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147、茶色いウサギからの情報

「アナタ達! 何時間もどこに行っていたのよ!」


「そんなに怒るなや。土産をいっぱい買って来たで」


 キャンプ場のテントに戻ってくると、ユキナさんがブリブリと怒っていた。僕達を心配してくれていたのだろう。



 僕達は、店を出た後、企業迷宮内で買い物をした。店からついて来た見張りがいたから、僕からは、あの店での話はしなかった。


(狙って行ったんだな)


 ユウジさんは、イマイチな暇つぶしやったな、とだけ話していた。ただの興味本位だけなら、ユウジさんは見張りがいても、白髪の男性の話やカウンター内にいた関西弁のアカと呼ばれた人の話をしていただろう。


 僕達が普通に買い物をしていると、その見張りも、いつの間にか居なくなっていた。僕達があの店のことを、何も気にしてないと思ったのだろうか。



 テントの結界バリアをユキナさんが張り直すと、ユウジさんは、店での出来事をしゃべり始めた。


 井上さんやカナさんがいるからか、ユウジさんは、原始の魔王の話はしなかった。灰王神の素性を探るためにも、原始の魔王が12人いたことを話すべきだと思ったけど、あれは失敗だったか。比叡山十二大魔王も同じ数なんだけどな。



「呆れたわ。本当に、裏ギルドのドンと接触していたのね。しかも、名前までバレたなんて……」


(やっぱり、これが狙いだったんだ)


「俺らは、目立つみたいやからな。あのオッサンは、裏ギルドのドンやなくて、裏社会のドンやろ」


 ユキナさんは呆れ顔だが、井上さんとカナさんは、顔面蒼白になっている。白髪の男性は、それほどアブナイ人らしい。


 しかし、彼が戦国時代の人だったとは驚きだ。異世界からの帰還者は、やはり異世界人なんだな。彼は、どれだけ生きていられるのだろう?




 僕は、背負っていたリュックを、テーブルの上に置いた。キミカさんのアンドロイドが、僕達に話したいことがあるようだ。


『あの、少しよろしいでしょうか』


「あぁ、ウサギくんも大変だったわね」


 ユキナさんがすぐにそう答えると、茶色いぬいぐるみウサギは、首を横にフルフルと振っている。


『あの店に居た人間達の何人かは、私の素性がわかっていました。機能停止していると思わせようと努力しましたが、二人には見抜かれました』


「二人って、白髪の男性と、カウンター内にいた眼鏡の男性かな?」


『はい。あの二人は確かに、裏ギルドの創設者の銀次さんと、比叡山十二大魔王の一人であるアカの魔王でした。私の主人のことも知っている人間です』


(アカの魔王?)


「変な発音やな。赤の魔王やなくて、アカの魔王なんか?」


 ユウジさんの問いかけに、茶色いぬいぐるみウサギは、頷いた。垢に聞こえる発音だよな。



『比叡山十二大魔王は、半数は、髪色が鮮やかな戦闘力の高い武闘系です。残りの髪色の変わらない魔王は、呪術師です。同じ色同士がペアを組んでいます。弱点を補い合う関係です』


「もしかして、アカって、呪術名なの?」


『それは私にはわかりません。ただ、思念系の術を得意とする魔王です。私の主人は、6人もの呪術系の魔王の役割は、厄災時の、人間への洗脳だと言っていました。鮮やかな髪色の魔王達は、呪術系の魔王の仕事を邪魔させないための盾だとも言っていました』


(なるほどね)


 キミカさんは、夢見のチカラで、十二大魔王の詳細を知ったのだろう。もしかすると、彼女が昨年の夏に殺されたのは、そのためかもしれない。


 灰王神が何者なのかを、彼女が知ったのなら……。



「ウサギくん、キミカは、灰王神の正体のことは知らなかったのかしら?」


 ユキナさんは、僕が疑問に感じたことを即座に口にした。皆、考えることは同じか。


『主人は、黒い影だと言っていました。邪気のある神だとも言っていました。それ以上のことは、わかりません。夢に出てきても、黒い影となって、すぐにかき消えてしまうそうです』


(黒い影?)


「そう。灰王神には、キミカの夢見を妨害する能力がありそうね。神様なら当然かもしれないけど」


『おそらく、そうだと思われます。主人は、黒い影を探ろうとしていました。ですが、昨年の夏に……』


 茶色いぬいぐるみウサギは、そこで念話をやめてしまった。辛いことを思い出させてしまったな。



「黒い影の奴は、おまえの主人を脅威やと思ったんやろ。別れは残念やけど、誇るべきことやで。邪神をビビらせたんやからな」


 ユウジさんがそう言うと、茶色いぬいぐるみウサギは、小さく頷いた。見ていられなくなったのか、ユキナさんがウサギの頭を撫でている。


 キミカさんの声を聞いたユキナさんが触れることが、アンドロイドにとって、一番のなぐさめになるか。




「山田さんも五十嵐さんも、裏ギルドがどういうことをしているか、知っているの? 様々な貴重な資源を独占し、私達の生活をしいたげているのよ?」


 カナさんが突然、大きな声を出した。場の雰囲気を変えようとしたのだろうか。


「そんなもん、知るわけないやんけ。俺らは、普通の冒険者ギルドも行ったことないで? 裏ギルドって、あちこちにあるんか?」


「裏ギルドの本拠地は、おそらく、キミ達が行ったという企業迷宮内の店ね。各地に支部があるわ。扱っている案件は、一切、漏れてこないけど、大規模な窃盗には裏ギルドが絡んでいるわ」


「盗賊団みたいなもんか。暗殺者集団かと思ったけどな」


「たぶん、どちらもやっているわよ。よく無事に出て来れたわね。だけど、これからが恐ろしいわ。来月、キミ達の迷宮に現れるのでしょう?」


 カナさんは、心底、震え上がっているみたいだ。



「ブランデーを買いにくるだけちゃうか? あのオッサンは、アカとかいう魔王よりも嫌なオーラやったけど、ほんまに魔王ちゃうんか?」


 ユウジさんがそう尋ねると、カナさんは、井上さんの方をパッと見た。彼女も知らないらしい。


「俺も、わからないですよ。裏ギルドの創設者には、絶対に逆らうなと言われています。会ったことがあるかも記憶にない。おそらく、記憶を操作する能力を持つ呪術系の帰還者です」


(あー、なるほど)


 店では、眼鏡の人が、テーブル席にいた人達の記憶を消したみたいだけど、命じていた彼の指示は、2時間分を消せというものだった。


 彼自身が、その術を使えるということだ。僕達の前で、自ら術を使わなかった理由は、自分の能力を隠すためか。




「そろそろ、検問所が開くんちゃうか?」


「そうね。早目に並ぶ方が良いわね」


 僕達はテントを出た。ユキナさんは、なぜか、そのテントを潰した。使い捨てじゃないはずだが。



「警戒心が強いのね。でも、比叡山なら、それが正解よ。どんなゴミが付着したか、わからないからね」


 カナさんは、リュックを背負って、僕にドヤ顔を向けた。


(えーっと……)


 僕が何も言わなかったためか、彼女はツーンとした表情で、キャンプ場の出口へと歩き始めた。



「ケント、おまえなー」


 カナさんが背負う方が似合うと言うべきだったと、ユウジさんから、小声で注意されてしまった。


(なぜだ?)


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