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167、赤髪の魔王と別の誰か

「僕が目指しているのは、僕がいた時代の日常だよ」


「ふぅん、それなら、シルバの爺さんに協力することもあるってことか?」


 赤髪の魔王は、僕にそう尋ねながらも、返事は期待していないようだ。イチゴのアイスクリームが気に入ったらしく、溶けたアイスまで、パンを使って綺麗に食べている。


 監視塔では迷宮総監が、彼は監視塔と西部エリアとの二重スパイだと言っていた。だが、二重スパイというより、赤髪の魔王は、口が軽いだけではないだろうか。


 彼は、銀次さんから僕を調べるようにと言われて、ここに来たのだろう。ということは、三重スパイだよな。銀次さんは灰王神に従っているが反逆心がある。


 赤髪の魔王の性格がわかった上で、彼らは情報収集に利用しているのだろうか。



「白髪の彼のことは、僕にはよくわからない。そもそも、帰還してからまだ日が浅いからさ。今の日本のことも、イマイチ把握できてないよ」


「なるほどね。2月2日の帰還者ってことは、もうすぐ3ヶ月か。それで、こんなレストランを作るんだからな。五十嵐さんの価値観は、飯のことが最優先ってことか」


(あれ? 雰囲気が変わった)


 赤髪の魔王と話しているのに、別の誰かと話しているような気になる。彼の二面性なのか、もしくは別人が憑依している?


「帰還した日にもらった人気の弁当に、かなり衝撃を受けたからな」


「あー、変な薬みたいなやつか。アレも一応、帰還者の叡智って言ってたよ。帰還者がいなければ、日本は、もうとっくに滅んでるだろうね」


(やはり、別人っぽいな)


 僕は、憑依系の術には詳しくない。だから、赤髪の魔王が今、どういう状態なのかわからない。でも、彼の意識はあるよな?


 このような術を使えそうなのは、冥府の覇王である銀次さんか。比叡山を離れられない銀次さんが、彼を使って僕と話しているのか? 


(いや、ちょっと待て)


 赤髪の魔王は、シルバさんの話を断ったとか、彼に協力するという表現しかしていない。すなわち、僕が思い描くものとは異なる可能性もある。銀次さんは、部分的な記憶消去ができるから、聞かせたくない話は消したかもしれない。


 僕が勘違いするように、上手く誘導されているなら……銀次さんが僕に何を言ったのかを聞きたい誰かがいる?


(慎重にいかないとな)




「五十嵐さん、どうしたんだ? 急に黙り込んでさ」


「あぁ、イチゴじゃなくて、ミカンならどうなんだろうって、ふと思ったんだよね」


「何の話? あっ、アイスクリームか! これ、美味いよな。つぶつぶが入っていて、シャリシャリするから、驚いたぜ。ミカンだと、シャリシャリしないんじゃないか?」


「じゃあ、モモはどう?」


「モモのアイスクリーム? 食べたことないけど、悪くないんじゃねぇの?」


(上手くごまかせたか)


 赤髪の魔王は、緑髪の魔王にも意見を聞いている。二人は、互いの呼び名は無いのだろうか。



「アイスクリームなら、抹茶やチョコがあると嬉しいです」


 緑髪の魔王は、少しオドオドしながら、僕に直接、意見を言ってくれた。


「おっ! やっぱり? 抹茶は今、探してるんだよ。なかなかメーカーさんが見つからなくてね。チョコレートパウダーは見つけたけど、貴重品だから量がない。チョコということはカカオか。新たな階層で作ろうかな」


「はぁ? 五十嵐さん、何を言ってるんだ? 他の迷宮とは、やってることが違いすぎるだろ」


「僕は、他の迷宮って、ほとんど行ったことないんだよね。キミの所は、こことは全然違う感じ?」


 僕がそう聞き返すと、赤髪の魔王の気配が元に戻った。もちろん、僕は何も気づかないフリをしている。



「比叡山の西部エリアは来たことないのか? あぁ、監視塔で、捕まってたな」


「行ったことないよ。興味はあるけど、僕は冒険者レベルが低いから、たぶん入場規制に引っかかると思う」


「そんなもん、無視すりゃいいのに。迷宮特区はうるさいのか」


「そのあたりはわからないけどね。キミの迷宮にも、青虫カリーフが生まれる場所があるんでしょ?」


 僕がそう尋ねると、赤髪の魔王の気配が、また変わった。見た目は何も変わらないしオーラもないけど、何かが違う。



「青虫カリーフが生まれる場所を探しているなら、俺達の西部エリアに来ればいい。運が良ければ、灰王神に会えるぜ」


(灰王神!)


 なんだか違和感を感じる。胸騒ぎというか、勘というか……。ここで食いつくのはマズイ。


「探しているというほどでもないんだけどさ。僕の迷宮に放り込まれた青虫カリーフが、どこの迷宮で生まれたのかは、ずっと気になってるんだ」


「そんなのを探して、どうするんだよ?」


「近い環境を作ってあげたくてね。迷宮の瘴気は作らないけど、マナ濃度は合わせてやりたい」


「ふぅん、変なやつだな。青虫を飼ってるのか」


「もう、成虫になったけどね。僕の迷宮のガーディアンだよ。彼の住まいは、今はただの草原なんだ」


(あっ、また消えた)


 その瞬間、赤髪の魔王は、少し変な顔をした。何かを命じられたのだろうか。だが、誰が彼を……まさか、灰王神? なわけないか。



「えーっと、まぁ、遊びに来たいなら、案内してやるぜ。青虫爆弾を集めている迷宮なら知ってる。主人しゅじんは魔物だから、話は通じないけどな」


「そう。じゃあ、僕が西部エリアへ行けるようになったら、案内してよ。でも、連絡方法がないか」


 僕がそう言うと、赤髪の魔王は目を輝かせた。


「俺は、また食事に来るぜ。まぁ、シルバの爺さんに言えば、アカに伝わるけどな」


「裏ギルドには出入りしないからな。まだまだ先のことだよ。僕の冒険者レベルは低いからさ」




 突然、ピアノの演奏が始まった。他の楽器は居ないから、弾きたい人が弾いているのかな。


「すげ〜、音楽だ」


「夕方以降は、数人での演奏があるよ。夜は、お酒の提供もあるからね」


「夜か……」


 赤髪の魔王は、緑髪の魔王の方をチラッと見て、頭を抱えた。彼女は、キラッキラな笑顔だ。


 夜は、比叡山を離れにくいみたいだな。それを知れただけでも、大きな成果だ。



「しかし、予想外だったぜ」


「何が? あぁ、レストランか」


「まぁ、それもあるけどな。五十嵐さんが普通に話してくれるとは、全く思ってなかった。俺は、カルマの厄災の伝承が語り継がれる異世界にいたからな」


「野口さんと同じだったね」


「まぁな。今日は、この数年で一番感動した日になった。あっ、そろそろ帰るよ」


(感動?)



 席を立つと、黒服が先導して、会計レジまで前を歩く。料理を運ぶ黒服も、ワゴンを止め、深々とおじぎをしている。赤髪の魔王は、それが楽しいらしい。


「帰りも、王様の気分だぜ」


 会計伝票を分けていたが、赤髪の魔王は、二人分の1,200万円と、店へのチップとして600万円を払って行った。


(僕は、おごられてないよな?)


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