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159、服専用の景品交換所

「まぁっ! すっごくオシャレなお店が出来たわ!」


「えっ? これが全部景品なの? 嘘! コイン100枚で、こんな服と交換できるの?」


 奥の壁沿いのソファを消して、服専用の景品交換所に改装すると、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。


(そこまで騒ぐか?)


 予告をしないで急に改装したからかもしれない。


 ガラス張りだから、景品交換所内はよく見えるだろう。ショーウィンドウに、マネキンを飾ってあることで、少し目隠しになっているが、店内に掲示してある必要コイン枚数を、すぐに見つけた人もいるようだ。



 出入り口を入ってすぐの場所には、子供服を並べた。そして、その左側には女性物、右側には男性物の服を並べてある。それを示す案内板も設置済みだ。


 基本的には、アントさんの国の服屋をイメージしたが、僕の記憶も一部混ざっている。サイズは、日本人の標準体型の物を多くした。食料事情が悪いから、太っている人は少ないため、痩せ型の服が大半を占めている。


 ほとんど服は、上下セットで、子供服はコイン50枚、大人の服は100枚に設定した。


 需要はないだろうけど、6階層が寒いから冬物のコートや、華やかなワンピースやスーツもたくさん用意した。これらは、コイン300枚から500枚程度だ。


 コイン1枚を1,000円で売っているから、300枚なら30万円。物価が僕の時代の10倍だから、コートは3万円くらいということだ。


(ちょっと高いかな?)


 まぁ、いろいろな物がある方が、選ぶ楽しみもあるだろう。需要のない物も、置いてある方がいい。



 僕が服の景品交換所から出ると、建物内にいた人達がどんどん中へ入っていく。出入り口には、店員さんが2人いるが、店の中は自由な空間だ。


(へぇ、ちょっと意外だな)


 高価な物の方に、人が集まっていく。だけど、ガラス張りだからか、怪しい動きをする人はいない。純粋に服選びに熱中しているようだ。




「ケント様、横の食堂の営業を始めるときには、更衣室が必要ですね」


 銀髪の店員さんが、僕にそう声をかけてきた。


「更衣室、ですか? 試着室ではなく?」


「はい、試着室でもいいかもしれませんが、ここで交換した服を着て、食堂で食事をしたいのではないでしょうか。私達の国では、高い食堂の近くには、高い服屋と髪結店がありますから」


「髪結店って何? あぁ、あれか、髪型をセットするのかな? キリギリスみたいな人達が集まってたよね」


「キリギリスはわかりませんが、バッタ系の種族は、店に行くときは、特に見た目を取り繕うのですよ」


(バッタ系ね)


 アントさんの国には、長い髪を不思議な形に仕上げる店があった。あれが髪結店か。僕には理解できなかったが、髪が高くツンツンと上に伸びていることを自慢されたこともあったっけ。



「そうだね。冒険者が優雅に食事をするなら、身なりを整えたいかもね。5階層に宿屋はあるけど、美容室はないな」


「では、食堂の向こう側に、そういう店を作られたらいかがでしょうか。私達も、利用したいです」


(それが目的かな)


 確かに、蝶たちにも休みはあるだろうから、彼女達がくつろげる空間がある方が良い。


「わかった。じゃあ、食堂の営業を始めるときには、着替えができる店も作ろうかな」


「はい! お願いします」




 カランカランカラン


(あっ、初めて聞いた!)


 日付が変わることを知らせる鐘が鳴った。6階層が出来たことで、迷宮にこの機能が備わったらしい。深い階層に潜っていると、時間の感覚がわからなくなるためだろう。


 建物内にいたら聞こえないと思っていたが、ゲームセンターには、この音は必須かもな。


 だから、さっき、夜12時までチビが中央の出入り口を担当していると、店員さんが言っていたのか。この鐘を合図に交代できる。


 鐘の音を聞くと、ショーウィンドウの外に集まって騒いでいた人達は、少しずつ帰り始めたようだ。深夜だもんな。



 服の景品交換所の中に入っていた人達も、交換を終えた人が次々と出てくる。


「素敵な服と交換できたよ! 明日の夜は、これを着て、王子様としゃべるよ」


「そうね。その前に、2階層の居住区にいる知り合いの家に寄らなきゃ! シャワーを借りて、綺麗にしてから着たいわ」


(なるほど)


 僕の目の前を通り過ぎる女性達の会話は、店員さんの指摘通りのものだった。服を気にする余裕なんてないと思っていたが、それは僕の大きな誤解らしい。


 身体を洗える銭湯のようなものが必要かな? だが、それをこの店内に作るのは難しい。美容室もやはり難しいよな。とりあえず、着替えができる個室があれば、何とかなるか。


 そう考えていると、食堂の向こう側の壁沿いに、ズラリと何かが並んだ。天井からの視点ではわかりにくい。



『マスター、新たに作ったものは、シャワールームです。深い階層のある迷宮に設置されているものより、広くしました。利用料は、1分コイン1枚でよろしいでしょうか』


 アンドロイドからの念話だ。


(シャワールームか。いいね。利用料は任せるよ)


『では、多くの迷宮では、5分で5万円ですが、その10分の1のサービス価格に設定します』


(えっと、コイン1枚1,000円だから、5分なら5,000円か。そう考えると高い気もする。無料でもいいんじゃない?)


『無料だと、連れ込み事件が多発します。シャワールームの安全のためにも、有料にすることをオススメします』


(連れ込み事件……。店内でそれは困るね。わかった、有料でいいよ)


『では、明日朝6時から、シャワールームの営業を開始します。各所に連絡してもよろしいでしょうか』


(うん、それでお願い。あっ、服専用の景品交換所の宣伝もできる?)


『はい、それは先程、連絡済みです』


(さすがだね)


 フッと鼻息のような音が聞こえた気がした直後、念話が切れた。やしろでドヤ顔してるんだろうな。




「ケント様! お待たせしてすみません!」


 僕のすぐそばに、チビがワープしてきた。僕の近くにいたお客さん達は、キャ〜ッと、黄色い声をあげている。


「店長、お疲れ様。ちょっと4階層の住居に、パーティメンバーを案内したいんだ」


「はい! えっ? パーティメンバーですか?」


「そうそう、冒険者登録をするために、宗教団体を作ったんだよ。ユキナさんがリーダーなんだけどね」


 そう話していると、ユウジさん達が近寄ってきた。チビはすぐに気づいて、ペコリと頭を下げている。



「めちゃくちゃ王子様やんけ、チビ」


「あはは、はい、そう呼ばれます。ユウジさんも、冒険者登録をされたんですか」


「あぁ、まだパーティメンバーは6人やけどな。あー、アイツら、チビの魅了にやられとるな。とりあえず移動しよか」


「では、私のワープを使いますね。ケント様は自力でお願いします」


 チビはそう言うと、パチッとウインクをして、他のメンバーと共に姿を消した。


(どうして僕を置いていくんだよ)



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