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163、招かれざる客

 それから10日ほどが経過した。


 1階層の交換所の子供達は、ラランがまだ来ないことを話題にすることが増えてきたようだ。今、白の魔王フロウが眠っているから、五大魔王の一人であるラランは、そう簡単には来られないだろう。


 僕の迷宮は、6階層が混む状態が続いている。冒険者が集まることで迷宮のエネルギーは徐々に増えているため、ラランが残していったマナを蓄えた分身達は、まだ迷宮に吸収されずに、あちこちを漂っている。


 1階層には、ラランが体毛から創り出した分身もいるから、彼女は常に、僕達の状況を把握しているのだと思う。子供達がこれ以上騒ぎ始めたら、遊びに来るんじゃないかな。


 テントを張って居座る冒険者たちは、ダンジョンコアを探している人もいるだろうが、ほとんどがゲームセンターに通っていることがわかってきた。


 相変わらず、僕の迷宮への誹謗中傷は酷いらしいが、冒険者達は、気にしなくなってきたようだ。それほどゲームセンターにハマっているのか。


 そして、今日は特にすごい人だ。しかも、皆の装いが違う。服の景品交換所で手に入れたスーツを身につけた人がとても多い。



「五十嵐さん、レストランの開店、おめでとうございます! 2階層の居住区から、花を贈らせてもらいましたよ」


 開店前のレストランの前でボーっとしていた僕に、声をかけてきた数人の男性。一瞬、誰だかわからなかったが、居住区に入居している企業さんだ。名前は忘れたが、企業迷宮協会の人もいる。


「ありがとうございます。えっと、めでたいことなのでしょうか?」


「そりゃそうですよ! あっ、つい、でしゃばってしまいました。すみません。企業迷宮協会の進藤です。一度お会いしたことがあるのですが……」


「進藤さん、ご無沙汰しています。内海米菓の社長さんと一緒に、訪ねて来られたことがありましたね」


「おお! 覚えていてもらえて光栄です! 確か五十嵐さんは、2月の初めに迷宮オープンされたばかりでしたよね? まだ4月の終わりなのに、ここまでのクオリティの店を作られるとは、感服いたしました」


(名前は覚えてなかったけどね)


「まだ、2階層のメインストリートは、できてないですけどね」


「まだまだ企業が足りないのですよね? 五十嵐さんの迷宮に支店を置きたいという企業は非常に多いので、是非ご相談いただければと思います」


 進藤さんは、さすが抜け目ないな。2階層の居住区に入居する企業さんは、どこも業績を伸ばしているらしい。弁当の効果だと思うけど。



「進藤さんは、すぐに営業するんだから。あはは、五十嵐さん、気にしなくていいよ。彼は真面目なんだよ」


 企業さん達が、進藤さんの話をとめてくれた。


「はい、でも足りてないんですよね? 安全な場所が。迷宮内はモンスターもいますから、安全とは言えませんけど」


「まぁ、そうだな。俺らも羨ましがられて、変な逆恨みをされることもあるけどな。仕方ないぜ」


 企業さん達は、表面的には、みんな友好的だ。だが内心はわからない。彼らに雇われて漁師をしている人達も、ダンジョンコアの場所を探してたしな。


(あっ、疑心暗鬼のときの棒!)


 僕は、ユキナさんがくれた不思議な金属棒を、アイテムボックスから出した。


 魔力を帯びた金属棒に触れると、僕の目に映る人達全員の前に、透明なフィルムのようなものが現れ、色分けされる。1本は井上さんに差し上げたけど、あの時から使ってなかったな。


(全員、青だ)


 企業さん達、疑ってごめんなさい。僕は、金属棒をアイテムボックスに戻した。




『マスター! 招かれざる客です!』


 アンドロイドから短い念話があって、すぐに切れた。ダンジョンコアを守ることに集中しているようだ。詳細を尋ねない方が良さそうだな。



「ひっ! アイツは……」


 近くに並んでいた冒険者が、真っ青な顔で固まっている。


「五十嵐さん、マズイぜ。アレは比叡山の魔王だ。しかも、二人揃ってる……」


 小声で教えてくれたのは、馴染みの高レベル冒険者達だ。剣を装備しようとしたから、僕がそれを制した。


「大丈夫ですよ。ここはゲームセンター内ですが、僕の迷宮です」


「でも、店長はこの時間は居ないだろ。五十嵐さん一人では、さすがに……」



 まがまがしいオーラを隠さずに、近寄ってくる男性が二人。ゲームセンターにいたお客さん達は、弾かれたように道をあけていく。


 店員達は、他のお客さんの様子を見て、怯えたようなフリをしている。この店内には、アントさんの眷属けんぞくの蝶が、常時30人はいる。僕の近くにも数人いるから、何も警戒する必要はない。




「おう! 入場料を払って来てやったぜ」


 オレンジ色の髪をなびかせ、赤髪の魔王は、僕の前で挑発的な表情で立ち止まった。その後ろには、アカと呼ばれていた眼鏡の男性がいる。確か、アカの魔王だったな。


「どこかに入るのに入場料を払うのは当たり前のことだよ。キミ達の迷宮には、入場料はないのかな?」


「俺らの迷宮は、俺ら自身が管理してるからな」


「へぇ、それは大変だねー。で? 比叡山から出て来て大丈夫なの? 言っておくけど、マナーは守ってね。非常識な人は、僕の迷宮は排除するよ」


「ちゃんと入場料を払ったって言うとるやろ!」


(あー、関西弁だったな)


 一瞬、ユウジさんかと思った。アカの魔王は、今の言葉に術を乗せたようだ。


「キミねー、不快な術を店内で使わないでくれる? それに、キミ達の威嚇オーラも迷惑だよ」


「はぁ? 何やと?」


 彼が言葉を発するたびに、周りにいる人達の顔色が悪くなっていく。仕方ないな。



『五十嵐です。ちょっと店内の空気を浄化しますね』


 僕は、店内に念話をした後、ぶわっとオーラを放つ。そのオーラを、蝶達が洗脳解除の術を混ぜて変質させてくれた。


 洗脳解除の術が加えられたオーラは、店内にいる人達の呼吸と共に身体へと入っていく。蝶達の術には高い隠蔽効果があるから、誰も気づかないだろう。


 ガラスにヒビが入るようなピキピキ音が静まった後、僕はそのオーラをマナに変換して回収した。迷宮のエネルギーにしてもよかったんだけど、僕が吸収することに意味があるはずだ。


(ふっ、やっぱりね)


 眼鏡の男性は、目を見開き、固まっていた。赤髪の魔王は、首を傾げているが。



「あれ? 俺らのオーラが無くなってる。オーラを喰ったってことか?」


「まがまがしいオーラは、店内では迷惑です。言っておくけど、また出したら、迷宮から排出するからね」


「あれ〜? アカ、全然、話が違うじゃん。俺と二人なら、乗っ取れるって言ってたよね」


「うるさいわ! はぁ、シルバ様のおっしゃる通りやったな。おまえを連れて来ても、あっさりとオーラをはぎ取られてしもたわ。しかも呪術師でもないくせに、俺の術を身体に取り込んで平気な顔しとる。コイツ、とんでもないバケモノや。凶悪な魔王やからな。存在自体が厄災やで」


(ちょ、みんなが聞いてるんだけど!)


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