表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/409

135、比叡山の十二大魔王

 ブーブー! ブブー!


 低く不快な警報音が、壁から鳴り響く。


 突然現れた男性が、鉄格子を溶かしたからだろう。オレンジ色に変色した部分が上下左右に広がっていく。


(金属だけか)


 彼が足をかけた、1メートルくらいのコンクリートの壁は、少し変色しているが溶けてはいない。彼は、金属だけを溶かすようだな。


 得意げな表情を見せるオレンジ色の髪の20代後半に見える男性。彼は、魔物化した迷宮からの力を得た、魔王なのだろう。




 僕達の背後には、警報音を聞いた、監視塔の警備兵らしき人達が集まってきた。


「一体、何事だ!? おまえ達は何をした?」


 コンクリートの壁に足をかけている男性をチラッと見た後、警備兵らしき人達は、僕達に詰め寄る。


「別に何もしてへんで。鳥カゴを壊したんは、アイツや」


 ユウジさんが指差した場所には、もう、オレンジ色の髪の男性は居なかった。


(速いな)


「あれ? 逃げよったんか?」


 ユウジさんは、わかっていて、すっとぼけているらしい。オレンジ色の髪の男性は、屋上から下への階段近くに移動している。


「クッ! 人が居ない時を狙って……」


 警備兵らしき人達は、オレンジ色の髪の男性に剣を向けたが、かなりビビっているみたいだな。



「西部エリアの迷宮の主人は、結界を越えることを禁じられているぞ!」


「はぁ? そっちからケンカを売ってきただろう。不快な魔力を降らせやがって」


(あーあ)


 警備兵らしき人達は、僕達に、殺意に似た強い敵意を向けた。


「何を言うとんねん。景色を楽しみたいのに日が暮れてきたから、照明弾を打っただけやで? 結界があったせいで、なんか変な爆発を起こしてしもたわ」


 ユウジさんは、まるで息をするように嘘を吐く。異世界人の能力は個人差が大きいから、嘘だとは気づかれないようだ。照明弾が広域サーチ魔法に変わるわけがない。



「結界を越える術を使う新人冒険者か。やはり、井上さんが一緒なのは、こういうことか。魔王を引き入れたな? 監視塔を襲撃する気だったのだな!」


「何を言っている? 魔王とは誰のことですか」


 井上さんは即座に反論したが、警備兵らしき人達は聞いてない。もしかすると、西部エリアと交戦状態なのか?



「かわいそうになぁ。新人冒険者か。この場所が監獄だということも知らないらしい。水場を作ったのも、おまえ達だな。どうせ、殺されるぜ? 俺達につくなら、助けてやってもいいが」


 オレンジ色の髪の男性がそう言った直後、気配を消していた人も、屋上に入ってきた。黄緑色の髪の20歳前後に見える女性だ。



「あっ! クッ……また呼びやがった」


 彼女は元々、壁の裏にいた人だろう。警備兵らしき人達に一気に緊張感が走る。


 コンクリートの壁から、新たな鉄格子が生えるように伸びていく。彼女は、穴が塞がる直前に入って来たらしい。


(鉄格子は自動修復するのか)



「私達は、塔で話を聞くと言われて連れて来られただけよ? 夜7時から、誰かが来るみたいね。殺されるつもりはないわ」


 ユキナさんは冷たく言い放ったが、ユウジさんは鋭い視線を向けているだけだ。二人目が来たことで、余裕がなくなったみたいだな。


(そうか、勇者だからか……)


 魔王二人が現れたことで、彼の中にある使命感から、自分が守らなければと気負っているのか。



「新人冒険者は、知らないらしいな。この場所から生きて出られることは、まず無いぜ。監視塔は、西部を監視しているわけではない。監視塔に近寄る人間を監視しているからな」


 オレンジ色の髪の男性は、勝ち誇ったようにペラペラと説明する。警備兵らしき人達も知らないことか。嘘かもしれないと一瞬考えたが、嘘をつく意味がない。


 そして、警備兵らしき人達も知らない重要な情報を明かす理由は、一つしかない。自分達に味方しなければ全員を殺すつもりだろう。


(敵か? それとも味方か?)


 どちらにしても、この二人が比叡山迷宮の魔王なら……チカラを示さないとな。



「さて、新人冒険者は、どうする? この結界をくぐり抜ける力があるようだから、意思を尊重してやる。俺達につくか、俺達に殺されるか、選んでいいぜ? 塔の下僕や、チカラのないゴミは始末するけどな」


 オレンジ色の髪の男性は、僕達の方に剣を向けた。その隙に、逃げようとした警備兵らしき人達は、黄緑色の髪の女性が放った術によって拘束され、床に転がった。


(植物を操るのか)



「おまえ、調子に乗っとるけどな……」


 ユウジさんが剣を抜こうとしたのを、僕が止めた。彼には無理だろう。すべての人を守って戦おうとするだろうからな。


「ユウジさんは下がってください。相性が悪いですよ」


「はぁ? そんなもん、やってみなわからんやろ」


「僕には、大勢を守るチカラはありません。適材適所ですよ」


 僕がそう言うと、ユウジさんはハッと我に返ったようだ。頭に血がのぼってたんだな。


「ケントさんが動きやすいように立ち回りましょう。私達は、邪魔だわ」


 ユキナさんはそう言うと、井上さんとカナさんを呼び寄せ、バリアを張ったようだ。


「しゃーないな」


 ユウジさんは離れたが、いつでも助太刀ができる距離にいる。給水プール付近の床に、魔法陣が現れた。


「死にたくない奴は、魔法陣の中に入っとけ」


 屋上にいた人達は、必死に魔法陣へと移動していく。光の中は絶対防御なのかな。




「アイツは、勇者か。ふぅん、殺すのは惜しいな」


 オレンジ色の髪の男性は、かなり余裕があるようだ。僕達の戦闘力がわかっているのか。


「アナタ達は、魔王なんですか?」


 僕は、ゆっくりと剣を抜き、構える。久しぶりにゾワリとする感覚だ。右手にはカルマの厄災でも使っていたお気に入りの長剣、左手には特殊変化へんげ自在の魔冥剣という名の魔剣を持った。



「あぁ、何も知らないまま死ぬのも気の毒だ。俺は、比叡山十二大魔王のひとり、赤髪の魔王だ。そっちの女は、緑髪の魔王だぜ」


(えっ? 十二大魔王?)


 僕は、深夜にラランから聞いた話を思い出した。あの異世界には、原始の魔王は、もともと12人いたんだよな?


「比叡山迷宮には、魔王が12人いるんですか」


「は? 30人以上いるぜ。その中でチカラのある魔王だけが、色の魔王を名乗れるんだ」


「赤髪の魔王って、赤い髪の魔王という意味ではなく?」


「色の魔王だ! その中でも、俺は最強3大魔王のひとりだ! あらゆる炎を扱う能力があるからな」


(ラランの偽物みたいだな……)



「そんな能力を明かしていいのですか? 火属性の魔王だと、自分から話して。もしかして高熱化は、アナタのせいですか!?」


 僕がそう尋ねると、彼は口を閉じた。そして、剣にオレンジ色の炎を纏わせた。


「俺を止められるのは、青髪の魔王と、灰王神しかいないんだよ! おしゃべりはここまでだ!」


(灰王神って何だ?)


 赤髪の魔王は、僕に向かってブォンと剣を振った。僕の視界は、オレンジ色に染まった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ