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169、第7階層に出現するモンスター

「さすがに寒いな」


 7階層へ降りる階段にまで吹上げてくる風の冷たさに、僕は懐かしさを感じた。こういう強風だからこそ、ここは大変なんだ。


 アンドロイドは、この風まで正確に再現したみたいだな。だが、まだ肝心のモンスターができていない。やはり、わかりにくいのだろう。


(真夜中か)


 天井を見上げると、まるでプラネタリウムのように、明るい星のようなものが見える。この階層の灯りは、今のところ、これだけだ。


 7階層のほとんどは、湖になっていた。階層の壁沿いには、10メートルくらいの幅の土手があるが、それ以外はすべて湖だ。その湖の中心には、小さな島がある。あれが、ボス部屋だろう。


 そして、この湖は厚い氷に覆われている。正確にいえば、湖底のやしろ以外の部分は、すべて完全に凍っている。



 これは異世界にいたとき、ラランの国の近くにあった、エレメントの氷湖をイメージしたものだ。


 あらゆる水を司る青の魔王が、未統治エリアのあちこちに、城を築いていたらしい。水脈を確保するために不可欠な拠点なのだと、白の魔王フロウが教えてくれたことがあったっけ。


 ラランは、青の魔王が、あちこちに昼寝用のお家を作っているのだと言っていたが。


 赤の魔王ラランの国のまわりには、凍った水場がいくつもあった。水面だけでなく、湖底までガッツリ凍っていたのは、ラランの国のまわりだけだ。


 しかも、表面には数センチの水の膜があった。ラランの国の気温が高いためだろう。だから、本当に厄介だったんだよな。


(ツルッツルな上に強風だもんな)




『マスター、このような感じでよろしいのでしょうか。あの、この湖のモンスターの再現が難しく……』


(うん、完璧だよ。仕上げをするね)


 僕は両手を広げ、迷宮のエネルギーを集め、そして僕自身の魔力も絡めていく。イメージを明確に抱きながら練り上げていく、という方が正確かもしれない。


 足元には、銀色の猫が現れた。


 やしろから白い猫が見ているはずだが、すぐ近くで見たいのかな。



 湖全体に広がるように、練り上げたエネルギーを放つと、湖が強く輝き、僕のイメージ通りのものが創造されていく。これは、何度やっても面白い。


 凍った湖から、無数の1メートルくらいの四角い氷の板が、生えるように現れた。氷の板には、それぞれ1体ずつ、エレメントが挟まっている。いわゆる、エレメントの氷漬けのようなものだ。


 氷の板が現れたことで、幻想的な美しさの階層に変わった。エレメントが放つ輝きがライトの役割を果たしている。


 このエレメントは、氷の板に触れると飛び出してくるモンスターだ。赤いエレメントは炎を飛ばし、青いエレメントは水を吹きかけてくる。緑のエレメントは強風を起こし、黄のエレメントは雷撃を放つ。


 凍った湖で、炎は表面の氷を溶かし、寒いのに水を吹きかけられると生死にかかわる。強風は寒さをもたらすだけでなく、ツルッツルの湖では進むべき方向を変えられてしまう。びしょ濡れの状態での雷撃は、ダメージが数倍に増幅される。


 つまり、このモンスター達は、かなり厄介なんだ。氷の板の間隔は不規則で、1メートルも開いてない場所もある。普通の装備で氷湖を歩こうとするのは、自殺行為だ。




『マスター、あの氷の板が、モンスターなのですね』


「そうだよ。これが厄介なんだよな」


『モンスターは魔導系ですが、戦闘能力としては、6階層のミミックよりも低いです』


「まぁ、見ててよ。どうなるか」



 僕は、アイテムボックスから、異世界で使っていた靴の上から装着する靴というか道具を取り出した。銀色の猫は不思議そうに道具を眺めている。


 道具を足に装着すると、スケート靴のようになる。ただし、エッジは1本ではなく2本あるから、スケート靴に比べて安定性は高い。



 僕が氷湖に入ると、氷の板のせいで左右両方から、強い風を感じた。湖は、湖上のエネルギーを吸収し始めている。こんなに寒いのに、僕の重さを感知して、湖面の氷が溶けてきた。湖がエネルギーを吸収しやすくするために、湖面を少し溶かすんだったよな。


 足踏みをして確認してみたが、思いっきりツルッツルになってきた。まさしく、僕のイメージ通りだ。



「じゃ、ちょっとテストしてくるね」


『はい。私もご一緒したいです!』


「氷の板に触れると、モンスターが出て来て襲われるよ?」


『マスターの肩に乗りたいです!』


「落ちても知らないよ? なかなか助けられないかもしれない」


『私は分身なので、平気です!』


「わかった、じゃあ、左肩に乗ってくれる? その方が動きやすいから」


『かしこまりましたっ!』


 銀色の猫は、僕の左肩に飛び乗ってきた。


(めちゃくちゃ嬉しそうだな)


「じゃ、行くよ〜」



 僕は、剣を抜き、スーッと近くの氷の板に近寄る。風のせいで、触りたくなかった黄のエレメントの氷板に触れてしまった。


 氷の板はガラガラと崩れ、モンスターが現れた。そして、すぐさま雷撃を飛ばしてくる。


 剣で受けたが、そのわずかな勢いで、僕は斜め右へと滑っていく。そして、今度は赤のエレメントだ。剣には雷撃を捕まえていたが、これは使えない。振り払うと、雷撃は、別の氷の板を砕いた。


 しかも、氷の板の再生スピードが早い。崩れた板がスッと消えると、また湖から生えるようにエレメントを挟んだ氷の板が伸びてくる。そのせいで、触れるつもりはなくても、触れてしまうんだよな。


(異世界と同じだ)


 ただ、エレメントは、異世界にいた魔物よりも、かなり弱い。まだ7階層だから、これでいいだろう。



『マスター、次から次へと、モンスターが……』


「ドロップ品を拾う余裕がなさそうでしょ? 普通は、こうなるんだよ。次々と連鎖して、様々な種類のエレメントが増えていく。厄介でしょ」


『倒せるのでしょうか』


「そろそろ、真面目にやろうか」



 僕は、剣に氷を纏わせる。シューッと滑りながら、すべてのエレメントに氷刃を飛ばした。新たな氷の板に当てないようにしないといけないから、正確にターゲティングする必要がある。


『すごいです! マスター!』


「ふふっ、ありがとう。異世界では、何度も氷の湖で死にかけたからね。スケートは上手くなった」


 僕は、ドロップ品を集めながら、湖岸に戻った。


(あー、アイスか)


 ドロップ品は、ガリガ○君のような棒付きアイスだった。黄はグレープフルーツ味、赤はイチゴ味、緑はキウイ味、青はお馴染みのソーダ味か。


 寒い時に、さすがに食べようという気にはならない。僕は、簡易魔法袋に放り込み、アイテムボックスに入れた。




『マスター、やしろへお越しください』


「うん、わかった。ワープしか行く手段はないかな?」


『はい、凍った湖を通る通路はありません』


 僕は、銀色の猫を肩に乗せたまま、ダンジョンコアのあるやしろへと、迷宮内転移を使った。



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