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148、迷宮特区へ向かう地下道

「まだ30分前なのに、すごい人ね」


「ずっと、門の前で待っとったんちゃうか」


 僕達は今、比叡山から迷宮特区に繋がる地下道への出入り口にいる。比叡山に来たときは真っ暗だったが、今は明るいから全体がよく見える。確かにすごい人だ。



「比叡山迷宮から迷宮特区への地下道は数が多いから、そんなに時間はかからないわよ」


 カナさんはそう言うと、また僕にドヤ顔をしてくる。だが今、リュックが似合うと言うのは違うよな?


「比叡山へ向かう地下道は、ひとつでしたよね? 検問所は2つあったけど。迷宮特区へ戻る地下道とは、別なんですか?」


「あの地下道は、双方向に行き来していたでしょう? 今、私達がいる門の先は、迷宮特区への一方通行なの」


 確か、比叡山迷宮へ向かう検問所は、一般と冒険者で分けてあって、どちらも長い行列ができていたが、他には検問所は無かったと思う。


「地下道では、人とすれ違った記憶はないですが」


「基本的に、今、私達が並んでいる方が早いからね。でも、何人かはすれ違ったでしょう?」



 すると、ユキナさんが口を開く。


「ユウジさんが騒がしかったから、私も覚えてないわ。この門は、新しいわね。新たに作られた地下道なのかしら」


「ええ、そうよ。去年の台風の時は地下道がひとつしかなくて、多くの犠牲者が出たの。比叡山迷宮の東部から迷宮特区へ避難するために、去年の秋に、迷宮総監が増やした地下道よ」


(野口くんの父親が、か)




 ギギギッと、嫌な音が聞こえてきた。


「門が開いたわね。私達は、左に並べばいいのよね?」


 地下道の入り口は、10以上あるように見えた。いくつも作ってあるのは、崩れたときのためだろう。ユキナさんが指差した左側は、迷宮特区に住む人の専用出口みたいだな。


「いえ、右から3番目に並ぶわよ」


 カナさんは、即座に反論した。


「右側の3列は、冒険者専用出口って書いてあるわ。時間がかかるんじゃないの? ほとんどの人がそっちに行くわよ?」


「右から3番目の地下道の出口には、冒険者ギルドへ直通の、無料の転移魔法陣があるの。他の列に並んだら、かなり高い料金を取られるよ」


(無料の転移魔法陣?)


「ミッションのクリア報告用なのね。わかったわ。この人数が移動すると、迷宮特区の出入り口近くの転移魔法陣屋も混むだろうから、逆に早いかもね」


 ユキナさんは、無料に惹かれたわけではないだろうけどな。カナさんは、意味深にニマニマと笑っている。


 あっ、そういえば、カナさんが中学生くらいの姿に戻ったことは、まだ知られてないはずだ。もしかすると、冒険者ギルドにいる知り合いに早く見せたいから、かもしれない。




「あら? おかしいわね。なぜ、こんなに早いの?」


 カナさんが、突然、真顔になった。ゆっくり歩くペースで、列が進んでいく。


「カナちゃん、たくさんの地下道があるからじゃないですか?」


「検問所があるのよ? こんなに進むのが早いなんて、おかしいわ。非常時は検問しないのよ。まさか、迷宮開放はしてないわよね?」


(えっ? 非常時?)


 井上さんは、すぐさまタブレットを操作している。だが、風は強くないし、台風が来ているとは思えないが。


「みんな、賄賂を渡してるんちゃうか? 俺も、ちゃんと調達してきたで。なぁ、ケント」


「そうですね。企業迷宮で、検問所をスムーズに通れるお土産を何種類か買いました。並んでいた人達は、準備していたのでは?」


「ここまで早くはならないわよ。台風は発生しているけど、日本には来ないルート予報ね。一体、何があったの?」


 カナさんも、タブレットを操作して、原因を調べているようだ。よく見ると、並んでいる他の冒険者達も、カナさんと同じように、焦った表情でタブレットを操作している。


(何かの事件か?)


 原因がわからないまま、僕達が並ぶ列の、検問所の小屋が見えてきた。




「次のグループ、中へ」


「なぜ、こんなに早いの? タブレットには、まだ情報が出てないわ。何かあったの?」


 カナさんは、小屋の前にいた職員さんに、詰め寄る。


「あぁ、抜き打ちでね。まさかのシルバー連合が検問所に来ているんだよ」


「うっそ……」


 カナさんは、僕達の顔をガン見してくる。シルバー連合って、何なんだ?


「早く、入ってくれ」


 職員さんに促されて、僕達は検問所の小屋に入った。



「えーっと、『青き輝き』さんね。ミッションお疲れ様。この先は、冒険者ギルドに直通の転移魔法陣があるから、報告に行くなら使ってください。じゃ、次のグループ」


(早っ!)


 検問所にいた二人の職員さんは、緊張した様子で、テキパキと、僕達の比叡山からの退出記録をしてくれたようだ。


 賄賂も何も要求されない。そもそも、僕達が怪しい物を持ってないかさえ、何も見てないよな。


 キミカさんのアンドロイドを隠せるかと心配していたが、僕達は、無事、検問所を通過した。




「せっかく、賄賂の品を買ったのに、意味なかったやんけ」


 検問所の小屋を出て、地下道を歩き始めると、ユウジさんがブツブツと文句を言い始めた。


「こんなことは、滅多にないのよ。悪い汗をかいたわね」


 カナさんは、本当に額に汗がべっとりだ。


「でも、非常事態じゃなくてよかったわ。シルバー連合の抜き打ちって言っていたけど、賄賂の調査なのかしら。知らない組織だわ」


(ユキナさんでも知らないのか)



 井上さんが、口を開く。


「シルバー連合は、裏ギルドの調査隊です。暗殺依頼か何かがあって、誰かを探しているのだと思いますよ。敵対する大きな組織が相手かもしれません」


「裏ギルドの調査隊? あぁ、だから、さっさと人を流さないといけないから、こんなにスムーズだったのね」


(ん? 何か、詰まってきたな)


 地下道の人の流れが遅くなってきた。みんな、右端に寄っていくからか。左端に流れを妨害する何かがあるのだろうか。



「うわっ、シルバー連合だ!」


 僕達の少し前を歩いていた冒険者達が、右端へと寄っていく。左側に居るのか。


 僕達の視界がひらけた。


(あれ? あの人って……)


 銀色の派手な帽子を被って地下道の左端に立つ、二人の男性の姿が見えた。うち、一人には見覚えがある。



「あっ! 見つけた!!」


(嫌な予感……)


 ユウジさんは、剣を装備している。ユキナさんも、迎撃態勢だな。井上さんとカナさんも、慌てて、剣や杖を出している。



 二人の男性は、僕達の方へと駆け寄ってきた。


「五十嵐様! お待ちしておりました。シルバ様からの伝言があります!」


 なぜか二人は、僕の前に、ひざまずいた。


(はい? シルバ様って、誰?)



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