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165、冒険者からの魔王情報

「五十嵐さん、比叡山の魔王達がいる間は、ここに居てくださいよ。俺達には厳しすぎる」


 魔王達がレストラン前から立ち去ると、馴染みの冒険者達が、僕に訴えかけてきた。迷宮内では、高位の冒険者には、争いを仲裁したり規律を守らせる役割があるらしい。


 レストランがオープンしたから、並んでいた人達は、皆、店内に入ったようだ。企業さんや企業迷宮協会の人は、食べ放題の食堂の方に入ったみたいだな。


 二人の魔王は服の景品交換所で、服を選んでいるようだ。眼鏡のアカの魔王は、2階層の居住区の酒屋でおとなしく行列に並んでいる。



「大丈夫ですよ。三人とも、ちゃんと見張ってますから。居住区にいる魔王は、一般人のフリをして列に並んでますよ」


「髪の黒い魔王は呪術系だから、何かをしても、すぐに五十嵐さんが解除してくれるだろうけど、あの二人は戦闘系だぜ? 大きなチカラで何かを破壊されると、迷宮自体へのダメージが半端ない。ここは最深層だろ」


「さっき、妙なことを言っていたな。五十嵐さんは、静かで常識的な人なのに、凶悪な魔王だとか」


「あれは、五十嵐さんへの嫌がらせのために言ってたんだろ。シルバの名前も出ていたな。五十嵐さんは、シルバと知り合いなのか?」


(どうしよう)


 下手にごまかすと、嘘がバレたときに信用を失う。



「シルバという名か、本人からは聞いたことはないですが、それらしき人は、比叡山の企業迷宮で会ったことがありますよ。あまりよく知らないですが」


「そうか。シルバは、裏ギルドの創設者だよ。シルバー連合という組織の長でもある。俺達もそれ以上のことは、わからない。会ったかもしれないが、深く関わると記憶を消されるみたいだからな」


(なるほど)


「裏ギルドって、何をしてるんですか」


「さぁな。ただ、裏ギルドがあるから、比叡山迷宮と迷宮特区が共存できているのかもしれない。迷宮の新人潰しをしているのは、裏ギルドのミッションらしいけどな」


「それは迷惑ですね」


「だが、新人潰しにやられるような迷宮は、いずれ魔物化するだろう。迷宮の主人あるじが有能な人に変わる方が安定する、という話もあるけどな」


「五十嵐さんのめいきゅ……」


 冒険者の一人が、言葉を飲み込んだ。僕達の近くを、二人の魔王が通ったためだ。シャワールームへ向かっている。店員さんから説明を受けたのだろう。


(普通の恋人みたいだな)


 僕がここで立ち話をしていても、赤髪の魔王は気にしてないみたいだ。楽しそうに、彼女と笑い合っている。



「魔王がウロウロしてますが、本当に大丈夫ですか。服の景品交換所だけが目的じゃないのか?」


「シャワーして着替えるみたいですね。まぁ、荒っぽい冒険者も少なくないので、ルールに従っているうちは、あの二人を排除するわけにもいきませんよ」


「確かに、そうだが……」


 冒険者達は不満そうだな。いや、恐れているのか。比叡山で痛い目に遭ったのかもしれない。




「皆さんは、比叡山の魔王の顔をご存知なんですね。僕は、あの三人しか知らないですが」


 僕がそう尋ねると、冒険者達は互いに頷き合っている。


「比叡山迷宮は、30箇所ほどの魔物化した迷宮の主人が、魔王になったと聞いている。それ以外の魔物化した迷宮の主人はモンスターだからな。階層ボスにその座を奪われなかった強者が、魔王という定義だと思う」


「比叡山の西部ですね」


「あぁ、中央部にも怪しい迷宮はあるらしいが、今のところ魔王の存在が把握されているのは、西部の30個所だけだ。俺らも、その一部の調査に協力したからな」


「なるほど、だから、魔王の顔がわかるのですね」


「まぁな。30箇所のうち、特に能力の高い魔王が12人いる。比叡山十二大魔王と名乗っているぜ。この迷宮にいる三人は、その12人のうちの三人だ。名前には色の文字が入っているから、名前を聞けば判別できる。戦闘時には、同じ色同士がペアになることで、パワーアップするらしい」


「色は、赤と緑と、あとは?」


「厄介な順に、青、赤、黄、紫、緑、茶、だと言われている。派手な色の髪をしているのが戦闘系だ。それぞれの色は得意属性らしい。水、火、雷、毒、風、土、だったかな」


「なるほど、わかりやすいですね。それで、赤髪は緑髪を連れていたのか。弱点を補える」


(彼女だからかもしれないけど)


 監視塔の屋上で彼らが襲って来たとき、緑髪の魔王は、姿を隠して赤髪の魔王をサポートしていた。炎を使う敵には、普通は水属性を使う。緑髪の魔王は植物のようなものを操っていたから、水属性には高い耐性があるだろう。


「戦闘系の魔王は、比叡山から出るときは、同じ色の名前を持つペアで動くみたいだが、確かに、赤髪と緑髪は、弱点を補う関係にあるな。パワーアップ効果はなくても、苦手属性がない方が有利か」


「やはり五十嵐さんは、ここにいてくださいよ。本当に、ヤバイんだよ」




 二人の魔王は、シャワーをして着替えたようだ。


(やはり、レストランか)


 レストランの前で立ち止まり、赤髪の魔王がキョロキョロしている。僕を見つけると、なぜか手招きをしているが……。


「なぁ、こっちに来いよ!」


(でっかい声だな……)


「何? 僕は、冒険者さん達と情報交換してるんだけど」


「この店に入りたいんだけどさ。俺にケンカを売ってきた奴らがいるから、マズイだろ?」


「ケンカしなければ良いんじゃないの?」


「また、食事どころじゃないとか言うだろ。おごってやるから一緒に入ろうぜ。そっちの冒険者も連れて来ていいからさ」


 チラッと冒険者達の顔色を見てみると、予想通り、青ざめていた。


「どちらの店も高いよ? コインと電子マネーの両方が使えるけどさ。レストランの方は、座るだけでもチャージ料がかかるよ」


「大した金額じゃないだろ。五十嵐さんは、ほんとに金の価値がバグってるよな。席料100万円って、普通だぜ?」


(はい? 普通なの?)


 混雑を防止するために、レストランの方は座るだけで100万円を取ると、アンドロイドが決めたんだ。基本的にはコース料理だけど、追加の品も頼める。最も安いコースが500万円からだったと思う。



「キミにおごってもらう理由はないよ」


「でも、絶対にケンカになるぜ? 騒がしくしたら、迷宮から排除するだろ」


「当たり前だよ」


「絶対、食べたいんだ。帰還してから一度も、綺麗な服を着て食事をしたことがない」


(彼女のためか)


 緑髪の魔王は、帰ろうと言っている。だが赤髪の魔王は、彼女に食べさせたいみたいだな。



「わかったよ。でも、キミ達におごってもらうつもりはないから」


 冒険者達がどうするかと合図をしてみたが、無理だと返してきた。まぁ、そうだよな。


「五十嵐さんとは仲良くしたいんだ。まぁ、金はどうでもいいや。有り余ってるんだけどさ」


 おごらせると、絶対に厄介なことになりそうだ。


「とりあえず、入ろうか」


「やった! まともな飯が食える!」


 僕は、なぜか、魔王二人と食事をすることになってしまった。


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