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133、監視塔の屋上待合室

「不法占拠って何? 私達はミッションを受けて、そこの薬草を採りに来ただけよ」


 ユキナさんは、即座に反論した。


「ここは、監視塔の敷地だ! テントを張って、何をしている!? ずっと見ていたんだぞ。薬草を摘んだ後も、動く気配がないのは、他に目的があるのだろう?」


「アナタ達は、何を言ってるの? 暑さのせいで、二人が体調を崩したのよ。もう少し休んだら、迷宮特区へ帰るわ。ギャンギャン怒鳴らないでちょうだい!」


 ユキナさんは、怖いもの知らずの新人冒険者として振る舞っている。だが、井上さんとカナさんは、少し慌てたようだ。



 カナさんが小窓に寄っていく。


「私は迷宮特区事務局の本条です。ここが監視塔の敷地だとは知らなかったんです。途中で無理した人達がバテてしまって、今、寝てるんですよ」


「迷宮特区事務局だと? あぁ、休日は冒険者をしているのか。冒険者パーティに所属しているのか?」


「はい、『青き輝き』という新しいパーティの設立メンバーです。初ミッションだから、比叡山迷宮に……」


「ふぅん、一気にパーティランクを上げようという魂胆か。新人がやりがちなことだ。それで無理しすぎた二人が寝てるのだな」


 カナさんが説得してしまいそうになったためか、ユキナさんが、口を開く。



「新人だからって何なの? テントの中を覗いていたの? そんな権利がアナタ達にあるというわけ?」


「ちょ、川上さん……」


 カナさんは、ユキナさんを黙らせようと合図をしている。ユキナさんがわざと、彼らに絡んでいることに気づいてないらしい。



「あれ? 井上さんもいるじゃないか。アンタがいるってことは、ただの新人パーティじゃねぇよな? やはり全員、テントから出ろ! 顔を隠している二人も、有名な冒険者なんだろ」


「いや、俺は、前のパーティから追放されたから、何の力もないですよ。寝てる二人も冒険者レベルは低いし……」


「話は、監視塔で聞く。寝ている奴らを起こせ! 抵抗するならテントを切り裂くぞ」


「わかりましたから、そんな乱暴なことはやめてください。はぁ、もう……」


 井上さんは、小さな声でユキナさんに、申し訳ないと謝っていた。こちらの方が申し訳ないよな。監視塔のてっぺんに行くために、ユキナさんはわざと、こんな芝居をしているんだから。




 ◇◇◇



 僕達がテントから出ると、テントは没収されてしまった。おそらく、監視塔の情報を得るための仕掛けがないかを調べるのだろう。


 見慣れない制服を着た数人によって、僕達は、監視塔の中へと連れて行かれた。


 入り口を入ってすぐの所に、エレベーターがあった。


 僕達は、そのエレベーターに乗せられて、上へとあがっていく。荷物用なのか、50人くらいは乗れそうな大きなエレベーターだ。一番上の階のボタンが押されたから、ユウジさん達の狙い通り、監視塔のてっぺんに登っていくようだな。



 チン!



 扉が開くと、目の前には大きなガラスの扉と、その先に鉄格子のようなものが見えた。鎧を身につけた警備兵らしき人達が3人、エレベーター前を守っている。


「監視塔の敷地にいた不法占拠の冒険者だ。新人パーティらしいが、メンバーには井上さんがいる。気を抜いて逃げられるなよ」


 僕達を残し、ここに連れてきた彼らは、エレベーターで下へ降りて行った。



「とりあえず、屋上待合室へお入りください」


(待合室?)


 ガラスの扉が開かれた。


「ちょっと! ここが待合室って、どういうこと?」


 中を覗いたカナさんは、鎧を身につけた人達に文句を言った。確かに待合室という雰囲気ではない。


 ピューッと強い風が吹き抜け、ガラス扉を持つ人が表情を歪ませた。風で扉が外れそうだな。


「風が強いから、早く入ってください」


 そう言われて、僕達は屋上待合室へと足を踏み入れた。全員が入ると、彼らはガラスの扉を閉め、ガチャリと鍵をかけたようだ。



「まるで、デカい鳥カゴみたいやな。夕方でも、こんな熱風が吹いとるんやから、昼間の待合室は、人間の干物ができ上がるで」


 ユウジさんは、ふざけたような調子で話しているが、その目つきは鋭い。素早く付近の状況把握をしているようだ。



 監視塔を外から見たとき、一番上には、鳥カゴのような飾りがあると思っていた。僕達は、今、その中にいる状態だ。


 屋上の床は、硬い石で出来ている。周囲には、1メートルくらいの高さのコンクリートの壁がある。その壁からは、空へ鉄格子が伸びていて、天井は無い。いや、天井も鉄格子か。



 屋上の真ん中には、透明なカプセルに覆われた円形の部屋のような物が見えた。その扉から、制服を着た人が屋上に出てきた。


「夜7時から、順に呼び出しがあります。それまでは、自由にお過ごしください」


「ちょっと待ってよ。こんな場所で、どうしろというの? まるで牢屋じゃない!」


 カナさんが近寄っていくと、制服を着た人は、円形の部屋に逃げ戻ってしまった。


(階段か)


 円形の部屋は、下への階段の入り口になっているようだ。こんな屋上で待たせておくなんて、まともじゃない。



 屋上にいるのは、僕達だけではない。日陰を求めて、一ヶ所の壁際に、大勢の人が座り込んでいるのが見えた。コンクリートの壁沿いには、他にもパラパラと人が寝転んでいる。



「俺がいたせいで、申し訳ない。だが、おかしい。テントの場所は、監視塔の塀の外だったのに、なぜ……」


 井上さんは、僕達に深々と頭を下げた。


(いや、違うんだよな)


 僕が口を開こうとしたのを、ユウジさんが制した。


「別にええやんけ。こんな景色は普通は見られへんで。好きに過ごしてええんやろ? 誰かお子さまプールみたいなもん、持ってへんか?」


(いきなり、何?)


「給水ね? 私が持っているわ。もう手遅れな人も少なくなさそうだけど」


 カナさんが、ビニールプールのような物を出した。すると、ユウジさんが氷魔法を、そしてユキナさんが水魔法を使う。


(あっ、飲み水か)



「おーい! たそがれとる奴ら、給水プール作ったで」


 ユウジさんが大声で叫ぶと、日陰に集まっていた人達が、ヨロヨロとこちらへ歩いてくる。


 安全性を示すためか、ユウジさんが自ら飲んでみせると、たどり着いた人達は目を輝かせて、給水プールの水を飲み始めた。



「ありがとう、命の恩人だ」


「困ったときはお互い様やからな。しかし、こんな所が待合室やなんて、ふざけとるよな」


「監視塔に近寄らせないために、こうやって半殺しにするんだよ。いや、大半は、解放される前に死ぬかもな。俺なんて、監視塔にある宿を予約してあるんだぜ? それなのに、入り口を間違えただけで、これだ」


 ユウジさんは、話を聞き出すのが上手いな。


「俺らも、わけわからんうちに、塔で話を聞くって言われたで。まぁ、せっかくやから、景色を眺めてくるわ。ケント、沈む夕日を見に行こうぜ」


 ユウジさんは、さっき大勢の人達が壁沿いに集まっていた方を指差した。陽が沈むのは、西側だよな。


 僕が動くより先に、ユキナさんが移動し始めた。


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