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181、夜中の12時に鐘が鳴る理由

「ケント、こんなとこにおったんか。俺も、ガリガ○君、食いたいねんけど」


(はい?)


 4階層に、ユウジさん達がやってきた。彼は、10人くらいの子供を連れている。年齢的には、7〜8歳の少年少女だ。僕がいる場所は休憩所として利用されているから、立ち寄ったのだろう。


 ユキナさんは、まだ到着していない。一緒にいる女性に、ゴブリンの討伐をさせているみたいだな。戦い方を指導しているのだろうか。



「ユウジさん、僕も食べてないけど、もう無いですよ。氷菓子は、7階層のドロップ品です。えっと、ミッションですか?」


「あぁ、コイツらの試験中やねん」


「試験?」


 そう聞き返すと、子供達はユウジさんの横に整列し、僕にペコリと頭を下げた。


「せや。あとは、ケントのとこだけやな。コイツらは、ユキナのダンジョンにおる子供や。試験に合格したら『青い輝き』に加入するらしいで」


「なるほど。ユウジさん、パーティ名が少し違いますよ。『青き輝き』でしょう?」


「どっちでもええやんけ」


「ユキナさんに叱られますよ?」


 僕がそう指摘すると、ユウジさんは周りを見回した。ユキナさんの姿を見つけると、バツの悪そうな顔をしている。この距離なら、ユキナさんは音を拾っているだろう。



「どんな試験をするんですか?」


「簡単なミッションを、コイツらだけでこなせるかをテストしてるんやて。俺のとこは、居住区の雑貨屋の手伝いをしてたで。ユキナのとこは、砂鉄みたいなもんを集めたんやんな?」


 ユウジさんが子供達に視線を向けると、皆、それぞれ、はい! と、勢いよく返事をしている。


「へぇ、僕の迷宮では果物集めかな?」


「あぁ、それぞれ一番多いミッションを選んだからな。ケントのとこは、冒険者向けの果物屋もあるやろ? ミッションの量も半端ないで」


「そうなんですか? あまりよく知らないけど、果物は迷宮から持ち出せないから、冒険者向けって……あー、氷か」


 2階層で果物を買えば、わざわざ4階層に採りにいかなくても、1階層の交換所でフルーツ氷と交換できる。そして、フルーツ氷は、迷宮の外で高く売れるのだろう。


「まぁ、そういうことや。うまい具合に雇用が生まれとるな」


「なるほど、ボトルの減りが早いわけだ。でも試験にしては、遅い時間ですね。もう子供は寝る時間ですよ」


「逆に、これくらいの時間の方が空いてるやろ。普通の入場料払ってくる冒険者は、この時間からは新たに来ーへんからな」


「そうなんですか? あー、そういえば、落武者も夜11時以降には、ほとんど人は来ないと言ってたっけ」


「普通の入場料やと、午前0時でリセットらしいで。午前0時を過ぎたら、他の階層へ移動できへんみたいや。階段も、ボス部屋の転移魔法陣も、排出専用になるねんて」


(知らなかった)


「へぇ、だから、夜中の12時に鐘が鳴るんですね」


「俺も最近まで知らんかったけどな。不正する奴は、階層を移動せーへんみたいやな。そういう奴らを見回るミッションもあったで」


「僕の迷宮には、そういう人が多そうだな」


 ユウジさんとそんな話をしていると、さっき、ここで話していた冒険者達は、いつの間にか立ち去っていた。この階層に住んでいるのだろうか。


 まぁ、広い4階層なら、それもアリかもしれない。高い入場料を払うのが難しい人もいるだろう。問題は、6階層だよな。台風が近づいてきているから、追い出さないと。


(いや、違うか)


 ゲームセンター目当てで居座っている人達も、もしかすると、住むところが無いのかもしれない。




「ユウジさん、子供達は休憩ですか? それなら、座らせてあげる方が良いのでは?」


「ん? あぁ、休憩やけど、常に警戒することを学ばせなあかんから、立ったままでええやろ。ユキナが、魔導士の指導しとるしな」


(やはり、そうか)


「あの女性は、魔導士なんですね」


「女性というより、女の子やで。背は高いけど、10歳やと言うとったわ。コイツらの中では最年長やけどな」


「えっ? 10歳? 大人かと思ってました」


「まぁ、親が帰還者やったらしいから、10歳で成人の異世界もあるからな」


(親を亡くしたのか)


「みんな、親を失った孤児なんですよね?」


「そうとも言えへん。親が食えんくて、子供を捨てるパターンもある。誰の子かわからんかったら、そういうことが起こるらしいわ」


「えっ……父親がわからないと?」


「人間の本能なんやろな。こんなに食べ物がなくても、子供はバンバン生まれとる。迷宮特区では考えられへんけどな。あちこちの企業迷宮は、かなり乱れとるらしい。特に台風のときはな」


(そう、なのか)


 子供達も聞いているから、ユウジさんは言葉を選んで話してくれたが、勇者である彼自身、怒りを感じていることが伝わってきた。


 当事者が望んで子供を作っているわけじゃないんだな。犯罪まがいのことが横行しているってことか。


(ひどいな……)


 だから、僕の迷宮に避難してきた人達は、あんなに感謝してくれたのか。ラランの分身が大量に監視していたし、僕も各階層の様子は見ていた。迷宮特区ではありえないというのは、そういうことだよな。迷宮特区にある帰還者迷宮では、迷宮の主人が、常に監視できるもんな。




「台風が、また来るみたいやで」


「そうですね。早ければ、あと4〜5日後から影響を受けるのかな。今回は、井上さんの迷宮も受け入れ可能だろうけど」


「明日から5月やろ? そろそろ夏の台風が来るんちゃうか」


 ユウジさんは、険しい顔をしている。去年の夏に大きな被害があったことは知っているが、その詳細は僕は知らない。ユウジさんは調べたみたいだな。



「比叡山迷宮は、台風を引き寄せるでしょうね」


「せやな。ケント、俺らなら、台風の中を出歩けると思うか? ユキナは、ダンジョンを離れたらアカンって言うとるんやけど」


(あの影だよな)


 ユウジさんは、台風のときには灰王神が来る、と考えたのだろう。銀次さんの話は信用できないと言って店を出たのは、銀次さん達とは別行動をしたいからか。



「次に直撃する台風が、僕は勝負だと思っています。ただ、迷宮の主人が迷宮を離れることは、確かにマズイと思いますよ」


「やっぱりな。ケントは、そう言うと思ったわ。ウサギが、俺らのダンジョンを繋げばええって言うとったで」


「へ? 帰還者迷宮を繋ぐんですか?」


「あぁ、ほんならユキナが管理して、俺らは出掛けられるやろ? せやけど、条件が無理すぎるねんな」


「迷宮を繋ぐ条件ですか?」


「繋ぐすべてのダンジョンに、常設の転移魔法陣があること、10階層以上あること、10階層なら満タンのエネルギー量があること、全部で3要件って言うとったで」



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