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17、毒舌アンドロイド

 翌朝、僕は外の騒がしさで目が覚めた。大勢の避難者がいるからか。


『マスター、おはようございます』


「おはよう。なんだか騒がしいね。灼熱低気圧は、まだ去ってないか」


 比叡山のダンジョンが足止めをするという説明を受けたっけ。モンスターがダンジョンの主人ねぇ。まぁ、でも魔王達も、人間から見ればモンスターだよな。



『灼熱低気圧の中心は、今、迷宮特区の真上で停滞しています。今は風が弱い状態なので、迷宮特区内の移動が可能になっています。外が騒がしいのは、マスターの住居近くで、避難者達が話しているためです』


 そう言われて外を見ると、確かにすぐ近くに大勢の人がいるようだ。この丸太小屋と横の服屋には結界があって近寄れないみたいだな。



 銀色の猫の置物は、壁に映像を映した。


 灼熱低気圧による被害状況がわかる。帰還者が頑張って、被害を減らしている様子が説明されていた。


 天気レーダーのようなものを見ると、琵琶湖の上空には雨雲もないようだ。比叡山迷宮が、エネルギーを吸収しているためか。



「風が弱いなら、ダンジョンの出入りもできるよね。避難者への朝食は届いたのかな」


『マスター、朝食は届きません。迷宮特区に販売所のある企業迷宮が、襲撃を受けたようです。灼熱低気圧によって出入り口が壊れた食品工場が狙われました』


「帰還者が襲撃したのか」


『いえ、ただの人間です。災害時には無法地帯と化します。食品工場はよく襲撃されます』


「火事場泥棒だね。こんな状況じゃ、仕方ないか」


『はい。愚かな人間は救いようがありません』


(また、毒舌になってるな)



「でも、こんな悪天候の中では、泥棒するのも命懸けだよな。本当に深刻な状況だ」


『はい、深刻な状況です。迷宮内に愚かな人間が2万人近く居ます。ポンコツが眠っている間に、他の迷宮案内者が受け入れたのです』


「そんなに入れる?」


『階段にも大勢の人間がいます。そして、ポンコツはこの近くで騒いでいます』


 ガヤガヤと騒がしい声は聞こえなくなり、一部の話し声だけになった。凄いな、これもアンドロイドのチカラか。


 どうやら、カナさん達を結界が弾いているらしい。アンドロイドが結界の強度を上げているようだな。だが頻繁に、何かの術が当たってる。



「なるほど、それで毒舌になっていたんだな。迷宮案内者達が、結界を壊そうとしているね。僕に急ぎの用事があるのかもしれない」


『ポンコツには壊されませんが、あの濃いオーラの迷宮案内者の術は、油断できません。レジストにエネルギーを使わされます』


「あっ、エネルギー残量は大丈夫? 昨夜は20%と言っていたけど、建物を増やしたし、小川の水の補充とか、いろいろ維持に消費するかな」


『問題ありません。今、エネルギーは80%です。階段に大勢の人間がいることで無駄な消費があるため、エネルギーはあまり溜まりません』


(これも毒舌の要因か)



「カナさん達の用件はわかる? 結界を壊そうとしているなら、急ぎの用事だよね。またメロンパンを降らせてくれということかな」


 僕は、一応アンドロイドに尋ねてみた。今、結界を緩めると危険なことは、理解できている。僕のいる場所には、ダンジョンコアがあるからな。


『おそらく、ポンコツは自分に非がないと、言い訳をしたいのでしょう。受け入れ可能人数を大幅に超えています。通常の、1階層しかない迷宮なら崩壊します』


「えっ? 崩壊? あっ、維持のエネルギー切れになるのか。それでカナさんは慌ててるんだな」


『はい、ご推察の通りです。ポンコツがポンコツすぎるから、その部下もポンコツなのです』


(あはは、怒ってる……)



「じゃあ、2階層を造ろうか。モンスターが出現してしまうだろうけど、これだけの人がいれば大丈夫でしょ。強い迷宮案内者も来てるし。あっ、皆に予告をする方がいいかな」


『予告は逆に混乱を招きます。階段出現場所から離れようとするので、この人数での予告は危険です』


「そっか。じゃあ、予告なしで始めようか」


『はい、マスター、台座に手をかざしてください』


(あっ、機嫌が直った)


 ダンジョンコアを守る台の上にいる銀色の猫の頭を撫でると、本物の猫のように目を細めている。


 台座が淡い光を放ち始めた。


 僕の頭の中にある2階層のイメージを、アンドロイドは既に把握しているらしい。何かを問われるような感覚もなく、足元に迷宮のエネルギーが集まっているのがわかる。



『マスター、私は先に2階層へ移動します。その後、2階層への階段が出現すると同時に、1階層にもモンスターが出現します。私は2階層にいても、マスターの声は聞こえるのでご安心ください』


「あぁ、わかったよ。ここの結界は消えるかな?」


『簡易結界に変わります。普通の人間にはマスターの住居は見えませんが、帰還者や一部の冒険者には見えるようになります』


「わかった。じゃ、よろしくね」


 僕がそう言った直後、銀色の猫を乗せた台座は、床に吸い込まれるように、スーッと消えて行った。




 ◇◇◇



 ガタン!


「きゃー! 地震!?」


 階段が出現し、結界も変わったようだ。また、騒がしさが戻ってきた。


 ダンジョン内に大きな音が響いた。僕がイメージした通り、この丸太小屋の近くに2階層への階段ができている。


 1階層も少し変わった。草原に、石畳の道を作ったんだ。長い階段を降りてきて、そのまま道なりに進むと、2階層への階段がある。まぁ、目印だな。


 石畳が地面から浮き上がるように現れたから、それを、地震だと感じた人がいるようだ。



「まさか崩壊? 崩壊するの? あっ、やしろがあったわ! 五十嵐さん、起きて! 大変なの!」


 ドンドン!


(はい?)


 カナさんが、必死に扉を叩いてる。丸太小屋のすぐ近くに、2階層への階段ができたのに、彼女は気づいてないのか。


 あちこちで悲鳴が聞こえたから、パニックになっているのかもしれない。



「カナちゃん、おはようございま……うわっ」


 扉を開けると、カナさんは勢いよく飛び込んできた。


「た、大変なのよ! 過密で迷宮が崩壊するわ! さっき、すごい音がしたし、地震も起こったの。私が台座の制御を……あれ? 台座は? アンドロイドは?」


「今、2階層を造ったので、ここにはありませんよ」


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