149、シルバ様からの伝言と質問
「僕に、伝言ですか?」
僕の前に跪く、派手な銀色の帽子を被った二人の男性。シルバー連合だとかシルバ様だとか、何が何だかわからない。
「はい! シルバ様が、先程の非礼のお詫びをしたいとのことです」
(先程の非礼?)
シルバ様というのは、あの店で会った白髪の銀次さんのことか。シルバー連合は、銀次さんの連合?
「別に、そんなのは不要ですよ。それに、跪かないでください。目立つのは嫌なんですけど」
ユウジさんと目配せしながら、軽く牽制して反応を見る。すべての地下道に彼らを配置して僕を捜していたなら、話はそれだけではないだろう。
「困ります! このまま戻ると俺達は始末されます。ですが、五十嵐様に伝言を伝え、一定の成果をあげれば、出世できるんですよ」
(素直だな……)
見覚えのある人は、立ち上がった勢いで、ぶっちゃけすぎだ。もう一人の男性は、そんな彼に冷たい視線を向けながら、そろりと立ち上がった。
単純で素直な人と、用心深い人、か。こういう交渉には、良い組み合わせなのだろう。
「僕は、シルバ様という名前は初耳なんですけど、銀次さんのことですよね?」
僕がそう尋ねると、二人は、僕に頭を下げた。跪くのは我慢したようだ。
「はい、その通りです。シルバ様は、日本名は古い名だからと、異世界での名前を使われています」
僕達の横を、冒険者達がビビりながら通っていく。もう、僕の迷宮はダメだな。ただでさえ誹謗中傷で冒険者が寄り付かなかったのに、これでもう絶対に来ないだろう。
(でも、まぁ、いっか)
乱暴な冒険者が集まらない方が、居住区の住人は安心して暮らせる。孤児達もいるから、一般人だけの方がいい。迷宮のエネルギー問題は、ラランやアントさんがまた来てくれたら、解消できるもんな。どうせなら、もっとガツンと言っておこうか。
「そう。しかし、こんな風に、地下道で待ち伏せされるのは、良い気はしないな」
「申し訳ありません! ただ、迷宮特区に戻られる前に、お伝えしたかったのです」
彼らは、迷宮特区への立ち入り禁止か何かがあるみたいだな。裏ギルドだからか。
チラッと、ユウジさんの方を見ると、暇そうにあくびをしていた。そういう態度でいることで、カナさんと井上さんを落ち着かせようとしているみたいだ。
「はぁ、それで? 何なんですか」
「はい! 伝言と質問がございまして……」
「それを聞かないと、通してくれないのかな」
「いえ、あの、申し訳ありません! お願いします!」
僕達の横を通る冒険者達の視線を感じた。もう、いまさらだよな。気にするのはやめよう。
「何ですか?」
「はい! 伝言ですが、来月1日の集まりは、所用により欠席するかもしれないそうです。来月1日の、お会いする約束を変更していただきたいとのこと。その際には、先程の非礼をお詫びすると仰っていました。お食事に招待させていただきたいと」
「約束というほどのことはありませんよ。迷宮特区に来るついでに、僕の迷宮に立ち寄るというだけです」
「では、食事会の日程を……」
すると、ユウジさんが口を開く。
「おまえら、言うとくけどな。薬みたいなもんは食事とは言わへん。それにケントの迷宮には、普通の飯屋があるんや。詫びがどうのとか言うとるけど、ケントに媚びたいだけやろ」
「俺達は、光は信用しない! 勇者は黙っていてくれるか」
「は? 何を言うとんねん? 相手を職種でしか見ーへんアホは、何もわかってへんやろ」
「何だと!?」
(あちゃ……)
ユウジさんは、わざと、ケンカをふっかけたな。僕達と店で会った男性が、必死に止めている。やはり、良い組み合わせだな。
「裏の世界はシンプルだと、銀次さんは言っていました。秩序があるんですよね?」
僕がそう尋ねると、ユウジさんを睨んでいた男性は、僕の前に、跪いた。だが、僕がそれを嫌だと言ったことを思い出したのか、すぐに立ち上がったが。
「もちろんです。五十嵐様は、シルバ様が認めた本物の魔王です。シルバ様は、五十嵐様とは絶対に敵対するなと、俺達に命じられました」
「僕は、僕の友達を信用しないという人を、信じる気にはなれません。ここにいるパーティメンバーは、皆、僕の友達です」
「申し訳ありません! お許しください!」
(はぁ、やだな、こういうの……)
まるで僕が、彼らをいじめているような気になる。
「それで、質問とは何ですか?」
「は、はい! ありがとうございます! あの、ブランデーの件なのですが、シルバ様の代理で、他の者が買いに行きたいのです。ただ、五十嵐様に不快な思いをさせてはいけないので、入場禁止の決まりがあれば、教えていただきたいのです」
「他者に迷惑をかけず、ちゃんと列に並べる人なら、誰でもいいですよ。常識のない人は、迷宮が排出しますけど」
「わかりました! ありがとうございます!」
二人は、勢いよく頭を下げると、急ぎ足で、比叡山の方へと戻っていく。早く報告したいのだろうか。
一方通行の地下道を逆行しているが、彼らの銀色の帽子で素性がわかるためか、冒険者達は黙って道を譲っているようだ。
「キミ達……」
カナさんは、さっきよりも額の汗がひどい。蒸し暑い中で、緊張したり警戒したり、だったからな。
「なんか、よーわからん奴らやったな。地下道は蒸し暑いから、はよ、迷宮特区へ行くで」
ユウジさんは、ふわぁっとあくびをしながら、僕達を先導するように歩いて行く。
「しかし、キミ達……」
カナさんは何かを言いたいみたいだが、地下道内には、多くの人がいるためか、大きなため息だけを吐いていた。
◇◇◇
長い地下道の終点は、転移魔法陣の部屋になっていた。その横には、迷宮特区へ繋がる通路もあるようだが、冒険者達は、皆、転移魔法陣の部屋に入っていく。
「冒険者ギルドの2階に繋がっているわ。階段横に、買取カウンターがあるから、ミッションを受けた物以外にも、売りたい物があれば、買い取ってもらえるわよ」
カナさんは、少し落ち着かない様子だ。早口で、まくし立てている。
「カナちゃん、パーティランクが上がったら、次のミッションを受注したいわ。ギルドにだけ掲示されるミッションもあるでしょ?」
「わかったよ。珍しいミッションは、3階よ。あぁ、3階には食堂もあるから、夕食時で混んでいるかも」
カナさんは、お腹が減ったらしい。澄まし顔をしているが、くぅ〜っと、お腹の悲鳴が聞こえた。
僕は気づかないフリをしていたが、ユキナさんは、ユウジさんを小突いている。
「ほな、報告が終わったら、報酬で晩飯にしよか。俺、腹減ったわ〜」
「そうね、そうしましょう」
僕達は、転移魔法陣の部屋へと、入っていった。