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146、白髪の銀次さんからの提案

「えっ? 灰王神って、神様じゃないんですか?」


 僕は、白髪の男性の提案に、無意識のうちに問い返していた。比叡山西部の十二大魔王は、灰王神によって選ばれたと聞いた。赤髪の魔王達も、野口くんの父親である総監も、灰王神にすがるしかないと言っていたよな?


「ワシがいた異世界では、世話になった者達が、彼を魔王だと言っていた。圧倒的な能力を持つため、原始の星を離れた魔王の一人ではないかとも言われていたが、事実か否かはわからない。神だというなら、邪神だな。ワシは仏様しか信用しないが」


(行方不明の原始の魔王!?)


 僕の心臓は、バクバクとうるさい。頭に血がのぼり、なぜか手が冷たくなってきた。だが、動揺は見せられない。



「仏様ということは、仏教ですか。僕は、宗教は……」


「俺らは、幸運を招く青い蝶を信仰しとるからな」


(あっ、そうだった)


 危うく、無宗教だと言いそうになった。僕達は、冒険者パーティを作るために、怪しい宗教団体を作ったんだ。


「幸運を招く青い蝶? そんな昆虫がいるのか? あぁ、冒険者登録のために、でっち上げたな」


 ユウジさんは、彼の言葉に反論はしない。ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべただけだ。



「冒険者として自由に動けるなら、好都合だ。ワシと手を組まないか? 灰王神は信用できない。一緒に追い出さないか?」


(協力の依頼だよな?)


 ユウジさんは、おそらく、白髪の男性の方からこの話を持ち掛けられることを、狙っていたのだろう。


「僕としては、高熱化を改善したいと思っています。その原因が、灰王神に繋がるものなら……」


「ケント、ちょっと待て。今日、初めて会ったばかりの怪しいオッサンと手を組んでどないすんねん? その神様か何か知らんけど、そいつが日本を守ろうとしとるかもしれんやろ」


(ん? まぁ、そうかもな)



「ふっ、まぁ、そうなるか。山田は、ワシの放つオーラに敏感なようだ。すぐに結論を出せとは言わない。ワシのことが信頼できるかは、自分達で調べればいい。ワシの名は、銀次という。名字はない。裏を取り仕切っている」


「銀次さん? 何だか、昔っぽい名前ですね」


「あぁ、ワシは戦国時代末期に生まれた人間だからな。幼少の頃から、加賀の前田家で奉公していた。異世界に転移し、様々なチカラを得た。その星が厄災で潰れ、日本に戻ってきたのは、2000年頃だ。今から100年くらい前になる」


(へ? 戦国時代?)


「戦国武将ですか?」


「いや、まさか。ただの奉公人だった。ワシが異世界から帰還するのを助けてくれたのが、灰王神だ。だが、ワシは、あまりにも変わりすぎた日本に戸惑った。そんなワシに、山の中に住処を作ってくれたのが、灰王神だ。しかし、そのせいで……ワシのせいで、その山の洞穴が、魔物化した」


「えっ!? それって……」


「ワシが、異世界から、青虫の卵を日本に持ち込んでしまったようだ。青虫の生態は不明だが、青虫がいると、迷宮が魔物化するのだ。だからワシは、灰王神を信用できない。神ならば、ワシについていた青虫の浄化もできただろう」


 そこまで話すと、白髪の男性は、ブランデーをグイッと飲み干した。


(誤解だよな、たぶん)


 青虫カリーフは、卵を産まない。魔物化した迷宮の瘴気から生まれるんだ。そして、迷宮を魔物化させるのは、特定のオーラ。すなわち、原始の魔王が放つオーラだ。



「それで、なんで、信用できへん奴に従ってるんや?」


「ワシには、この後の行く末を見届ける義務があると言われた。厄災を経験したワシがいれば、きっと、厄災から日本を守れるとな」


 灰王神は、彼を脅すために、青虫カリーフを利用したのか。だが、ここで、それは違うと否定すべきではないと感じた。店には、一般人もいる。


「なんか、出来すぎた物語みたいに聞こえるで。ケント、もう帰るで」


 ユウジさんは、まるで信用してないような素振りだ。



「ワシの話を、いきなり信用しろというのも、無理な話だ。えーっと、そうだな。ワシは毎月1日に、企業迷宮の集まりに出ている。来月は、迷宮特区が会場になっているから、そのとき、キミ達に会いに行くよ。それまでに、ワシのことを調べておけばいい」


(企業迷宮の集まり?)


 白髪の男性、銀次さんは、僕達との関係を繋ごうと、必死に見えた。


「オッサン、それって、ブランデーを買いに行きたいだけちゃうんか?」


「えっ? ブランデーは、どこの迷宮……」


 眼鏡をかけた男性が、彼にタブレットを見せた。このアカと呼ばれた黒い髪の人が魔王なのか、確認できてないな。



「なんと! このブランデーは、キミの迷宮で作っているのか! なるほどな。原始の星の魔王資格者の迷宮だから、自然の川が流れ、葡萄園もあり、ブランデーの蒸留所も作れるのか」


(気づいてなかったのか)


「言っておくけどな。オッサンが裏社会のドンか何か知らんけど、2階層の居住区では、ちゃんと並べよ? 見張りの幽霊がおるからな。暴れたらすぐにバレて、迷宮から排出されるで」


 ユウジさんは、まるで体験談のように語っている。


「あぁ、迷宮特区の迷宮なら、アンドロイドがいるからな。魔王資格者のアンドロイドなら、かなりの能力が備わってるだろう」


「アンドロイドだけやなくて、ガーディアンもおるからな」


「そうか、わかった。きちんと列に並ばせよう。勇者でさえ、ガンガン排出する能力があるなら、従う方がいい」


「は? 俺は1回しか、放り出されてへんで? 常連みたいに言わんといてくれ」


(放り出されたんだ……)



「フッ、悪かった。アカ、おまえも従うのだぞ」


「はい……」


 眼鏡の人のアカという名前が、僕は少し引っかかっている。だが、今は尋ねない方が良いか。魔王ではなく、呪術名のように聞こえるが。



「ケント、ほな、帰るで。食器屋は絶対やで」


「お土産ですね。ここにいる軟禁状態の人達は、放っておくんですか」


「カツアゲされる奴は、これで勉強になるやろ。比叡山迷宮は、自己責任やからな。そこまで世話できへんわ。まぁ、殺されそうになっとったら、話は別やけどな」


(確かに、キリがないか)



「そんな風に言われては、ワシが黙っていられないな。おまえら、コイツらはこの2時間の記憶を消して、外に放り出しておけ」


 白髪の男性、銀次さんがそう言うと、テーブル席の人達に向けて、アカと呼ばれた人が何かの術を使ったようだ。



「ほな、帰るわ」


 ユウジさんがそう言うと、近くにいたチンピラが扉を開けてくれた。僕もその後ろをついて、ゆっくりと階段を上がっていった。



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