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160、青く輝く蝶と比叡山でのこと

 僕は、4階層の住居へと移動した。


(もう、見せてるのか)


 チビは、本来の巨大な青い蝶の姿で、空をふわふわと飛んでいた。空に透ける青さは、とても幻想的で美しい。


 草原にある白くて大きな楕円形の抜け殻は、あの時のままだ。あっ、大きな裂け目の中に、たくさんの草が入っている。ベッドとして使っているのか。


 緑色の草原だけのやしろ跡だが、チビの住居にしていいと伝えてある。僕のテントもあるけど、これは撤去しない方がチビは嬉しいみたいだからな。



「チビ、もう降りてきてええで。ケントも来たからな」


 ユウジさんが大声でそう叫ぶと、青い蝶は、草原にスーッと降りてきた。


(ちょっと変わったな)


 進化直後は、体長4メートルくらいだったが、今は、さらにひとまわり大きくなったようだ。しかも、放つ輝きが強くなっている。魔力値が増えたのか。


「近くにおると、強烈やな。俺でもクラクラしてくるで」


「これが、成虫になったチビの姿ですよ。基本的に、蝶は魔導系ですからね」


 そう説明していると、ユウジさんは自分に何かの術を使った。チビの魅了が強いからか。



「チビ、人の姿に変わってくれる? 魅了が強すぎるみたいだよ」


『かしこまりました』


 青い蝶は、白い髪の4〜5歳に見える少年に姿を変えた。髪色は変わったが、皆が見慣れている姿だ。青虫の頃の姿になると、能力の一部が制限されるらしい。ファイの一族の能力は使えないだろう。



「ケント様、これでいいですか?」


「話し方も、お子ちゃまでいいよ。あっ、無理はしなくてもいいからね」


「うんっ!」


 チビが青虫だった頃の話し方に変わると、ユウジさんは、チビの頭をわしゃわしゃと撫でていた。彼も、チビは少年の姿の方がいいみたいだな。



「びっくりしたわ。いつものチビの姿だと、ホッとするわね」


 ユキナさんにそう言われて、チビはニコニコと笑顔だ。


「青虫カリーフが成虫になると、こんなに強烈な魅了を使うの? 私では全く弾けないわ」


 カナさんは、なぜか少し悔しそうだな。




「ファイですか」


「ファイの一族かな」


 野口くんと井上さんが、ほぼ同時に同じ言葉を口にした。二人で顔を見合わせている。


「ファイの一族をご存知なんですね。僕は、ファイと呼ぶことは知らなかったんですよ」


「伝承にあります。原始の星には、魔王を補佐する特異な白い髪の者達がいると。五十嵐さんが魔王の資格を得たから、死の淵から救い育てた魔物が、ファイになったのでしょう」


(詳しいな)


「あれ? 野口くんの伝承とは違うな。俺の知識だと、ファイの一族は、魔王の暴走を止める監視役だと聞いたけどな」


 二人は同時に僕に視線を移した。


「たぶん、どちらも合ってますよ。僕が異世界で見たファイの一族は、魔王同士の激しすぎる戦乱を、一瞬で鎮圧していましたからね」


 皆の視線が、チビに突き刺さったようだ。チビが少し動揺している。



「ボクは、そんなに……」


「今のチビには、まだ本来のチカラはありませんよ。僕は魔王ではない。ただの魔剣士ですからね」


「そうやんな。今のチビは、そこまでの脅威は感じへん。ケントが暴走しても、今のチビには止められへんやろ」


(暴走って……)



「しかし、めちゃくちゃ綺麗な蝶やな。まさしく、青い輝きやで」


「青き輝きよ。パーティ名を間違わないでちょうだい。でも、ほんと、結成式のフィナーレにふさわしいわね」


(まぁ、そうだね)




「カナちゃん、ここなら一切の傍受はありませんよ」


 僕は、彼女が話しやすいように、話を振ってみた。カナさんの表情が一気に引き締まる。まだ迷いがあるようだな。



『私から、お話しましょうか』


 うさ耳の少年が口を開いた。とは言っても発声できないから、念話だが。


「大丈夫よ、私から話すわ」


 カナさんはそう言うと、野口くんの方を向いた。カナさんの辛そうな表情に、野口くんも表情を引き締めている。



「野口 希美花さんが残念な状態で見つかったわ」


「そうですか。捜してくださいってありがとうございます。カナ先輩には黙っていましたが、去年の夏に、母が消える夢を見ました」


「えっ? 野口くんにも夢見の能力があるの?」


「いえ、おそらく、母が俺に別れを告げにきたのでしょう」


「そう……。野口くん、ごめんなさい。会えなかったのは、私のせいだわ。私は東部エリアには強い迷宮はないと決めつけていた。古い迷宮があることは知っていたのに……」


「カナ先輩の責任ではありません。父が教えてくれなかったから……いや、父が探そうとしなかったから、原因は父にあります。でも、カナ先輩の呪いが解けてよかった。やはり山田さん達のチカラはすごいですね」


「呪いは解除できてないの。エネルギーが吸い取られただけらしいわ。五十嵐さんの術よ」


「へぇ、そんな術があるんですか」


「術というか、まぁ……」


 野口くんは、気持ちを切り替えたフリをして、僕に興味深そうな笑みを向けた。


(無理してるな……)


 おそらく、夢にお母さんが出てきても、生きていると信じていたんだ。




 井上さんが口を開く。


「野口 希美花さんの迷宮は、30年以上維持されていたようです。5階層しかなくても、ボールのプロテクターを使っていたから、アンドロイドが人化できるほどの時間が経過しているよ」


「なぜ、アンドロイドの……」


 野口くんはそこまで話して、ハッとした表情を浮かべた。


「この少年が、その迷宮のアンドロイドだよ。復活待ちの異空間に、彼女のむくろを保管している状態だ」


「えっ……でも、迷宮は……」


「迷宮は崩壊したから、アンドロイドが外に出ることができた。重要部位を破損していたけど、川上さんが直して、五十嵐さんが魔力でエネルギーを補充していたよ」


「そう、なんですか……えっと」


 野口くんは、大混乱中だ。


 うさ耳の少年が自分の母親を異空間に入れて持ち運んでいるなんて、頭の整理ができないだろう。


 骸を異空間から出すと、即座に朽ち果てるのだと思う。迷宮の主人は自分の迷宮で復活するから、その迷宮が崩壊した今、復活する手段はない。




「野口くん、比叡山迷宮で矢田さんに会ったわ。魔物化した迷宮の魔王に攻め込まれて死んだと言われていたけど、猿のモンスターになっていたわ」


(なぜ、その話を?)


 カナさんは、野口くんの気を紛らわせようとしたのか? しかし、今、生存者の話は……。



「矢田さんが、猿のモンスター?」


「ええ、魔王に攻め込まれて、プロテクターごとダンジョンコアを壊されたと言っていたわ。迷宮は崩壊する前に、その魔王が乗っ取ったみたい。矢田さんは、階層ボスと結合させられて、迷宮から放り出されたらしいわ」


「その魔王は、迷宮の主人を階層ボスに喰わせたのですか」


「それは、わからないみたい。迷宮から排出されたときには、意識を失っていたそうよ。迷宮のモンスター達に守られて、生き延びたらしいわ」


「じゃあ、矢田さん本人か、わからないですね。矢田さんの記憶を持つ階層ボスかもしれない」


(同じ発想だ)


 僕も、それを疑ったんだよな。だけどなぜ、こんな話をしているんだ?



「これは、去年の夏の出来事らしいわ。アンドロイド使用の検討をしていて、その担当者が来る予定の日に、魔王に攻め込まれたって」


「去年の夏?」


「ええ、野口 希美花さんの迷宮襲撃と同じ時期よ。迷宮特区管理局の中年男性が、訪問すると言っていたみたい」



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