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132/409

132、監視塔近くの群生地にて

「ユキナ、そっちにテントを出してくれ。俺らは、ちょっと寝るわ。もう限界やで」


「わかったわ。アナタ達は、無理しすぎよ」


 ユウジさんとユキナさんは、目配せをして、謎の会話をしている。確かに僕は疲れを感じているが、限界というほどではない。ユウジさんの表情も、いつもと変わらない。


 ユキナさんは、薬草の群生地を避けて、テントを出してくれた。さっき使っていたのとは違って、四角いテントだ。しかも、上部分は透明になっている。


 すぐ近くには、監視塔があるから、塔の上からテント内がまる見えだよな。


「ケント、俺らは休憩や」


 僕の返事を待たずに、ユウジさんは僕をテントに引っ張っていく。何か、意図がありそうだな。



 ◇◇◇



 テントの出入り口を閉めると、ユウジさんは本当に簡易ベッドに寝転んだ。ユキナさん達が入って来ることを想定して、結界などは使っていない。


「ケントも、とりあえず、しんどそうにして寝転んでくれ。話はそれからや」


「わかりました」


 僕は、ユウジさんの横の簡易ベッドに寝転んだ。


「迎えに来てもらうまで、寝たフリやで」


 ユウジさんは、顔にタオルをかけて、僕に話しかけてきた。眩しいからだろうな。僕も寝転ぶと、少し眩しいと感じた。


 この場所は、監視塔があるためか、木々がない。空は厚い雲に覆われているが、天井が透明なテントの中にいると、眠るには眩しすぎる。


 僕も、タオルを顔にかけた。


 タオルの隙間から、ユウジさんが僕の様子を見ていた。なんだか、小学生のような行動だ。



「ユウジさん、さっき、ユキナさんと何を目配せしていたんですか? このテントって、監視塔から、中がまる見えじゃないですか」


「だから、寝たフリしとくんや。監視塔から迎えが来るはずやで」


 彼は、タオルの隙間から、こちらを見てニヤッと笑った。あぁ、タオルがあるから、監視塔の上から見ると起きていることに気づかないか。


(何をやってんだ?)



「このテントは、空を見るには良いですが、こんな場所には適切ではないですよね?」


「冒険者ギルドで販売しとる推奨品らしいで。ユキナ達の薬草採取が終わっても、俺らがここに居座っとったら、監視塔から、誰か来るはずや」


「監視塔に登るなら、普通に行けば良いんじゃないですか? あー、何か許可証が必要なのか」


「ふふん、まぁ、そういうことや。こっちから行っても、てっぺんには登られへんらしいで。だから、迎えを待つんや」


「迎え、ですか?」


 この場所にテントがあると、監視塔にいる人達は、嫌なんだろうな。夜になると、今とは逆で、灯りのある監視塔の中が見えるかもしれない。


 迎えというより、追い払われるだけだろうけど、まぁ、彼らに任せるか。




「そんなことより、ケント。さっきの猿軍団のことやけどな、アイツらは敵やと思うか?」


「僕は、彼らは橋の監視をしていると思いました。あの矢田さんが帰還者かどうかは、怪しいですね」


「やっぱり、そうやんな。ユキナが嫌がる相手は、だいたい敵やと思うわ。本条は、あの話を信じとったみたいやけどな」


(知り合いだから、だよな)


「ユキナさんは、何か、そういう能力があるんですか?」


「おまえ、敵味方の識別の棒をもらったやろ? ユキナの能力や。俺よりもユキナの方が、深層心理まで暴くみたいやで」


 そういえば、不思議な金属の棒をもらったよな。さっきは、あれに触れなかった。すっかり忘れていたな。



「そうなんですね。僕には、どちらが敵なのか、わからなくなっています。迷宮を増やそうとする勢力と、迷宮を潰そうとする勢力は、その行動だけで簡単に善悪を判断できない」


「あぁ、幼女魔王から聞いたわ。ダンジョンは冥界のおりやと言うとった。幼女魔王は異世界人やから、ケントのダンジョンから外へは出られへんってな。ダンジョンを潰しとる奴らは、檻から解放するのが目的かもしれん。あれ? 冥界の檻って何や?」


(えっ? ラランが?)


 そういえば、金色の雨を降らせる前に、ラランは二人にエネルギーを渡していた。そのときに、こっそりと情報も渡したのか。


「帰還者迷宮は、ポラリス星の、異世界人を捕えるための技術が使われています。善意での技術提供とは思えない。ただ、僕にも、まだわからない部分が多くて、上手く説明できません」


「そうかぁ。俺らは、檻を作らされとるってことか。高熱化から守る避難所でもあるわけやけどな。ふぅん、何となく見えてきたな。あの写真のヤバそうな奴が何者かによって、敵か味方かが、がらりと変わるやろな」


 ユウジさんは、勘がいいな。この高熱化を、彼自身も何とかしようと、いろいろ調べているのだろう。


 ラランから聞いた話を、どこまで話すべきかはわからない。ただ、原始の魔王の話は、しない方がいいよな。




「あら、本当に寝てるのね。大丈夫?」


 ユキナさん達が、テントの中に入ってきた。


「ユキナ、俺ら、マジで寝るわ。今夜はここで寝て、夜明け前に出発しようぜ」


 二人は、井上さんとカナさんに聞かせるための、芝居をしている。僕は、上手く合わせられる気がしないから、寝たフリをしておこう。



「仕方ないわね。こんなにもモンスターが溢れていると思わなかったわ。だけど、キミ達の邪魔になりそうだから、手伝えなかったのよ」


 カナさんは、言い訳をしているが、たぶん悪いなと思っているのだと思う。顔は見えないが、申し訳なさそうな声だ。


「矢田さんが勧めてくれた道は、戦闘狂の彼らのために、わざと魔物化した迷宮が多いルートだったみたいだね」


 井上さんは、カナさんを傷つけないように、言葉を選んでいるようだ。


「えっ? そうなの?」


 カナさんが息を飲んだ音が聞こえた。


「あぁ、俺達は、モンスターが待ち受ける渦中に飛び込んで行ったんだよ。他の冒険者は、別の道を歩いていたからね」


「どうして、そんな……」


 僕とユウジさんだけで、モンスターを蹴散らしていたのは、井上さんとカナさんに、魔道具を使って状況を把握する余裕を与えるためでもあった。


 井上さんは、途中から表情が変わっていたから、ここに着く前には、矢田さんのオススメがおかしいことに気づいていたようだ。


 タオルの隙間からそっと覗くと、カナさんが暗い表情をしているのが見えた。


(彼女も気づいたみたいだな)



「とりあえず、気温が下がるまで、少し休みましょう。監視塔が近いから、食事は日が暮れてからにするわよ。上から見えてしまうからね」


「あら? 冒険者ギルドが推奨するテント?」


「ええ、私が作ったテントは、監視塔に没収されたくないもの」


 三人は、テーブル席に座ったようだ。採取した薬草の袋詰め作業を始めたみたいだな。青臭いニオイが漂ってきた。



 ◇◇◇



 夕方になると、突然、テントが大きく揺れた。防音バリアが備わっているらしく、音は聞こえない。


 ユウジさんが、寝たフリを続けろと合図してきた。


 僕が頷いたのを確認して、ユキナさんが、テントの小窓を開けた。



「おまえ達! ここは監視塔の敷地だ。不法占拠だぞ! 全員、外に出ろ!」


 何だか、荒っぽいお迎えが来たようだ。



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