158、ゲームセンターの改装
「ちょっと、ケントさん。なぜ、こんなに豪華なの? しかも店員は、どうして超美人ばかりなのよ!?」
「どうしてと言われても……」
(蝶だからな)
ゲームセンターの建物に入ると、皆、その場の空気感に緊張したり、高揚感を抱くみたいだ。
ユキナさんが、こんな風に怒るのは、彼女も少し緊張しているからだろう。派手な外観に反して、室内は高級感のある煌びやかな内装だからな。
ゲームセンターは、さっきの道よりも幅が広く、長さは迷宮の奥行きとほぼ同じ建物だ。天井を3階分ほどの高さにしたから、上の階はない。
天井には、豪華なシャンデリアが一定間隔でズラリと並んでいる。床はよく磨かれたツヤのある木製、壁紙は重厚感のある黒いものだ。
コイン交換所や景品交換所は、シックな木製で、落ち着いた高級ホテルの受付カウンターのようだ。
様々なゲーム台の間隔はたっぷり空けられていて、壁際には、高級そうなソファやテーブルも用意されている。贅沢の極みともいえるバブリーな内装なんだよな。
「いらっしゃいませ」
受付カウンターから、金髪の店員が、やわらかな笑みを浮かべて出てきた。もう接客にも慣れたようだな。黒いタキシードのようなスーツに金髪は、やはり派手だけど。
「お疲れ様。僕の友達なんだ。みんな初めて来たよ。初回のコインをお願いね」
「はい、あちらの男性が、そう仰っていました。彼には既に初回サービスのコインをお渡ししたのですが、今、追加のコインを買ってくださっているようです」
彼女は、皆にコイン10枚が入った小さなドル箱を渡している。カウンターでは、ユウジさんが何か大きな物を持っているのが見えた。
「コイン交換所には、買取所も設置したのかな?」
「はい、アンドロイド様からの指示だそうです。どこのダンジョンにも、お金を使う場所には買取所を併設するそうです」
「そっか。その方が便利だね。わざわざ2階層に行く手間もかからないからな。他には、何か変わったことや困っていることはないかな」
僕はそう尋ねながら、天井からの視点で、ゲームセンターを見ていく。出入り口は3つあるけど、中央の出入り口がすごい人だかりだ。
(チビがいるからか)
暖かいゲームセンターの建物内には、とても多くの人がいる。人のゲームを見ている人も多いが、空き待ちしている人も多い。中央付近の遊戯台は、ほぼ満席状態だな。
「階層の出入り口の混雑を緩和するため、人が増える夜は12時まで、店長が中央の出入り口を担当していますが、中央付近に人が集まりすぎてしまって、建物内の通行が困難になっています」
「チビがいると人が集まってしまうんだな。あー、食堂が近くにあるからかな。でも、まだ食堂は営業してないよね?」
「はい、店長の周りには人が集まってしまいます。食堂は、まだ営業していませんが、2階層の企業さんが弁当販売をしているため、混雑しています」
食堂の中を見てみると、確かにすごい人だな。
アントさんが言っていた、カジノで大勝ちしたら豪華な食事を振る舞いたくなる、という欲求を満たすため、この場所に似合うレストランを作る予定だ。
料理人をまだ見つけてないから営業はしていないが、テーブルや椅子は高級感のある物を、既に並べてある。
弁当を買った人達は、テーブル席で食べているようだが、冒険者にしては、皆、おとなしい。アントさんの眷属のアリ達が、黒いタキシードっぽいスーツを着て給仕をしているようだ。だから冒険者達は、緊張しているんだな。
「わかった。早めに料理人を探す方がいいね」
「料理人でしたら、アンドロイド様が募集を出されたそうです。100人を超える応募があったと聞いています」
「もう? そうなんだ。じゃあ、その選考をしないといけないのかな。他は、大丈夫?」
「景品交換所の品を増やして欲しいとの要望があります。特に女性のお客様から、私達が着ているような服が欲しいと……」
「へ? あー、オシャレな服ってこと? そういえば、アントさんが、一部の冒険者に何か言ってたよね」
実際に、お客さんが増えると、いろいろな問題が出てくるんだな。
「ケント、めっちゃ軍資金ができたで!」
ユウジさんが少年のような笑みを浮かべて、僕達の方へ戻ってきた。小さなドル箱に、ほぼ満タンのコインだ。
「すごくたくさん買ったんですね」
「あぁ、これで思いっきり遊べるやろ。中央には食堂があって混雑してるって言うとったけど、そんな人混みは見えへんやんな?」
「この建物は、縦に長いんですよ。階層の奥行きとほぼ同じですから。出入り口は3つなんですけどね」
僕がそう説明すると、ユウジさんは大げさに驚いた顔をしている。
「それやったら、俺、ずっとここに住めるで」
「は? 何を言ってるの!」
ユウジさんにすぐにツッコミを入れるユキナさん。彼は、それを楽しんでるよな。
「チビは12時まで仕事みたいなので、皆さんは、ご自由にお過ごしください。僕は少し改装するので」
「わかったわ。じゃあ私達は、空いている場所でゆっくりしているわね」
「軍資金がいっぱいあるねんで? ゆっくりやなくて、ガッツリ遊ぶで。ゲーセンは遊ぶとこや」
ユウジさんはそう言うと、皆のドル箱に、ジャラジャラとコインを入れていく。
『えっ? 私も……』
うさ耳の少年が持つドル箱にも、ユウジさんは当然のようにコインを入れていた。
「当たり前や。みんなで遊ぶねんからな。俺のダンジョンのドロップ品が、こんなたくさんのコインになるんやから、遊び放題やで。俺は、クレーンゲームの神やからな。秘術を教えたる」
『はい!』
ユウジさんが先導して、皆を連れて行ってくれた。ユウジさんには懐かしく、井上さんやカナさん、そしてユキナさんには、未知のもののようだ。
野口くんは、いつの間にか、不安そうなウサギくんに寄り添っている。彼の母親の迷宮アンドロイドだとは気づいてないだろうけど、放っておけないみたいだ。
◇◇◇
近くの景品交換所に移動すると、店員さんが数人、近寄ってきた。
「ケント様、あちらのスペースに、服専用の景品交換所を作っていただけませんか?」
「ん? 出入り口の近くには、それぞれコイン交換所と景品交換所があるよね? 足りないのかな?」
「服の景品交換所を別にすることで、交換所の混雑が緩和されます。12時を過ぎると、帰る人達が増えてきて、昨夜は大変混雑したのです」
(なるほど)
「わかった。じゃあ、服屋のような感じの交換所にしようか。お客さんに自由に選んでもらう方が、店員さんの負担は減るからね。万引きされるかもしれないけど」
「服屋の出入り口にサーチ機能をつければ、盗難の危険はありません。子供服の要望もあります」
「わかったよ。じゃあ、あの奥のスペースを改装するね」
僕がそう言った瞬間、僕がイメージした3倍以上の広さのショーウィンドウが現れた。ウチのアンドロイドは、心配性だな。
服屋に入り、僕は魔力を放つ。迷宮のチカラで、創造できるのは、何度やっても楽しい。
アントさんの国にあるよりも大きな服屋が完成した。