰囲気だよな。これは信頼、だろうか。



「じゃあ、6階層に移動しましょうか。例の場所にご案内しますよ」


「おっ、楽しみやな。俺のとこは狭いけど、かなり強い結界で覆われてるで」


「私のところは、壁の中だから、きっと見つけられないわ」


 二人の迷宮にも、個人基地があるみたいだな。アンドロイドは、基地のある迷宮の数しか話さなかった。僕にそれを伝えなかったのは、何かの規制があるのかもしれない。いや、単純に、超反抗期だからか。


 僕達は、ガゼボ近くの階段を、6階層へと降りて行った。




 ◇◇◇




「ええっ!? 雲の上にあがるの?」


(あー、もう造ったのか)


 寒い6階層に降り立つと、新しい立て看板が出ていた。


『ボス部屋へ真っ直ぐに進む方は、雲の通路をご利用ください』


 そして、雲の上へ繋がる階段が追加されていた。空を見ると、真っ直ぐにボス部屋まで、一筋の雲が見えた。これは、固定してあるみたいだな。低い雲だ。複数の雲の層が造れるということか。



やしろ跡に繋がっているのかな? これを通ってみましょうか」


「なんや? ケントも知らんかったんか」


「少し前に考えていたことを、アンドロイドが反映したみたいです」


 階段をのぼりながらそう説明したが、ユキナさんは不思議そうに首を傾げている。


「アンドロイドから、説明はないの?」


「はい、今は、超反抗期なんですよねー。7階層ができたら、なんだか変わってしまって」


 僕がそう呟くと、二人は驚いたような表情を見せた。言い方が悪かったのだろうか。二人とも、ウチのアンドロイドが獣人の赤ん坊だった頃の姿を知っているんだけどな。



 雲の通路には、たくさんの人がいた。だが、ゆっくりと両方向に移動している。エスカレーターの平面版か。


 通路には真ん中に手すりがあり、『左側通行』という看板が出ていた。手すりの左側はボス部屋の方へ雲がゆっくりと動いている。右側は、こちら側に動いてくるようだ。


(あー、雪の迷路か)


 たくさんの人は、雪の迷路を上から写しているようだ。でも、無駄なことだと思う。アンドロイドは定期的に、迷路の形を変えている。



「赤ん坊だったわよね? あっ、こんな話はするべきではないわね」


 ユキナさんは、雲の通路にいる人達に気づき、口を閉じた。


「ここじゃなくて、この上ですね」


 僕が意識を向けると、体がふわっと浮かび、上へとあがっていく。


「ケント、置いていくなや」


「上の雲にとイメージすれば、ここからなら上がれると思いますよ」


「ほんとだわ。ゆっくりと上昇していく」


 ユキナさんが大きな声を出したためか、雲の通路から何人かが上へとあがっていく。




 微かに甘い香りのする雲の上にたどり着くと、何人もの冒険者がいた。少し暖かいからか、寝転がっている人も少なくない。


「なんか美味そうな匂いがするけど、どこに店があるんや?」


「店じゃなくて足元ですよ。この雲は、綿菓子なので」


「なんやて? チビっ子にバレたら大騒ぎになるで」


(いやいや……)


「台風の避難で来た人達には、この場所を開放しようと思っています。綿菓子だから食べられるし、形を変えて遊べますよ」


「4階層の果物を持ってきたら、贅沢なデザートになるかしら。でも、綿菓子なら水に弱いわよね」


「大丈夫ですよ。溶けて穴が空いても、下に落ちることはないです。こちらですよ」


 綿菓子の雲の上にいる人達は、恐る恐る、ちぎって口に入れている。大人でも綿菓子は嬉しいみたいだな。みんな、綿菓子の雲を食べ始めた。




 やしろ跡は、多重結界になっている。


 最初の結界は、ユウジさんとユキナさんは普通に通れたが、その後は、弾かれたようだ。僕が二人の腕を掴んでいると通れるが。


 円柱形の不思議な建物にたどり着くと、二人は同時にニヤッと笑った。


「丸い壁は、個人基地の証ね。ケントさんの基地は白壁なのね。私の基地は黒壁よ」


「俺のとこは、普通の土壁や。なんか負けた気がするねんけど」


 ユウジさんは、またユキナさんに睨まれている。


「ふふっ、中に入りますか?」


「それはアカンやろ。ここでも充分、秘密の話ができるで。あ? ここは綿菓子ちゃうんか」


 ユウジさんは座り込み、残念そうに雲をポフポフと叩いていた。



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