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173/409

173、夕方の1階層の交換所にて

 僕は、7階層のボス部屋に現れた転移魔法陣を使って、1階層へと移動した。着地点は、出入り口の階段近くだ。


「あっ、迷宮マスターさん、こんにちは!」


 交換所の整列を促していた子供達が、僕をすぐに見つけた。周りをよく見ているようだ。


「こんにちは。まだ早いかもだけど、容器の補充に来ましたよ」


「あっ、もう、倉庫にはほとんど無いです。そろそろアンドロイドさんに言わなきゃって、さっき話してました」


「えっ? 10日ほど前に、パンパンにしたのに?」


「はい。転移魔法陣を使って6階層に来た人が、帰りはここでフルーツ氷に交換して、出ていくことが多いです」


(スムージーより氷か)


 ボス部屋が面倒だから、そういうルートなのだろう。効率重視の冒険者がやりそうな行動だ。



 交換所横の倉庫に入ると、ほとんどの棚が空っぽだった。ということは、子供達には、とても忙しい思いをさせてしまっているな。


 僕は倉庫内を歩きながら、魔力を放つ。棚に並べることもできるが、それはしない。倉庫整理係の子供達の仕事を奪うことになる。


「わっ、どっちゃり……」


「ごめん、整理整頓して出せないんだ」


「いえ、大丈夫ですっ! 俺達が整理整頓します」


(ふふっ、かわいい)


 キリッとした表情で、元気よく返事をしてくれたけど、その表情には疲れが見える。他の子たちも同じだろう。


 人を増やす方がいいのだろうか。だが、たまたま、この10日ほどが忙しかっただけかもしれないよな。


 ここの子供達は、ラランが見つけた孤児達だ。新たに増やすのも難しいか。僕には、子供達の素質を見極める能力はない。調和を乱す子が入ると、うまくいかなくなる。




 倉庫を出て交換所に戻ると、僕の顔を指差す子供がいた。


「五十嵐さん、頬から血が出てる!」


「ほんとだ。倉庫で怪我したの?」


「血? あぁ、大したことないよ。これは新しい階層ボスにやられたんだよ。早く終わらせたかったから、防御無視で階層ボスの急所を探したからね」


「でも、痛そう……」


 子供達が心配そうに集まってきた。交換所に並んでいた冒険者達も、前後の人と、ヒソヒソと話している。


(ちょっと恥ずかしいかな)


 頬に触れてみたが、もう血は乾いているようだ。どんな傷かわからないが、回復薬を飲むほどではないと思う。2階層の僕の住居に入れば鏡はあるが、わざわざ見にいくのも面倒だな。



「みんな、忙しい思いをさせて、ごめんね。交換所が忙しい時間は、働いてくれる人を増やさないといけないね」


「忙しいのは今の時間だけです。外が少し涼しくなると、迷宮から帰る人が増えるんです」


(なるほど)


 比叡山迷宮での習慣が、一般的な冒険者の動きか。高熱化しているから、太陽が出ている時間帯は外は歩けないのだろう。僕達が帰還した2月でも、あんなに暑かったもんな。



「ケント様! 大丈夫ですかっ」


(ん? チビ?)


 昼寝をしていたのに、慌てて来てくれたみたいだ。白い髪は、寝ぐせがひどい。チビも過重労働だよな。朝から昼過ぎまでは4階層を巡回して、夕方遅めから日付が変わるまではゲームセンターの店長だ。


「チビ、ありがとう。たいしたことないんだけど」


「ダメです。少し、しゃがんでください!」


(チビに叱られた)


 4〜5歳の姿のチビの視線に合わせるため、僕はその場に座った。チビは、真剣な表情で僕の全身を調べたようだ。やがて、淡い光がチビの手から放たれた。



「ケント様、背中にも強い雷撃による炎症がありました。それに、何ヶ所か服が鋭い刃物で切られたような場所があります。軽装とはいえ、ケント様の自然防御を貫いています。階層ボスは強くなってきています。もっと警戒してください」


「うん、わかったよ。チビ、ありがとうね。でも、チビが治してくれるから、ノーガードでも大丈夫だよ」


「ダメですっ! 階層ボスに挑むときには、ちゃんとガードしてください」


「ふふっ、はぁい」


 チビは、プリプリと怒っていた。アンドロイドとは、ある意味、真逆なのかもしれない。


 白い猫は、僕が防御無視で短時間で階層ボスを討ったことを、喜んでいた。おそらく、迷宮の主人の強さが、誇らしいのだろう。


 一方で、チビは、僕が些細な怪我をすることも嫌なようだ。ガーディアンは心配性なのかもしれないな。




「あっ、そうだ。みんなに新しい階層のドロップ品を食べてもらいたいんだ。味の感想を知りたい。食べ方が少し難しいから、迷宮情報に注意書きをするべきか迷ってるんだよね」


 僕は、7階層のボスの宝箱の中身をアイテムボックスから取り出して、交換所のカウンター内に置いた。


「お菓子? あれ? なんか硬いかも」


「棒付きのアイスキャンディだよ。棒を持って食べるんだけど、最後の方になると、溶けたアイスが棒から落ちることが多いんだ。上手く食べられるか、みんなに試してもらいたい」


「うん、いいよー」


「でも、今、お仕事中だから」


 休憩することに罪悪感を感じる子が多いことは、僕にはわかっていた。だから、こういう言い方をしてみたんだけどな。



「迷宮案内への注意書きが必要かどうかの調査だよ。これも、仕事だよ」


「うん、でも……」


 子供達は、交換所に並ぶ人達の方に視線を移した。ほんと、責任感が強いよな。


「それなら、半分ずつ交代にしよう。僕が交換所の手伝いに入るよ」


「あっ、ボクもお手伝いします」


 チビはそう言うと、カウンター内に入ってきた。チビは、アイスキャンディは苦手かもしれないな。



「じゃあ、半分の子は、調査の仕事だよ」


 少し大きな子がそう声をかけると、カウンター内にいた子が、交換所の横に並んで座った。


 僕は、トレイに氷を出して、その中にガリガ○君のようなアイスキャンディを並べる。


「好きな色を取って、食べてみて。氷菓子だから、ちょっと硬いけど、すぐに食べやすい硬さに変わるよ」


「「はいっ!」」


 子供達は、元気に返事をして、不思議そうな顔をしながら、アイスキャンディを食べ始めた。


 それを見ていた冒険者達は、タブレットを取り出して何かを話し合っている。新たな階層情報を見ているみたいだな。




「お待たせしました。次の方、スムージーとフルーツ氷、どちらにしましょうか?」


「まさか、五十嵐さんが対応してくれるとはな。俺はフルーツ氷で頼むよ。交換品は4階層の果物だ」


 僕は、容器にフルーツ氷を入れて、顔馴染みの冒険者に手渡す。


「はい、どうぞ。またのご利用をお待ちしてますね」


「あぁ、毎日来てるぜ。7階層のボス部屋は楽しみだな。今夜は情報を集めて、明日攻略するぜ。迷宮マスターに傷を負わせる階層ボスだからな」


(やはり、恥ずかしかったか……)



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