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153/409

153、ヒントを頼りに試行錯誤する

「はぁ、もう、心臓が止まるかと思ったわ」


 雪島さんが霧になって消えると、カナさんは大きく息を吐いた。かなり警戒していたようだ。


「本条なら、アンデッドは浄化できるんちゃうんか?」


「あのねー、山田さん、無茶なことを言わないでくれる? 彼は、管理局で一番厄介なのよ?」


(厄介?)


「一番強いんか?」


「そんなの知らないわよ。姿を変えるたびに能力は変わるもの。だけど彼がいるから、迷宮特区には、秩序が維持されているし、帰還者迷宮同士が独立できているのよ」


 カナさんの説明はわかりにくい。たぶん、彼女もよくわかってないのだろう。



 雪島さんは、死霊術師であり、自らをアンデッド化させている。去り際の話から推察すると、冥界の住人でもあるのだろう。人間としては既に死者だろうけど、彼自身は不死者か。


 帰還者迷宮は、冥界にあるというポラリス星の技術を使っている。だから、雪島さんなら、帰還者迷宮の管理ができるのだ。


(あぁ、彼の叡智か)


 日本に、帰還者迷宮の技術を持ち込んだ帰還者は、雪島さんなのかもしれない。彼には邪気はなかった。おそらく純粋に、高熱化から守るために、技術を教えたのだろう。


 彼は、白髪の銀次さんと親しいようだった。彼自身は否定していたが、銀次さんに言われて、僕の魔王紋を確認しに来たのだと感じた。ということは、灰王神のことも知っているよな。


 灰王神は、おそらく、行方不明の原始の魔王だ。もしくは、原始の魔王から命じられて動く配下かもしれない。


 原始の魔王なら、僕達が敵うわけがない。だが配下なら、地球から追い出すことができるかもしれない。


 銀次さんは、灰王神を追い出したいと言っていた。そして、雪島さんは、その銀次さんが冥府の覇王だと、僕達に教えた。


 冥府とは、冥界のことだろう。雪島さんは、銀次さんと、冥界に関わる異世界で知り合ったということか。


(しかし、わからないな……)


 二人とも、僕には友好的だと感じた。彼らは、僕に、灰王神を追い出すチカラがあると思っているのだろうか?


 実際に、灰王神と対峙してみないと、僕には何とも言えない。灰王神が、原始の魔王ではないなら、本当に地球を守ろうとしている可能性もゼロではない。


(誰が敵なんだ?)


 今の僕には、さっぱりわからない。だが、ユウジさんが、銀次さんを捜して会いに行ったのは確かだ。勇者である彼自身も、誰が敵なのか、わからないのかもしれない。




「次は、ケントさんが測ってみて」


(ん? 何だっけ)


 僕が考え事をしている間に、雪島さんが置いていった道具で、能力測定をしていたのか。


「すみません、ボーっとしてました」


「ブロンズから順に触れていくだけよ。ブロンズとシルバーは魔力量を測るみたいなの。ブロンズマックスは冒険者平均の10倍、シルバーマックスは100倍以上の魔力量があるということみたい。ゴールドはよくわからないらしいけど、さっきの話だと、冥界の順応性ってことよね」


 えーっと、パーティメンバーの迷宮入場料と転移魔法陣の利用料を無料にしたいんだよな? パーティランクやメンバーのレベル条件は無理だから、可能性があるのは、能力測定の条件だけだ。


 確か、能力測定ゴールド2以上が5人以上いるか、プラチナ2以上の人がいれば、条件クリアだったよな。



「面倒やから、ゴールドの測定だけでええんちゃうんか?」


「山田さん、ブロンズから順に魔力を流していかないと、道具が作動しないのよ。何度も同じことを言わせないで」


「本条も、すぐに怒るよな。せやけど、ユキナほど怖くないで」


 ユウジさんがカナさんに叱られている。たぶん、わざとだろうな。


 野口くんが現れてからは、カナさんが一番緊張しているようだ。野口くんのお母さんの件を話さなければいけないからだろう。


 ユキナさんもそれがわかっているから、ユウジさんを睨んだだけだ。いつもなら、痴話喧嘩が始まるんだけど。



「皆さんは、もう測定したのですか」


「野口くんは、ゴールドの3だったわよ。井上 夏生は、キミのやり方を見てから測ってみるって。私は、シルバーの6のままだったわ。冒険者平均の60倍の魔力量ってことね」


(ドヤ顔してる)


 野口くんとカナさんは、測定済みか。野口くんは、冒険者平均の100倍以上の魔力量があるということだ。


 ユキナさんは測りたくないみたいだったな。管理局の溝口という人に知られたくないのか。ユウジさんは、面倒なだけっぽいけど。



「測定って、一度だけですか?」


 僕がそう尋ねると、記録をしていた職員さんは、首を傾げた。


「同じ日に何度も測定しても、魔力が無駄になるだけで、結果は変わらないと思いますよ? 再測定しても構いませんが……」


「いろいろ試してみたいので、いいですか?」


「はぁ、どうぞ」


(よし!)



 僕は、ブロンズの棒に触れ、魔力を流す。すぐに、棒全体が銅色に輝いた。


 手を離すと、注いだ魔力は隣のシルバーの測定スイッチに流れ、シルバーの棒が現れた。仕組みはよくわからないが、ブロンズから順に測定する仕様になっていることは、わかった。


 次に、シルバーの棒に触れ、魔力を流す。やはり、すぐに、棒全体が銀色に輝いた。


(ここまでは、魔力なんだよな)



「ケントが、プラチナ2以上やったら、俺らは測らんでええな」


 ユウジさんも測りたくないのかな。あー、そうか。冥界との順応性は、光を持つ勇者には厳しいかもしれないな。


「そうね、ケントさん、頑張って!」


「はい。ここからは冥界の順応性なんですよね? 野口くんは、魔力を流しました?」


 僕がそう尋ねると、野口くんはキョトンとした顔をしていた。聞き方が悪かったか。


「五十嵐さん、魔力以外に何を流すのですか」


「あー、えーっと、いろいろなエネルギーを……」


 僕は、そこで話をやめた。野口くんは魔導士だから、こういう金属への性質干渉はできないよな。



 シルバーの棒から手を離すと、ゴールドの測定スイッチに魔力が流れた。そういえば、この道具には、プラチナの測定スイッチはないよな。それに、さっきのように次の色の棒は現れない。


 何もない空間に、目盛だけが浮かんでいる。


(あっ、わかった!)


 僕は、ゴールドのスイッチに触れ、目盛に沿って上へとエネルギーを流す。単純な魔力ではない。何かを剣に変える時の、魔剣を出すエネルギーの使い方だ。


 ゴールドの棒が現れ、金色に輝いた。



「ゴールドマックスです! えっと、そこから、プラチナを出してください」


 職員さんは、そう言うと、数歩下がった。


(変質?)


 金色の棒に、魔力を流した。だが、目盛が現れただけだ。しかも目盛は、かなり高くまで続いている。職員さんが離れたってことは……。


 金色の棒は、純金に見える。ということは、熱で溶けるよな? 冥界は多くの物質が気体化している。


 だが、雪島さんならプラチナ……すなわち、アンデッドや不死者にできることか。


(火は違うな)



「失敗したらやり直しますが、たぶん、合ってるはず」


 僕は、一応、言い訳をしてから、金色の棒に氷属性の魔力を纏わせた。



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