表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/409

168、雲の上の個人基地

『マスター、海水温度の高い危険エリアに台風が発生しました。爆風化の恐れがあります。今の予測では60%の確率で、西日本に上陸します』


 レストランを出ると、アンドロイドから念話が届いた。


(爆風化? 初めて聞いたけど、巨大化とは違うの?)


『爆風化は、風速の計測不能時の表現です。昨年、爆風化した小型台風の上陸によって、富士山が消滅しました』


(えっ!? 富士山が無くなったの?)


『はい。活火山ですから、その影響によりマグマが広範囲で噴き出したため、高位の魔導士達によって修復が行われました。見た目は、ほぼ元に戻りましたが、樹海は消滅したままです』


(そ、そう。富士山って、噴火するのか……)


『はい、高熱化により、火山活動も活発化しています。先程発生した台風の大きさは未確定ですが、上陸を回避できたとしても、前回よりも広いエリアからの避難者が想定されます』


(そうだね。近づいてくるのは、いつ頃になるのかな)


『まだ不確実な状態ですが、早ければ5日後から、台風の影響が出始めると予想されます』


(そうか、わかった。じゃあ、今のやしろを移して、雲の上はすべて避難所にしたい。7階層を造るよ)


『かしこまりました! ゲームセンター上空に移動します』




 ◇◇◇



 ダンジョンコアの台座は、最深層であるの6階層の雲の上にある。台座を守る建物はない。だが台座付近には透明な結界があり、その部分がやしろという位置付けだ。


(あっ、匂いが違う)


 今まで気づかなかったが、結界内の雲は、綿菓子ではないから甘い香りはしない。この結界は、新たな階層を造っても、僕の住居スペースとして残るだろう。



『マスター、ダンジョンコアの台座に手をかざしてください。新たな階層のイメージが難しいので教えてください』


 台座には、白い猫がいた。僕は、白い猫の頭に手を乗せる。すると、くすぐったそうに目を細めていた。


「あぁ、僕の思考はもう覗いてたんだね。7階層には、エネルギー倉庫の役割をさせるよ。そうすれば、迷宮の悪い噂を流されて冒険者が減っても、逆にたくさんのエネルギーが集まっても、調整ができるからね」


『迷宮エネルギーの貯蔵量は、階層と容積により決められています。大きな階層にするのでしょうか』


「いや、この6階層より狭くていい。湖がエネルギーを蓄えるからな」


『私には理解ができない構造です。マスターの記憶に忠実に造ることは可能ですが、氷は、えっと……』


「仕上げは、僕がやるよ。おそらく、そうしないとエネルギー倉庫にはできないだろうからね」


『かしこまりました。仕上げはマスターにお任せして、私は、私に出来ることを完璧にします』


「うん、よろしくね」



 ダンジョンコアの台座が淡い光を放ち始め、足元の雲には迷宮のエネルギーが集まってきた。


『マスター、これより7階層を造ります。私は先に7階層へ移動します。6階層のボス部屋に、7階層への階段が出現します』


「うん、わかった」


 僕がそう返事をすると、白い猫を乗せたダンジョンコアの台座は、静かに雲に吸い込まれるように消えていった。




 ダンジョンコアの台座が無くなると、結界は、円形の建物に変わった。外に出てみると、真っ白な円柱のように見えた。


 アンドロイドは、今回は、結界の説明をして行かなかったな。僕のイメージする新しい階層がわかりにくいから、余裕がなかったのかもしれない。


(とりあえず、ボス部屋だな)



 建物の中に戻ると、壁に大きな画面がくっついているのが見えた。触れてみると、1階層から4階層までのやしろ跡と、5階層の転移魔法陣のあるガゼボの様子が映し出された。映っているのは、台座があった場所か。


(あっ、増えた!)


 アンドロイドが、7階層に新たなやしろを造ったようだ。やはり、湖底になったな。



『マスター、もう基地を造ったのですか!』


(へ? 基地? あぁ、円柱みたいな白い建物になったよ。壁にくっついてる画面には、やしろがあった場所の様子が映ってる)


『その画面というものは、私には認識できません。マスターにのみ呼応する魔道具だと推察します』


(そうなの?)


『はい。私には、マスターが基地を造られたことしか感知できません。その画面のことは、口外しないでください。迷宮特区管理局が来ます!』


(管理局? どうして?)


『迷宮内に、個人基地を造ることができるのは、様々な条件をクリアした迷宮の主人だけです。現在、迷宮特区には6つの個人基地があります。ですが、マスターのように、基地内に魔道具を創造した人はいません。基地内に高度な魔道具を設置するには、迷宮特区管理局の許可が必要です』


(僕が魔道具を作ったのかな?)


『私にはその創造能力はありませんから、マスターが作られた以外に考えられません。やしろが見えるということは、その魔道具は、あらゆる情報にアクセスできます。マスターよりも迷宮ランクの低い迷宮を、覗くことも可能でしょう』


(えっ? それってヤバくない?)


『ヤバいです。まだ、他へのアクセスはしないでください。迷宮ランクがDランクでは、逆探知されます。高度な魔道具の設置が、迷宮特区管理局にバレます』


(わかったよ。とりあえずは見るとしても、僕の迷宮内だけにするよ)


『はい、お願いします。私も、管理局にも事務局にも、知られないようにカモフラージュします。基地を強結界で覆います!』


 建物を覆うエネルギーを感じた。迷宮は、こんなに強い結界を張って、維持できるのだろうか。



『維持は余裕です。マスター、早く仕上げに来てください』


(あぁ、そうだったね)


 僕は、やしろ跡の基地を、ボス部屋の上へと移動させた。下からは、雲が広がったように見えるだろう。



 雲の隙間から、ボス部屋の前へと飛び降りた。


(これ、便利だよな)


 広い道はテントで埋め尽くされているから、雲の上を通れる道を作っておこうかな。




 ◇◇◇



 僕は剣を装備して、ボス部屋の扉を開く。


(あれ? あっ、そうだった)


 豪華な木箱があるだけだったから、一瞬、ボスが居ないのかと錯覚した。やはり、ボス部屋内のこの霧は、強い幻惑作用がある。


 木箱に近寄っていくと、ギィイッと開いた。


『よく来たな、人間!』



 確か、前回はオーバーキルしてしまったんだよな。だが、手を抜きすぎると斬れない。


 剣を抜き、炎を纏わせた。高く跳躍して、叩き割るイメージで斬る。


(よし!)



 討伐ドロップ品は、普通の回復薬30本だった。宝箱から、カップ麺の詰め合わせを取り、どちらもアイテムボックスに放り込む。



 僕は防寒コートを着てから、ボス部屋の奥に現れた階段を、7階層へと降りていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ