145、いろいろとバレたようです
「言葉通りやで。ケントは、異世界で魔王認定された帰還者やからな。帰還してから魔王に選ばれた奴らとは違う。本物の魔王や」
ユウジさんは、裏の世界を取り仕切っているという白髪の男性の問いに、そう答えた。
「そういう意味か。だが、帰還者が魔王になって帰ってくるのも珍しい。勇者を名乗る連中は、ゴロゴロいるようだがな」
白髪の男性は、ユウジさんが勇者だとわかっているのだろうか。そういえば、ユウジさんが出したブランデーを、栓が開いている物でも疑わずに飲んでいたよな。
彼自身に毒耐性があるのか、もしくは、ユウジさんが勇者だとわかっているのだろう。勇者と呼ばれる人達は、基本的に、人を救おうとする。意味なく誰かを殺すことはない。
「まぁ、俺も一応、勇者やっとったけどな」
(あっ、ユウジさんが自白した)
「そんなことは、いちいち口に出さなくていい。見たらわかる。勇者には特有の光があるからな。だが、勇者が魔王と友達だというのは、理解できない。相反する関係だろう?」
「オッサン、何を言うとんねん。勇気ある者が勇者で、魔の王が魔王やで? 全然、相反せーへんわ。で、オッサンは、ほんまに魔王ちゃうんか? 嫌なオーラやねんけどな。そっちの眼鏡よりも、嫌なオーラやで」
(カウンター内の人?)
「ワシは、魔王ではない。迷宮を持つ者しか、魔王にはなれないだろう」
「帰還者なんやろ?」
「ちょっと訳アリだがな。こんな形で知り合えたのも何かの縁だ。ワシは、この世界の終焉を見届けるまで死ねないからな」
(何? 終焉?)
白髪の男性は、フッと笑うと、ユウジさんが最初に渡したブランデーをグラスに注ぎ、穏やかな表情で、ふーっと息を吐いた。
ユウジさんは、もしかすると、この男性に会うために、土産を買うと大声で話していたのだろうか。だとすると彼は、僕達が欲しい情報を持っている?
だが、ユウジさんは何も言わない。ブランデーを渡して情報を聞き出すつもりかとも思ったが、何の要求もしていない。
「ケント、ほな、帰ろか。土産を買わなあかんからな」
「へ? あー、はい」
(顔見せだけ、か)
彼が、裏を取り仕切っていると言ったのに、何も尋ねないんだな。それに、カウンター内の眼鏡をかけた人のことも。
テーブル席の人達を横目で見つつ、ユウジさんが店の扉に手を掛けたとき、誰かの咳払いが聞こえた。
「ちょっと待ってくれ」
白髪の男性が僕達を呼び止めた。
振り返ってみると、カウンター内にいた眼鏡をかけた男性の姿が、さっきとは少し違うように見えた。認識阻害系の術が消えたのか?
眼鏡の人が、白髪の男性にタブレットを見せている。
「なんや? 俺らは、二人で来たんやない。仲間を待たせとるんや」
「まだ、検問所が開くまで4時間もある。暇なんだろう? 店の者にここに連れて来られたのは、わざとだな?」
(あっ、何か、バレてる?)
「まぁな。おもしろ話は、ネタになるやろ。ブランデーをカツアゲされたって言うつもりやってんけどな」
「ふっ、勇者がそのようなことを言うのか? この場所を通報するつもりなら……いや、それはないか。なぜ、ここに来た? 山田と五十嵐か。迷宮特区の迷宮の主人が、何の用だ」
(シュジンと言った!)
白髪の男性が、僕達の素性を明かしたことで、友好的になっていた雰囲気が、ガラリと変わった。今度は、警戒か。
「なんで、俺らの名前がバレたんや? さっきも言うとったように、暇つぶしや。普段は捕まることないからな。まぁ、強いて言うなら、強い奴を見たいっていう好奇心があるかもしれん」
「強い者を探しているのか?」
白髪の男性は、ユウジさんではなく、僕の方を真っ直ぐに見ている。確かに強い者……写真のヤバそうな人物は探しているが。
「ケントにそんなこと聞いても、答えはわかっとるやんけ。魔王は、上下関係をはっきりさせたいんちゃうんか? 俺は、ケントより強い奴がおらんか、探してるけどな」
ユウジさんがそう答えると、白髪の男性は、フッと笑みを見せた。
「勇者という職種の者達は、より強い魔王を狩りたいらしいな。なるほど、そういうわけか。二人が共に行動する理由も、だいたいわかった。だが、おまえ達のようなチカラを持つ者達が、こんな世界で戦うと、小さな国は簡単に海に沈むぞ」
(あれ? 何か、納得してる?)
「別に戦うとは言ってへん。探したいだけや」
「だが、チカラのある魔王だけを探しているのだろう?」
「別に、魔王だけちゃうけどな。俺より上がいっぱいおったら、俺はのんびりできるやろ。ケントの戦闘力は、俺より上や。だから一緒におると、居心地がええんや」
(はい?)
剣術だけなら、魔剣士の僕の方が上だろうけど、総合力では、ユウジさんの方が上だ。
「フッ、それで、この店にいる魔王と、そっちの兄さんでは、どちらが上だと判断したのだ?」
「ケントの方が圧倒的に上や。だから、さっさと帰るんや」
ユウジさんが、少しバカにしたように言い放つと、カウンター内にいた眼鏡の男性が、僕をキッと睨んだ。髪色は普通に黒いけど、黒い髪の魔王?
「ワシから見れば、二人は互角だと思うがな。勇者が相手なら、アカは不利だろうけどな」
(アカ?)
「カウンター内に居る人は、赤の魔王なんですか? でも、赤髪の魔王とは会ったから、赤色なわけないか」
僕がそう呟くと、カウンター内にいる眼鏡の男性は、クワッと目を見開いた。
「なるほど、そういうことか。五十嵐がいた異世界には、同じ色を冠した魔王はいなかった。キミは、原始の星の魔王資格者か」
白髪の男性は、楽しそうな笑みを見せた。彼の言葉で、カウンター内にいた眼鏡の男性は、凍りついたように動かない。
「原始の星という呼び方は知りませんね。色の名がついた魔王は、元々は12人いたようですが、今は5人だけですよ」
「ふむ、カルマ洞窟の封印を生き残って、魔王資格を得たのだな。それなら、比叡山十二大魔王が全員で挑んでも、勝てないだろう。確かに、キミは本物の魔王だ。それに、冒険者達の記事を見ていても、よくわかる」
眼鏡の男性が、記事を読み上げる。
「どうせ復活させてやるのだからと言って、気に入らない冒険者は躊躇なく殺す。比叡山西部の高位の呪術師達も殺された。カジノをオープンさせて、冒険者から金を搾り取っている。他にも、たくさんの被害者が書き込んどるわ。裏ギルドは、アンタの迷宮の危険度をMAX指定したみたいやで。極悪魔王の迷宮やな」
(誹謗中傷が、酷くなってないか?)
白髪の男性は、心底うれしそうな顔をして口を開く。
「キミ達と知り合えたことで、面白いことを考えた。ワシは、灰王神と名乗る魔王に従わされているのだ。奴を、地球から追い出さないか?」