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183/409

183、井上さんの迷宮にギルド出張所ができた

「見たことのない制服の人が来てたけど、僕の迷宮が探られてるんでしょうか」


 数人の男性が4階層に降り立ち、3階層まで引き返していったことを確認してから、僕はそう問いかけた。


「そうね。あっ、気配が消えたわ。3階層に行ったのかしら」


「はい、今は海を見て、魔道具を操作していますね。僕達の会話を完全に聞いていたということか」


「あの会話で3階層だとわかるのね。彼らは、同じ階層内の音を拾う魔道具を使うのよ」


 ユキナさんの作り話を、彼らは確認しに行ったようだ。3階層のやしろ跡は、ほとんど使ってないけど、ペンションみたいな建物だし、結界で隠されているから秘島という表現も嘘ではない。



「俺には見えてへんかったけど、派手な制服やろ? 管理局のエリート部隊ちゃうか。金色の雨のことで、俺のダンジョンをめっちゃ調べに来たからな」


(気配でわかるんだな)


「はい、派手な配色の騎士服みたいな感じでした。金色の雨の件は大変でしたね。なんか、すみません」


「いや、かまへん。俺が一番、敵が少ないからな。どんな身分の奴らも、勇者には嫌われたくないらしいで」


(なるほど)



「蛍光色のオレンジ色が見えたわね。迷宮特区管理局の、迷宮調査隊だわ。ケントさんの迷宮に新たな階層ができた直後に、裏ギルドの創設者が接触したから、調査に来たみたいね」


「えっ? 行動が早いですね」


「彼らは、迷宮特区の帰還者迷宮を、開発者の想定通りに成長維持させることが仕事なのよ。裏ギルドと結託されたら困るんでしょ」


 ユキナさんは、僕にタブレットを見せてくれた。


 7階層が不思議すぎる階層だということや、『シルバが来た』についての記事だ。銀次さんが来たのは、ほんの2〜3時間前のことなのに、こんなに多くの情報が書き込まれているのか。


「たまたまですけどね。銀次さんは、1日に来るかもしれないと予告してたし、僕は台風情報を見て、新たな階層を造りましたから」


「ケントさんの迷宮の新たな階層は、他のどの迷宮にもない物だから、慌てたのかもしれないわね。極寒の階層に多属性エレメントでしょう?」


「確かに寒いですが、あれは、僕がいた異世界では、あちこちにあったんですよ。水を司る魔王が、水源を確保するために作っていたそうです」


「へぇ、そうなのね。写真で見れば、ただの美しい湖に見えるけど、確かに凍った水場があれば、水の調整に役立つわ」


 ユキナさんは、7階層の写真も見せてくれた。かなり多くの写真が投稿されている。美しい湖の写真だが、実物はもっと幻想的で綺麗だ。



「せやけど、めっちゃ注目されるようになったやんけ。これは、使えるんちゃうか?」


 ユウジさんは、何か悪い顔をしている。


「そうね。上手く誘導したいわね」


 ユキナさんまで、悪い顔をしている。この二人は、子供達の試験中に、何かを話していたみたいだな。僕に関わることなら、そのうち話してくれるだろう。



「そういえば、僕の迷宮に、ユキナさんが訪ねて来られたのは、『レイザーズ』の件でしたよね?」


「あぁ、あれは、本来の目的ではないの。子供達の試験を始めたんだけど、ユウジさんの迷宮に行ったときに、ウサギくんから連絡が入ったから、私は先にケントさんの迷宮に行くことにしたのよ」


「じゃあ、メンバー加入の件だったんですね。僕の方も、突然の訪問者で慌てましたが」


「そうよね。私も慌てたわ。子供達はすぐに来ることになっていたから」


「あっ、戻ってきましたよ」


 話していると子供達が戻ってきた。ユキナさんは素早く数を数え、軽く頷いた。全員いるみたいだな。




「じゃあ、あとは、井上さんの迷宮にミッション報告に行けば、すべてのミッションクリアよ。アナタ達だけで行けるかしら?」


「「はい!」」


 子供達は、声を揃えて返事をした。なんだか学校みたいだ。みんな、ピシッと整列している。


(あれ? 報告?)


「井上さんの迷宮で、ミッションの終了報告ができるんですか? ギルドに行かないと無理では……」


「できるようになったのよ。井上さんの迷宮を、冒険者パーティ『青き輝き』の所在地として登録したでしょ? これまでは受注しかできなかったけど、10階層に冒険者ギルドの出張所ができたわ」


「えっ? 井上さんの迷宮の10階層は、墓地と、転移魔法陣の乗り継ぎ階層ですよね?」


「そうね。墓地があるから、10階層に出張所を出したのかもしれないわね。一般の人達が多く訪れるから、新たなミッションを依頼しやすいでしょ」


(なるほど)



「ほな、ここの5階層から、転移魔法陣を使うんやな? ケントの迷宮の4階層のボス部屋には、ハズレがあるから気をつけなあかんで」


「ユウジさんは、いつもハズレを引くのよね?」


「いつもちゃうわ。1勝4敗や」


(めっちゃ外してる……)


 ユウジさんが引率する形で、ボス部屋へ向かう。僕はユキナさんと一緒に、子供達の一番後ろを歩いて行った。




 ◇◇◇



「おまえら、盾はあるか? 無いなら、右の方に離れとけ。ハズレを引いたら、ぶわっと炎が吹き出すから、即死やで。3時間後に4階層の階段のとこで復活できるけど、また、ゴブリンを蹴散らさなあかんからな」


 ユウジさんは子供達に、この階層ボスも倒させるつもりらしい。炎の罠の対処法から教えている。



『この扉で良いのか? 間違えるとダメージを受けるぞ』



 子供達に順に扉に触れさせ、警告を聞かせているが、この部屋は当たりなんだよね。


 ユウジさんは、チラッと僕の顔を確認したが、ニヤニヤするわけにもいかないよな。彼は、子供達を横に避けさせ、扉を開いた。



『よく来たな、人間!』



「ケント、なんで炎が出ーへんねん?」


「ボス部屋は、炎は出ませんよ」


「俺、こんなとこで運を使いたくないで」


(大げさだな……)


 ユキナさんは無言だった。たぶん、リーダーらしく振る舞っているのだろう。



「ユウジさん、この人数の子供達だけで、ゴブリンクイーンを倒すのは厳しいですよ。このボス部屋は、回復薬25本です」


「せやな、威圧を使うし武器も投げてくるからな。ケントが、サクッと片付けてくれ。俺がやると、威圧を受けへんかったらオーバーキルしてしまうんや。めっちゃムズイわ」


「わかりました。じゃあ、倒しますね」


 僕は、双剣を持ち、タンッと床を蹴って飛び上がる。左手でゴブリンクイーンが振り上げたこん棒を受け流し、右手でサクッと斬ると、階層ボスは、回復薬をドロップして消え去った。



「す、すごいです! ケントさん!」


(えっ? ちょ……)


 子供達にパチパチと拍手されると、僕はどう返事すべきかわからない。


「せやろ? 剣術は、ケントが一番強いんや。あっ、魔法が一番強いんは、ユキナやで」


 ユウジさんはそう言うと、宝箱のスナック菓子詰め合わせを子供達に渡した。



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