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151、ユキナさんの願い

「ユキナさん、孤児を冒険者にするのですか?」


「ええ、そうよ。今は子供でも、5年もすれば立派な冒険者になるでしょ。供託金は、所属パーティからの貸付にするから、縛ることになってしまうけど、それが良いのよ。私は、あの子たちを守りたいの」


 ユキナさんは、また書類に視線を戻し、何かを書きながら、そう説明した。


「僕には、よくわからないですが……」



 すると、カナさんが口を開く。


「ある種の慈善事業ね。孤児たちを守ることに繋がるわ。冒険者は必ず、加入するパーティに供託金を出さなければいけないでしょ? それをパーティが貸すということは、報酬で完済するまで、脱退できないのよ」


「借金させて脱退させないって、ひどくないですか?」


 僕が即座に反論すると、カナさんは、大きなため息を吐いた。おかしなことを言っただろうか?


「あのねー、脱退できないから良いのよ。他の悪い所に加入できないわ。冒険者パーティや宗教団体は、複数の掛け持ちはできないからね。そして、ミッションが受注できない子にも、一定の分配はあるの。まぁ、そのパーティが稼いでいることが大前提だけどね」


「へぇ、一定の報酬がもらえるなら、生活できますね」


「そういうことよ。だから、慈善事業みたいなものなのよ。また、そういう非戦力がいるパーティは、簡単なミッションを優先的に受注できるわ」


「なるほど。じゃあ、多くの冒険者パーティは、孤児を加入させているのですね」


 僕がそう尋ねると、カナさんは、井上さんの方に視線を移した。井上さんは、苦笑いしてるけど……。



「ケントさん、資金に余裕のあるパーティしか、孤児を置いておけないわ。だから私達はガンガン稼ぐわよ」


 正義感の強いユキナさんは、反論を許さないような雰囲気だな。ユウジさんも、賛同するだろう。


「そういう金を作り出すようなことは、ユキナは得意やろ。俺らのダンジョンの何かがミッションになるようにすれば、ラクチンやで」


「もう既に、大量のミッションが出ているわよ」


 カナさんは、そう言うと、タブレットをユウジさんに見せた。


「迷宮のドロップ回復薬を求む! ってのが、めちゃくちゃあるやんけ。おっ! ケントのとこの駄菓子も超人気やで。1階層のチロ○チョコみたいなやつでも、30個で10万円やて」


「えっ? 10円のチョコが、30個で10万円!?」


(あー、そうか、食料か)


「それなら、子供達でも集められるわね」


 ユキナさんは嬉しそうな笑みを浮かべたが、カナさんは険しい表情で口を開く。


「迷宮内のドロップ品は、報酬が高いのよ。迷宮に入るには入場料が必要でしょう? それを考えると、チョコが30個で10万円というミッションは、報酬が安すぎるわね。舐められているわ。何かのついでに受注するとしても、30個なんて大変だし、誰もやらないわね」


(子供達が独占できる?)


「そうね。迷宮の入場料は、だいたい5万円だからね」


 そう言われると、ひどいミッションだな。二人で受注したら、入場料で消えてしまう。



「ほな、転移魔法陣を使えばええんちゃうか? 入場料を払わんでもダンジョンに入れるやんけ」


(さすが、ユウジさん!)


「は? 何を言ってるの? 行き先が迷宮なら、転移魔法陣の使用料の中には、迷宮の入場料も含まれているわよ」


「ケントのとこから井上のとこに行ったとき、金払ってへんで? 井上のとこの入場料はタダなんか?」


 ユウジさんが不思議そうに尋ねると、井上さんは苦笑いをしていた。後日、請求書が届くのかな。


「残念ながら、迷宮の主人の魔力紋を読み取るので、自動的に支払いが終わってますよ」


「なんやて? 初耳やで」


(僕も知らない)


「アンドロイドが、すべて面倒なことは、やってくれていますよ。入場料などの半分は、迷宮特区事務局の取り分ですからね。ちなみに、俺の迷宮は『水竜の咆哮』のメンバーなら、転移魔法陣の使用料も、迷宮の入場料も無料でした」


「なんで、タダやねん?」


「一定のランク以上のパーティ特権ですよ。所属するパーティメンバーの迷宮に入るときには、入場料などが免除されます」


(へぇ、事務局は徴収できないのか)


「だから奴らは、井上 夏生の迷宮を奪おうとしたのよ。もう、今となっては、有料になってるけどね」


 カナさんは、吐き捨てるように、僕達に暴露した。井上さんの迷宮の入場が無料だったから、集会をしていたのか。彼の迷宮のフリーパスは、便利だろうな。



「僕達の迷宮の入場を自由にはできないんですよね?」


 僕がそう尋ねると、井上さんは首を横にかしげた。詳しい条件は知らないのか。




「お待たせしました。ミッション完了の手続きが終わりました。報酬6500万円は『青き輝き』さんの口座に振り込みました。パーティランクは、Fランクに昇格しましたよ」


(報酬、高っ!)


 ちょうど良いタイミングで、職員さんが戻ってきた。すぐさま、井上さんが口を開く。


「あのさ、パーティメンバーの迷宮入場料無料になる特権の条件を教えてもらえるかな? 転移魔法陣の利用料とは別だったっけ?」


「あれは、Sランク以上のパーティと、メンバー全員がレベル500以上のパーティと、能力測定ゴールド2以上が5人以上いるパーティと、能力測定プラチナ2以上の人がいるパーティだけの特権です。『水竜の咆哮』さんは、Sランクパーティですからね」


(無理だな)


 僕達のパーティは、Fランクだ。迷宮レベルは冒険者レベルと同じだと聞いたけど、僕は、確かレベル21だったよな。



「レベル500以上の冒険者なんて、いるのかな」


 僕が小声で呟くと、カナさんは井上さんを指差している。


「ちょっと、カナちゃん。それは秘密だよ。数は多くはないけど、長寿の帰還者は、レベル500くらいは余裕で超えている。だけど、レベル500以上だけで構成されているパーティは存在しないよ」


(あっ、寿命が違うのか……)


「能力測定ゴールドが5人ってことは……」


「ごめん。俺は、シルバーもマックスにならないよ」


「私も、シルバーの6くらいだったかしら。でも、ブロンズの1が、冒険者平均なのよ?」


 カナさんがドヤ顔をしているけど、どんな測定なのか、全くわからない。



「測定すると、ギルドにステイタスや能力を把握されてしまうということよね?」


 ユキナさんは、測りたくないみたいだな。


「この能力測定には、ステイタスは関係ありません。ステイタスだけなら、治癒系や補助系の人に不利ですからね。仕組みは私達にはわかりませんが、帰還者の叡智です」


 職員さんがそこまで話したとき、開け放した扉を、野口くんが、ひょこっと覗いた。



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