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138、迷宮総監との話

 第6会議場は、屋上から長い階段を降りた先にあった。会議場というから、机と椅子が並んでいるのかと予想していたが、何もないガランとした天井の高いホールだ。


 窓の外には、どんよりと曇った夜空が見える。山の木々よりも高いから、地上6〜7階だろうか。夜だということもあり、暗い窓に室内の明かりが反射して、ホールがより一層広く感じる。


 会議場の奥の方には、屋上にいた人達が集められている。没収したものが置いてあるようだ。テントがいくつか見える。僕達のテントは、どれだろう?



「あぁ、『青き輝き』は、こっちだ」


(ん? なぜ知られてるんだ?)


 声がした方に振り向くと、階段の下に扉があった。入ってきたときは、気づかなかったな。


「なぜ、パーティ名を知っているのかしら?」


 ユキナさんは不快な感情を隠さずに、監視塔の職員らしき男性に、冷たく言い放った。こういうときのユキナさんは、女王様という感じで、威圧感が半端ない。



 階段下の扉が開いた。


(あっ、総監だ)


 普通の会議室のように、長机と椅子が並んでいるのが見える。扉を開けたのは、総監と呼ばれていた中年の男性だ。


「その話も含めて、こちらの小部屋で話そうじゃないか。井上、久しぶりだな」


(知り合いか)


 井上さんは、軽く会釈をしただけだった。仲が悪いのか、緊張しているのかはわからないが、彼の表情は険しい。


「井上、怖い顔せんでも大丈夫や。俺らには、ペンギンの魔剣があるからな」


(ペンギンの魔剣って……)


 ユウジさんは、ぽんぽんと彼の肩を叩き、僕達を先導するように、小部屋へと入っていく。


 ユキナさんが井上さんと並んで、彼の後ろに続き、その後ろをカナさんがついていく。カナさんが背負うリュックのウサギが、一番後ろを歩く僕の顔をジッと見つめていた。


(何か、言いたいのか?)


 階層ボスだった銀色のサソリを喰ったアンドロイドは、ずっと、リュックの飾りのような、茶色のぬいぐるみウサギを装っている。



 アンドロイドの主人は、野口くんの母親だということがわかった。そのむくろはまだ、迷宮復活待ちの異空間に保管されているらしい。


 アンドロイドがリュックの姿をして、僕達に同行しているのは、亡き母から息子への、伝言を預かっているためだ。アンドロイドは、直接、野口くんに伝えるつもりらしい。


 そして、えっと、野口 希美花さんは、僕達の帰還を導いた夢見人だという。ユキナさんは、キミカさんの声に従って行動したと言っていたもんな。


 深夜にラランから聞いた話によると、強い帰還者は、時空の歪みによって、帰還を妨害されているということだった。僕も、かなり遅れた。そして僕が帰還できたから、ラランは手遅れだと言っていたのだと思う。


 だけど、キミカさんが導いてくれたことで、妨害の影響を減らせたのなら、まだ、手遅れではないと思いたい。



 屋上で会った比叡山の十二大魔王に選ばれたうちの二人は、はっきり言って、強くはなかった。まだ、これから比叡山迷宮がエネルギーを吸収することで、成長するのかもしれない。


 僕達より早く帰還できた人達は、強い帰還者ではないのだろう。強い帰還者は、時空の歪みで未来や過去に飛ばされるみたいだからな。


 灰王神という神様が彼らを選び、高熱化の後に起こる厄災に対処させようとしているらしいが。




 ◇◇◇



「適当に、座ってくれ」


 会議室のような小部屋には、屋上で会った二人の魔王もいた。武装を解除したのか、二人とも服装が変わっている。


 赤髪の魔王は冒険者のような軽装だが、緑髪の魔王は一般人のようなワンピース姿だ。



 僕は最後に小部屋に入ったから、空いている席は一番奥の、魔王達が座っている席の向かい側しかなかった。


 僕が着席すると、緑髪の魔王は怯えたのか、赤髪の魔王の腕をギュッと掴んでいる。




「まずは、自己紹介をしておく。私は、帰還者迷宮と企業迷宮を管理する迷宮総監という役職に、昨年の秋に就任した野口だ」


(迷宮総監?)


 彼はそこまで話すと、僕達の反応をサーッと見たようだ。そして、フッと自嘲気味な笑みを浮かべた。


「私のことは、新人には知られていないようだな。まぁ、迷宮特区にはあまり居ないから当然か。私が知らない間に、いろいろと予定外のことが起こったようだ。すべては、2月2日の帰還者による影響か」


(2月2日の帰還者?)


 日にちは気にしてなかったが、僕達が帰還したのは2月だ。井上さんもカナさんも、去年の秋よりずっと前に、帰還しているはずだもんな。



「総監がなぜ、監視塔に来られたのですか。俺のせいですかね?」


 井上さんが、少し強い口調でそう尋ねた。


「まぁ、井上を捕まえたという連絡が入った後に、ここに来ることにしたから、そうだとも言える。キミ達と話せるチャンスだと思ったから、あらゆる仕事をキャンセルして、ここに来た」


 僕達に会いに来たと聞こえた。横にズラッと並んでいるから、他の人達の表情はわからないが、井上さんの表情は険しい。


「彼らに、何をさせるつもりですか!」


「井上は、少し黙っていてくれ。私は、2月2日の帰還者と話したいのだ。原始の星からの帰還者は、どちらだ?」


(原始の星?)



 すると、赤髪の魔王が口を開く。


「総監、見ればわかるだろ。そっちの男は、明らかに勇者だ。こっちの若い方が、カルマ洞窟がある異世界から帰還した魔王だよ。俺らでは全く敵わなかった。魔剣士だと言ってたから、正確には魔剣使いだね」


 総監は、僕の顔を真っ直ぐに見つめた。何かの術を使ってサーチでもしているようだが、武装レベルを最大にしている僕には、効かないだろう。



「キミはなぜ、比叡山迷宮に来たんだ?」


(ミッションで、とは言えないか)


 彼が僕に会うために来たなら、ごまかしは通用しない。それに、僕にも聞きたいことがある。


「総監さん、僕は、高熱化の原因を調べています。青虫カリーフが大量に発生する場所に、手掛かりがあると考えました」


「高熱化は自然現象だ。改善する方法はないよ」


(あっ、笑った)


 僕をバカにしたようにも見えるが、おそらく、そう見えるように装ったんだ。何かを隠している。ここはストレートにいく方が良さそうだ。



「総監さん、貴方はどこまで知っているのですか」


「どこまで、とは?」


 彼の表情が、険しくなった。


「青虫カリーフの発生が厄災の予兆であることは、ご存知でしょう。青虫カリーフが魔物化した迷宮から生まれることも、もはや周知の事実です。迷宮が魔物化する原因もご存知ですか? この高熱化は、人為的に引き起こされているのではありませんか!」


(当たりか)


 僕は、言葉に威圧を込めて話した。相手の反応を知るためだ。どうやら僕の話は、彼を大きく動揺させたようだ。



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