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174、仮面をつけた人達を連れてきたのは

「あっ、落ちちゃった」


 子供達に食べてもらっていた棒付きアイスキャンディが、草の上にポトッと落ちる。初めて食べるとそうなるよな。子供達は、例外なく落としてるみたいだ。


「五十嵐さん、お皿がないと難しいです」


 少し大きな子が悔しそうに、棒を見つめている。そうなんだよな。落としてしまうと悔しいよな。


 しかも、草の上に落ちたアイスキャンディには、もうアリが集まってきている。これはある意味、アリんこホイホイに使えるんじゃないだろうか。



「やはり難しいよね。僕も子供の頃、初めて食べたときは落としたよ。そのうち、落とさずに食べられるようになったんだけど」


「ラランちゃんなら、落とさないかな?」


(また、ラランの話題だ)


 近くにいるラランの分身の赤い犬のような狼が、耳をピクッとさせたのが見えた。ラランも聞いているみたいだな。


「さぁ、どうかな? ラランは体温が高いから、アイスはすぐに溶けてしまうと思うよ。チョコでも、包装を開けてる間に溶けちゃうでしょ」


 僕がそう言うと子供達はコソコソと話し合いを始めた。


「ラランちゃんには難しいね。また、あーんをしてあげないといけないね」


「アイスキャンディのあーんは、すごく難しいよ」


「まずは、俺達が食べる練習をしないとな」


 話し合いの結論が出たようだ。互いに頷き合い、そして、トレイの上の氷菓子に鋭い視線を向けている。なんだか変なことになってきたな。




『マスター、お友達から2階層の住居へ行くと連絡が入りましたが……あっ、マスターの前を通られます』


(ん? 僕の前?)


 交換所の手伝いをしている前を、確かに見慣れた顔が通っていく。しかも、仮面をつけた人達をぞろぞろと引き連れて、何だろう?


 僕が見ていると、彼女はすぐに視線に気づいたようだ。こちらを向いて首を傾げている。



「ケントさん? そんなコートを着て何をしてるの?」


(あっ、防寒コート……)


「ユキナさん、こんにちは。交換所の子供達に、ちょっと調査を依頼しているので、僕が手伝っています」


 そう説明しつつ、防寒コートを脱いで、アイテムボックスに放り込んだ。


「そちらに座っている子供達ね。ケントさんが手伝いをするほど人手不足なのかしら」


「そうでもないんですけどね」


 ユキナさんが現れたことで、列に並んでいた冒険者達は、少し動揺しているようだ。他の迷宮にいることが気まずいのだろうか。



 僕が交換作業を続けていると、ユキナさんは、引き連れてきた人達を待たせ、アイスキャンディを食べる子供達の前に、しゃがんだ。


「みんなは、何の調査をしているのかしら?」


「食べ方の調査なんだ。五十嵐さんが、迷宮情報に注意書きをするべきか、悩んでるんだ」


「迷宮情報?」


 交換が終わった冒険者達が、ユキナさんの元に近寄っていく。



「川上さん、あの、よかったら見ますか? 今、俺達も最新情報にアクセスしたばかりなんですけど」


 冒険者達は、僕に対する態度とは違う。とても緊張しているようだ。ユキナさんが視線を向けると、姿勢を正して格好をつけている?


(綺麗だもんな)


「見せてくれる?」


「は、はい! 喜んで!」


 タブレットを覗き込むユキナさんの横顔を、恍惚とした笑みを浮かべて盗み見している冒険者も少なくない。なるほどねー。ユキナさんは、冒険者達から、こんな風に見られているのか。



「子供達が食べているのは、五十嵐さんの迷宮の新たな階層のドロップ品ね。確かに、こんな棒付きの氷菓子は、帰還してから見たことがないわ」


「五十嵐さんの迷宮の最深層は、寒いみたいっすよ。階層全体が湖になっていて、その表面は凍っていると書かれています」


(全部凍ってるんだけどな)


「冒険者パーティ『レイザーズ』のメンバーが、湖上で動けなくなったという情報もありますぜ。迷宮マスターが救助したそうですよ」


(ん? さっきの冒険者?)


「いや、それはないだろ。よく見ろよ。この記事は、五十嵐さんの迷宮情報が出るよりも、早い時間だぜ?」


 僕が助けたのは、顔馴染みの冒険者だ。いつも2〜3人で行動しているから、パーティ加入してない人だと思う。



「また、お待ちしてますね〜」


 僕は、彼らの話は聞こえていないフリをして、交換作業を続ける。交換する人と話しているから、聞こえないで通用するだろう。




「アイツらは、ネタ集めですよ。聞こえないフリで正解です。あっ、私もフルーツ氷で」


 ユキナさんに話しかけていた冒険者達が迷宮から出ていくと、交換の順番が回ってきた冒険者が僕に、小声で話しかけてきた。


「ネタ? って何の話ですか?」


「あぁ、聞こえてなかったんだな。五十嵐さんの言動は、誇張して記事にされているよ。『レイザーズ』は人数は多いが、強い奴はいない。情報も無しに最深層に行くわけがないんだよ」


 交換が終わっても、冒険者は少し横に外れただけで、帰ろうとはしない。こういう人達も少なくないのだろう。子供達も大変だな。


 僕は、次の人の交換作業を始めた。すると、その人も、話に加わってくる。


「回復薬ミッションを受けている冒険者が、何か情報を売ったんじゃないか? 新たな階層の出現を発見するのは、階層ボスのドロップ品や宝箱集めをしている奴らだ」


 妙な会話は笑顔でスルーして、さらに次の人の対応をしていく。だが、交換が終わった冒険者が溜まってきたな。チラチラとユキナさんに視線を向けている。


 一方でユキナさんは、引き連れてきた人達を待たせたまま、子供達の輪の中に入って氷菓子を食べ始めた。


(何してるんだ?)




 しばらくすると、交換所に並ぶ人の数は、だいぶ減ってきた。逆にユキナさんがいるためか、交換が終わった人達が集まっている。


(あれ? 2度目か?)


 交換が終わったのに、また列に並ぶ人を見つけた。それに気づいた整列係の子供達が近寄っていく。だが、子供達に指摘されても、無視するんだよな。


(これが原因か)


 この10日ほどで、急に容器が減ったのは、何度も並び直す人がいるからだ。子供達ばかりだから、舐められているらしい。まぁ、護衛のアントさんの眷属けんぞくは居るけど、暴力沙汰にならなければ動かないだろう。


 それに、並び直し禁止を迷宮情報に書いてないから、強く断ることも難しい。


(あっ、そうだ)



「容器の減りが早くて、ちょっと困ってるんですよ。交換所に何度も並び直しをする人がいるんですが、『レイザーズ』に関係あるのかな」


 集まっている冒険者達に、そう話しかけてみると、その中の一人がクワッと目を見開いた。


「俺達が何度も並び直していると言ってるのか?」


(メンバーなのか?)



 ユキナさんがスッと立ち上がった。


「ケントさん、さすがね。この人が、誹謗中傷を広めている『レイザーズ』のメンバーね。アナタを捜していたのよ」


(さすがって、何?)


 彼女が連れてきた人達が、素早く彼を取り囲んだ。


「川上さん、コイツは、俺達のメンバーではありませんよ。『レイザーズ』の名ををかたる裏ギルドのチンピラだ!」



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