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156、迷宮ガーディアン、チビのところへ

「獣人の少年は、どこの迷宮のアンドロイドなのですか? 迷宮が崩壊したのにまだ機能停止してないなんて、何かの不具合ですよね?」


 カナさんに状況説明を終えた野口くんは、うさ耳の少年に何かの魔道具を向けて調べ始めた。


「野口くん! このアンドロイドは報告しないでよ?」


 カナさんが慌てて、彼が持つ魔道具のスイッチを切ったようだ。そして、僕に何とかしてくれという目を向けてくる。


(ここでは話せないよな)


 僕達は、転移魔法陣のすぐ近くにいるから、ガゼボのゆるい結界はあるが、大事な話をするには不安だ。



「青い蝶が生まれた場所に、移動しましょうか。4階層の僕の住居なので、あちらから4階層への階段を上がります」


「そうだったわね。私もまだ見ていないわ。私達の宗教団体の目的でもあるものね。ウサギくんが入って大丈夫かしら? ダンジョンコアへのワープ設備はないわよね?」


 ユキナさんは、上手く話を繋げてくれる。


「ええ、大丈夫ですよ。ダンジョンコアは6階層ですし、ワープ設備なんて、僕の迷宮にはありません」


「そんな機械があるんは、ユキナのとこだけやろ。それにケントは、比叡山でもサソリを斬っとってんから、ケントのダンジョン内で、ウサギの坊やが何かできるわけあらへん」


 ユウジさんがそう言うと、白い猫の機嫌が直ったようだ。アンドロイドは、自分の主人が強いと言われると嬉しいらしい。そしてまた、うさ耳の少年にドヤ顔を向けている。


 一方で、うさ耳の少年は、白い猫のコロコロと変わる感情変化に戸惑っているようだ。階層ボスを取り込んでいるから、うさ耳の少年の方が、ウチのアンドロイドよりも強いはずだけどな。



「さっき、鮭おにぎりをゲットしたから、ケントの4階層の住居で、みんなで食おうや」


 ユウジさんは、鮭おにぎりが好きらしい。


「あっ、僕の住居とは言ったけど、ダンジョンコア跡というだけで、テントしかないんですが」


「別に俺は気にせーへんで。青い蝶のエサは、葉っぱでええんか?」


「蝶なら、花の蜜なんじゃないの?」


「せやけど、急に好みが変わるんか?」


「アナタねー、昆虫の生態を学んだでしょう? 小学生の頃、何してたのよ」


「鼻たらしとったわ〜」


「はぁ、もう、いいわよ」


(仲良しだねー)


 ユウジさんとユキナさんの平和な言い合いを聞きながら、僕は4階層への階段へと、皆を先導して歩いた。


 そういえば、チビが食べられる物は、成虫になって増えたと言っていたけど、好みは変わっただろうか。バタバタしていたから、聞いてなかったな。




「あー、迷宮マスターさん! いつ戻ってきたの?」


「お留守ラランちゃんに、もういいよって言わなきゃ!」


 ぶどう園の横を歩いていると、階段を降りてきた子供達に声をかけられた。子供達の階層の移動には、アントさんの眷属けんぞくが付き添っているようだ。


「今、戻ってきたよ。こんな夜中なのに、まだ起きてたの?」


「うん! 私達は、宿屋で泊まってるの。1階層の部屋は、小さな子が使うから」


「えっ? もしかして、交換所の上だけでは足りないのかな」


 そう尋ねても、子供達は首を傾げている。



「ケント様、1階層の住居には、まだ余裕があります。ただ、台風に備えて、宿屋の地下室も確保している状態です。階層移動が可能な子供達は、交代で5階層に連れて来ています」


「あぁ、なるほどね。お世話ありがとう。でも、そうか。まだまだ足りないんだな」



 すると、ユキナさんが口を開く。


「ケントさんの迷宮では、孤児の住居を用意しているのね。だけど、すぐに限界がくるわね」


「あぁ、はい。一応、給料として食事は不自由がないようにはしていますが、これ以上増えると確かに……」


「給料? どういうこと?」


「1階層の交換所は、子供達に任せています。護衛はもちろんいますが。フルーツ氷や、スムージーを作っているのも、子供達ですよ。製氷機やミキサーがあるので」


「まぁ! 孤児たちを雇っているってこと? 私にはその発想はなかったわ。そうね、こんなに強そうな護衛がいれば、可能だわね」


 ユキナさんは、アントさんの眷属をチラッと見て、大きく頷いている。




「五十嵐さん、私達は6階層に行っちゃダメなの?」


 目に涙を溜めた背の高い女の子、スムージー作りのリーダーっぽい子が、突然、僕に訴えてきた。


「お金の無駄遣いをしなければ大丈夫だよ。何かあったのかな?」


「コワイ人に脅されるから、ダメって……」


 女の子は、ぶどう園で働くドワーフ達をチラチラ見ている。いや、冒険者達を見ているのか。



「6階層って、ゲーセンがあるんやんな?」


 ユウジさんが、会話に入ってきた。女の子は、涙目でコクリと頷いた。


「王子様がいるから、会いに行きたいの」


(やっぱり王子様……か)


「何? ゲームセンターに王子様がいるの?」


 ユキナさんも会話に入ってきた。


「すごくカッコいい王子様がいるの。ジュースバーも無料なの。4階層で集めた果物をコインに変えるから、無駄遣いはしないの」


 ユキナさんが、僕に何かを言いたそうにしている。


 井上さんの迷宮に行くときに、ユキナさんはチビに会っていたはずだよな? あっ、そうか。チビは、5階層にいるときは、少年の姿だ。髪が白く変わっただけだと思ってるのか。



「ケントさん、王子様って何者なの?」


「ゲームセンターの店長のことですよ。ユキナさんは、チビの髪色が変わったことしか見てなかったでしたっけ。大人の姿になったんですよ」


「チビが王子様なの?」


「はい、たぶん。ゲームセンターの他の店員は、すべて女性なので」


「へぇ、大人のチビかぁ。見に行きたいわね。えっと、でも……」


 ユキナさんは、カナさんに同意を求めるように振り返っている。カナさんも、大きく頷いた。たぶんカナさんは、キミカさんの話を野口くんに話す決心が、まだできてないのだろう。



「チビが、ゲーセンにおるんやったら、仕事中か。ほな、チビの仕事が終わるまで、俺らもゲーセンにおればええねんな」


 ユウジさんがそう言うと、井上さんが口を開く。


「チビという人が、青い蝶なのですか?」


(あー、彼だけ知らないか)


 青虫カリーフが僕の迷宮に、魔物爆弾として放り込まれたのは、井上さんは殺されて、自分の迷宮で復活した頃だろう。


 カナさんは青虫カリーフを見ているが、その後は、井上さんの迷宮に付きっきりだったもんな。



 ユウジさんは、僕が説明するべきだと思ったらしく、僕に合図をしてきた。


「井上さん、青い蝶は、青虫カリーフが成虫になった姿です。僕の迷宮のガーディアンなんですよ」


「青虫って、魔物爆弾ですよね? 成虫になると、青い蝶になるのですか」


「青虫カリーフは、魔物化したダンジョンが、ガーディアンにするために生み出す魔物です。どんな成虫になるかは、個体によって異なります。ゴーレム系が多いですが、チビは、美しい青い蝶になりましたよ」



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