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157/409

157、6階層はテントだらけになっていた

「ケント、めちゃくちゃ寒いやんけ」


 僕達は、ガゼボ近くに戻って、そこから6階層への階段を降りた。途中で、6階層は寒いと注意しておいたのに、ユウジさんがバリアを使わないからだ。


「右側は、雪の迷路ですからね。しかし驚くほど人が増えてるな。道がテントで見えなくなってますね」


(想定外だったな)



 6階層は、台風の避難用にも使えるようにと、階段を降りたところには、道幅が50メートル以上の真っ直ぐに伸びた道を作ってある。


 それなのに、びっちりとテントが設置されていて、真っ直ぐ奥へ進む障害になっている。テント禁止の通路を作らないといけないな。


 道の左右には小川があり、道沿いには大きな樹が並んでいる。この道の右側は雪の迷路、左側はゲームセンターだ。


 右側の樹には、雪が積もっている。この道の左右で気候が少し違うが、真冬の朝のような澄んだ空気は共通のものだ。



「ケント、寒いから、やしろで熱い緑茶をいれてくれへんか」


「あら? どこに社があるのかしら?」


 寒そうにするユウジさんに冷たい視線を向け、キョロキョロするユキナさん。それにつられたのか、カナさんもキョロキョロしている。


「右側の雪の迷路にあるんじゃないかな。五十嵐さん、上手く隠しているね。厚い雲に乱反射するから、ダンジョンコアの位置が、この魔道具を使ってもわからない」


 井上さんが、タブレットのようなものを見せてくれた。サーチの魔道具か。画面の左端にダンジョンコアと、入力されていて、このフロアの簡易地図が映されている。


「このいくつも点滅している所が、サーチが示すやしろの場所ですか」


「あぁ、そうだよ。これは、宝箱産の高価な魔道具なんだけどな。ダンジョンコアなら、エネルギーが強いから、絶対にわかるんだがな」


 空を見上げると、井上さんの魔道具が示す所は、厚い雲に覆われている。



「その反応は、正しいと思いますよ」


「雪の中か。どれが本物なのだろう? 面白いな。俺も、新たな階層を造ったら、ダミー反応を振りまこうかな」


 井上さんは、目を輝かせて、魔道具を操作している。


「井上 夏生! 同じパーティメンバーとはいえ、やしろの場所は、極秘情報だよ。何を暴こうとしてるの!」


「あっ、確かに。でも、全然わからないんだぜ? 楽しいじゃないか」


 井上さんがこんな少年のような顔をするのは、初めて見た。



『雪の中ではありません』


 うさ耳の少年も、目を輝かせている。たまに野口くんを見ては、幸せそうに微笑んでいたが、会話に入ってくるとは驚きだ。


「ウサギくんなら、わかるのね?」


『アンドロイドの居場所なら、わかります。このフロアには、11ヶ所の反応がありますが、雪の中にはいません。おそらく、空中です!』


(そんなに分身がいるの?)



 すると、目の前に、白い猫が現れた。


『古いアンドロイド! 社の場所は、極秘事項です!!』


『あっ、ごめんなさい……』


 うさ耳の少年は、泣きそうになっている。たぶん、楽しかったんだよな。キミカさんを失ってから、ずっと孤独だったから。



「大丈夫だよ。ダンジョンコアの場所を知られても、壊されることはないよ」


『マスター! 他の冒険者も聞いています! テントの中から、不快なサーチがひどいです! この会話も傍受されています!』


 白い猫は、ぶりぶりと怒っていた。


(なるほど)


 留守番は大変だったみたいだな。やはり、僕の迷宮は狙われやすい。小川があるからだけではない。一部の人間によって作り上げられた悪評も高いからな。



 僕は少し声の調子を変える。


「今は僕がいるんだから、大丈夫だよ。ダンジョンコアへの攻撃があれば、襲撃者は即座に殺すから。復活させるエネルギーはあるよね?」


『もちろん、あります! 早く次の階層を造ってもらいたいほど、迷宮エネルギーは、たくさんあります!』


「じゃあ、安心だね。それに、ガーディアンもいるんだから、何も心配はいらないよ?」


『はいっ! あっ、不快なサーチが消えました。安心して、発声練習をしてきますっ』


(練習してるのか……)


 白い猫は、スッと姿を消した。



 アンドロイドとのやり取りを傍受していた冒険者たちの多くは、ダンジョンコアを探していたらしい。しらじらしく適当な言い訳を呟いて、テントを片付け始める冒険者もいる。


 この広い道にテントを設置していた人達の大半は、ここに留まって、やしろの場所を探しているということか。襲撃する気はなくても、情報は売れるのだろう。


 僕が威嚇したことで少しは減ったけど、比叡山の東部のキャンプ場よりも、まだ数は多いように見える。


(まぁ、いいか)




「左側の橋を渡った先が、ゲームセンターです。初回は、ゲームで使うコイン10枚をプレゼントしていますよ」


「へぇ、コインを買う形式なんやな」


「はい、入り口では、1枚1000円でコインの購入ができます。みんな電子マネーを使っているから、支払いは楽ですよ。あと、果物などでも交換できるみたいですね。改装したのかな」


「さっきの少女の話やな。買取所を併設しとるんちゃうか? 俺んとこの温泉も、金のない奴のために、入り口に買取所があるで」


(温泉?)


 今、ユウジさんは、温泉って言ったよな?



 すると、ユキナさんが口を開く。


「ユウジさんの迷宮の6階層には、温泉があるのよ。5階層ごとに宿屋を作らないといけないでしょ?」


「温泉かぁ、いいですね! ユキナさんは行ったことあるんですか?」


「私は、まだ行ってないわ。混雑を防止するためだろうけど、利用料が高いのよね。確か、あれこれで50万円くらいだったかしら?」


(なるほど、混雑防止か)


 ユウジさんがそんなことを考えるわけがないから、彼の迷宮のアンドロイドが設定した利用料だろう。



 ユキナさんは、ユウジさんに金額を尋ねたつもりのようだが、橋を渡ってゲームセンターの建物が見えてくると、彼は、子供のように駆け出した。


「落ち着きのない人ね……えっ!? カジノ?」


 ユキナさんは、建物が見えると驚いたのか、立ち止まっている。樹々が隠していたから、あまり見えなかったけど、派手な外観だからな。


「カジノっぽい外観になりましたが、建物の中はゲームセンターです。カジノにもありそうなスロット以外は、クレーンゲームやガチャガチャ、あとはゲーム機がいろいろありますよ」


「全然わからないわ。それに今、扉が勝手に開いたわね? 自動ドアなの?」


 ユウジさんは、既に建物の中に消えていった。


「はい、自動ドアですよ。僕がいた時代では、ごく普通の仕様です。さぁ、皆さんも、どうぞ。建物の中は暖かいですよ」


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