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184/409

184、真夜中の串焼き屋台

 ユウジさんが子供達を引率しながら、4階層のボス部屋に現れた階段を5階層へと降りていく。


 少しずつ気温が下がっていくため、夏服の子供達は寒そうにし始めた。4階層は秋の夕暮れの森だが、5階層は晩秋か初冬だもんな。しかも、5階層は明るさが変化する。今はもう夜遅いから、かなりヒンヤリしていた。



「あぁ、そうか。ここは外と同じやったな」


 5階層に降り立つと、ユウジさんがポツリと呟いた。彼も、このヒンヤリした空気で、子供達が寒がっていることに気づいたようだ。


「夜中だから、気温も下がりますね。左側のぶどう園にとっては、この寒暖差が必要なんですよ。その先の宿場町の門を入ると、少しマシになると思います」


「昼間との温度差が、かなりあるよな。明るさが変わるだけやなかったんかいな」


 子供達は、なぜかキョロキョロしている。何かに怯えているようにも見えるが、どうしたのだろう?



 すると、ユキナさんが口を開く。


「みんな、この階層には、モンスターはいないわ。私の迷宮の6階層と同じく宿屋のフロアよ」


「えっ? でも、あれは……」


 この階層にいるたくさんのドワーフ達を、気にしているみたいだな。門番のアリは、もう1階層で見ただろうし、彼らは人間に見える。だが、背の低いドワーフは、モンスターに見えるのか。


「亜人達は、この町の住人よ。ブランデーの醸造所や、優れた武具の店があることが、知られているわ」


「へぇ〜、寒いけど、いい匂いがします」


 町に入って、屋台のマーケットがある通りを、ユウジさんが進んでいく。夜遅いから、マーケットはほとんどが閉まっているが、最近そのスペースで、串焼きの屋台を出す店ができたみたいだ。


「この集落は、金での買い物はできへんねん。物々交換やからな。これが、串焼き何本になるか、試してみよか」


 ユウジさんは、どこからか、カバンのような物を取り出した。たぶん、彼の迷宮のドロップ品だろう。




「はい、いらっしゃい」


「これで頼むわ。10本以上は欲しいから、串の種類は任せるで」


 ユウジさんがカバンを渡すと、ドワーフは何かの術を使って鑑定している。


「中身が軽くなるカバンですね。子供に人気の棒バーグなら、15本お渡しできます」


「ほな、それで頼むわ」


 ドワーフは、僕がいることに気づいたみたいだが、特に表情は変えない。この個体は、無口なタイプらしい。



「はい、お待たせしました!」


 棒バーグを丁寧に焼き上げると、皿に入れて渡すドワーフ。几帳面な職人気質なタイプかな。上手く焼けたらしく、ちょっとドヤ顔をしているように見える。


「おっ! 18本もあるやんけ。みんな、温かいうちに食うで。1本ずつ取ってや」


 子供達に配ったあと、僕とユキナさんにも取れという。結構ズシリと重い。こん棒みたいな串焼きだ。


「ありがとうございます。いただきますね」


「なんか、ケントにそう言われるんも、変やけどな。余った分は、井上に差し入れしたろか。誰か持って行ってくれるか?」


「はい! お預かりしますっ」


「腹減ったら、渡さんと食うてもええで」


 ユウジさんは、皿ごと簡易魔法袋に入れて、近くにいた子供に渡した。迷宮から、この皿の持ち出しができるかは不明だけど、串焼きは大丈夫だろう。



「これって、見た目は珍しいけど、ハンバーグみたいな感じね。甘いソースが美味しいわ」


「昼間やったら、もっといろいろな屋台が出てるで。金で買われへんのが平等でええよな」


「そうね。ここに来れば、物々交換で食べ物が入手できるのは、ありがたいわ」


(あー、教えてるのか)


 ユウジさんは、ユキナさんと話しているだけのように装っているが、お腹が減ったときに、ここで食べられることを、実践しながら教えているんだ。



 子供達は、食べ終わった串を持ってキョロキョロしている。迷宮内は、埋めればマナに変換されることも知っているようだ。


「ゴミは、その辺に放っておいてください。あちこちに落ちてるでしょう?」


「えっ? 埋めなくていいんですか」


「この階層は、埋める場所があまりないから、住人達がまとめて処分してくれるんですよ。ぶどう園や牧場に埋められても困るので」


 僕が道端に串を放り投げると、子供達もそれを真似して、放り投げている。カランという音が楽しいのか、クスクスと楽しそうに笑っている子もいた。



「ゴミを放り投げるんは、なんか悪ガキになった気がするやんな。これを背徳感っていうんやろか?」


(違うと思うけど……)


 ユキナさんは、いつもならユウジさんにブチ切れたりするのに、今は、必死に耐えているようだ。ユウジさんは、それがわかってて、わざと変なことを言ってるみたいだ。


 だが、この空気感……。ユウジさんがなんとかしろと、僕に合図してくる。


「えーっと、ユウジさんは、悪ガキという年齢でもないですよね?」


「ケントは、魔王やから、そんな大人なんや。ちょっと悪いことをする瞬間は、ドキドキするやろ?」


「そうなのかな? みんな、どう思う?」


 僕は返事に困って、子供達に話を振った。


「道に捨てるのは、ドキドキしましたっ」


(えっ? そうなの?)


「他の場所で、こんなことをしたら、近くの大人に蹴り飛ばされます……」


 子供達は、互いに頷き合っている。


「この階層では、放り投げていいよ。あっ、人に当たらないように気をつけてね」


「「はいっ!」」


 子供達は、嬉しそうに笑みを浮かべている。


(あっ、そうか)


 今の時代は、娯楽を知らないんだったな。こんなことでも、ドキドキする遊びなのか。




 カランカランカラン


 転移魔法陣のあるガゼボまで歩いて来たとき、日付が変わることを知らせる鐘が鳴った。


「ちょうど時間だわ。井上さんには、夜12時頃と言ってあるの。着地点にいるはずだから、声をかけなさい。もし、見当たらないなら、アンドロイドに、『青き輝き』の仮メンバーだと言うのよ」


「はい! わかりました」


「それと、井上さんが宿屋を用意してくれているから、ギルド報告が終わったら、今夜は、井上さんの迷宮に泊まるのよ。宿の人には、元気に挨拶してね」


「はいっ!」


「それから……」


「ユキナ、もうええやんけ。オカンみたいになってんで。コイツらなら、大丈夫や。ほな、行ってこい」


「「はい!」」


(ふふっ、ママとパパみたいだな)


 子供達は、転移魔法陣を使って、井上さんの迷宮へと移動していった。


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