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141、強制終了

「何か、ひらめいたのか?」


 僕の顔を真っ直ぐに見つめる赤髪の魔王。彼は、二重スパイなんだよな? 表情の変化を読み取る能力が高い。いや、僕がわかりやすいのか。


「まぁね。次の大きな台風のときが、勝負かな」


「何をするつもりだ?」


 赤髪の魔王は、ただの興味で尋ねているように見える。


「キミは、二重スパイなんでしょ? まだ具体的な方法は考えてないし、話せないな」


「方法はどうでもいい。台風のときに何をするんだ?」


 赤髪の魔王は、なんだかワクワクしているようにさえ見える。スパイらしさは、ゼロだ。だが、だからこそ、二重スパイなのか。彼が、監視塔と西部エリアの双方に情報を流すことを、西部エリアは知っているのか?


 二重スパイについて、何も説明を聞いてないから、僕は、何に気をつけるべきかわからない。だが、ある程度の情報を渡す方が、逆にやりやすいか。



「高熱化の元凶となっているモノを探す。この高熱化は、自然現象じゃなさそうだからね」


「その元凶を見つけたら、どうするんだ?」


「当然、潰すよ」


 そう答えると、赤髪の魔王は、総監の顔を覗き込んでいる。二人は今も協力関係にあるようだ。僕達がどう動くのかを聞き出し、灰王神に伝えるのだろうか。



 総監が口を開く。


「高熱化の後には、厄災が起こると言われている。高熱化を止めると、厄災が早く起こる可能性はないのか?」


(灰王神がそう言ったのか)


 マナのないこの世界では、魔物化した迷宮の成長の主な源は、高熱化した台風のエネルギーだろう。それを止めれば、魔物化した迷宮は一体化しないはずだ。すなわち、厄災は起こらないと思う。


 だが、それを説明するかは、慎重に判断するべきだろう。彼らが従っているという灰王神が、本当に地球を救うために比叡山に来たのかは、わからない。



 僕が何も話さないことで、総監は少し慌てたようだ。


「カルマの厄災を知る帰還者に対して、失礼だっただろうか。すまない。私としては、よりベストな方法を探しているのだ。もう時間がない。台風の規模が想定を大きく超えている。厄災の前に、台風で国土の大半が海に沈む可能性が高まってきたのだ」


 嘘を見抜くチカラがあるという管理局の向井さんは、話のやり取りをジッと聞いている。嘘をつくと、バレるのかもしれないが、隠し事には反応しないみたいだな。



「いえ、少し考え事をしていました。総監さんは、僕達に味方する可能性があるということでしょうか」


「私は、キミ達と敵対するつもりはない。ただ、疑われるのも仕方ないな。迷宮に関わる職員達でさえ、私に敵対する勢力がいくつもある。何が正解かわからないから、方針の統一ができないのだ」


「帰還者迷宮を作らせる一方で、迷宮を潰そうとする勢力もある。冒険者を取り締まれないのか、野放しにしているのか、はっきり言って、僕がいた頃の日本と同じ国だとは思えません」


 僕が強い口調で言ったためか、総監は少し気分を害したようだ。帰還者の見た目は、実際に生きている時間とは関係ないようだが、僕のようなガキに偉そうにされることを不快に感じたのかもしれない。



 少しの沈黙の後、総監は口を開く。


「あぁ、そうだな。帰還者の戦闘力が高まるにつれ、警察も機能しなくなった。帰還者の叡智を結集した迷宮特区が、統制の中心になりきれていないのが原因だ。だが、わかって欲しい。皆の考えは同じなんだ。平穏に暮らせる世界を取り戻したいのだ」


「目的は同じなのに、やっていることはバラバラですね。帰還者の意見が違うから、まとまらないのでしょうか」


「いや、多くの異なる意見があることは、問題ではない。ただ、誰にもわからないのだ。皆が、自分が正しいと主張するからな」


(まぁ、そうだろうな)


 おそらく総監自身も、わからなくなっているのだろう。だが、僕も、厄災のはじまりを知っているわけではない。一番最初は、魔物化した迷宮が一体化しない可能性もあるか。




「この話し合いに、意味があるのかしら?」


 ユキナさんの声は鋭い。


「私は、彼の疑問に誠実に答えようとしている。互いに問題点を……」


「オッサン、結局は、ケントに何とかしてくれって言いたいんやろ? せやけど、メンツか何か知らんけど、まわりくどいことをグダグダ言うとるだけやんけ。時間の無駄や」


 ユウジさんも、キレ気味だな。井上さんとカナさんは、総監には何も言えないだろうし、僕もこういう話し合いは得意ではない。



「ふっ、そうだな。キミ達の言う通りだ。最後にもうひとつだけ教えてくれ。迷宮特区に金色の雨を降らせたのは、キミ達の誰かだね? 比叡山迷宮が引き寄せた台風のエネルギーを、あんな形で横取りする能力が存在することに驚いた。誰が先にあの術者を捜し出すか、競争になっているよ」


「俺らは、何も知らんで」


 ユウジさんがそう言った瞬間、嘘を見抜くという管理局の向井さんの身体を、点滅する光が纏った。


 それに気づくとユウジさんは舌打ちをしていたが、こんな反応は、今まで無かったよな。これまでの総監の話には嘘はないということか。



「ひとりでは出来ない術です。また、条件が整うことも必要です。だから、常にあのような術が成功するとは限りません」


「キミ達がやったと認めたのかな?」


 ここで、どう返事をするかによって、総監は何かを判断するのだと察した。


 ユキナさんもユウジさんも、何も答えない。


(やっぱり、ここは僕か)



「ええ、そうですよ。あのとき、僕の迷宮には大勢の避難者が集まりすぎていて、エネルギーが欲しかった。それに、伊勢湾を通るあの進路は、非常に危険だと考えました。比叡山迷宮がエネルギーを集めたいなら、日本海側からのルートにすれば良いんじゃないですか」


「なるほど、そういうことか。迷宮の中にいても、外の様子が見えていたのだな」


「見る方法はありますよ。帰還者迷宮は、幽霊星の技術を使っていますからね」


 僕は、あえて、幽霊星という言い方をした。ラランのポラリス星の呼び方だが、その方が伝わりやすいだろう。


「どういう方法……あっ、冥界の関係か……」


 総監は、そのまま、また黙ってしまった。




「もう、帰るで。腹減ったわ」


「場所を変えますか? 食堂があります。ご案内しましょうか」


 管理局の向井さんが、立ち上がった。僕達が協力すると言うまで、帰さないつもりなのか。


「クソまずい飯なんか、いらんわ。わかってるやろけど、こっちには、ペンギンの魔剣があるねんで?」


(また、言ってる……)



「総監、俺達も帰るよ。もう外は暑くなってるだろ」


 赤髪の魔王が立ち上がったことで、総監は何かを決意したような表情を見せた。



「私は、今は無所属だが、これから起こる厄災に備えて冒険者レベルを上げたいと思っていた。『青き輝き』に加入させてもらえないだろうか」


(はい?)


「お断りよ!」


 ユキナさんが冷たく言い放って、スッと立ち上がると、小部屋の扉は勝手に開いた。彼女が術を使って、こじ開けたようだ。



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