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130/409

130、敵はどっちだ?

 木の橋の先には、大きな猿のようなモンスターが待ち構えていた。


「ケント、どないする? 俺が狩ってもええけど、何か様子が変やで」


 前を歩いていたユウジさんは、モンスターから少し距離をとった場所で、立ち止まった。一番後ろを歩いていた僕が、橋を渡り終えるのを待っているようだ。


(確かに、何か変だな)


 仲間を氷漬けにしたから、ボスが怒って襲ってくるかと身構えていたが、大きなモンスターは武器は持っていない。その後ろにいる奴らは、弓を構えているが。



「僕に用があるみたいですね」


「せやな。俺らが橋を渡り終えるのを、ジッと待っとるからな。サーチしたけど、あのデカいモンスターは、何か変やで」


 橋を渡り終えた僕達は、ユウジさんのいる足場のよい場所に向かった。


 足場が良いとは言っても、さっきの僕の術のせいで、対岸のこちらにも、ヒョウのような氷の塊が落ちている。しかも、水分の多い土が凍っているのか、踏むとシャリシャリと音がする。


 橋の下の泥川が凍ったと、カナさんが言っていたから、渓谷を吹き抜ける風の影響だろう。


 氷雪世界アイスダストと名付けた剣技を、狭い範囲に使ったつもりだったが、強い風によって広がってしまったらしい。



 この術は、蟲の魔王アントさんから教えてもらったものだ。彼がこの術を使うと、見渡す限りどこまでも、氷と雪だけの世界に変わる。アントさんがオレンジ色の溶岩が噴き出す火山を一瞬で凍らせたときは、転移者はみんな驚いたよな。


 あの件があったから、アントさんには氷のイメージがついたんだっけ。クールで無口で、氷のように冷たい魔王だと、僕と一緒に転移した人達が言っていた。


(アントさんは優しいんだけどな)




「あの……貴方は、氷の魔王でしょうか」


(はい?)


 大きな猿のようなモンスターは、普通に言葉を話す。


「いや、僕は魔剣士だよ。キミの仲間を氷に閉じ込めたが、殺したわけじゃない。気温が高いから、すぐに氷は溶けるから心配しなくていい」


 僕がそう答えると、大きな猿のようなモンスターが、ゆっくりと近寄ってくる。


 ユウジさんが、立ち位置を変えた。何かあったときに、すぐに対応できる位置だ。



「自分は、帰還者です。矢田 俊介といいます。貴方達を襲ったのは、水場を守るためです。アイツらは、自分の迷宮のモンスターだったモノ達です」


(帰還者?)


 人間よりも、かなり背丈は高い。どう見ても猿系のモンスターだが……。



 すると、カナさんが口を開く。


「矢田さん、生きていたのね! 私は、本条 佳奈よ。覚えているかしら」


「えっ? カナちゃん? 貴女は、老婆になる呪いを受けてどこかに収容されたと聞いたが……そういえば、その姿はカナちゃんだな」


(知り合いか)


「昨日、呪いを解除できたのよ。矢田さんは、魔物化した迷宮の魔王に攻め込まれて死んだと聞いたわ」


(解除ではないが……その指摘はやめておこう)


「あぁ、大量のモンスターを率いた魔王に攻め込まれて、プロテクターごとダンジョンコアを壊された。迷宮は崩壊する前に、その魔王が乗っ取ったよ。自分は、階層ボスと結合させられて、迷宮から放り出されたんだ」


「迷宮の主人を、階層ボスに喰わせたのね!」


「さぁ? よくわからない。迷宮から排出されたときには、意識を失っていたからな。自分の迷宮のモンスター達が、自分を守ってくれて、ここまで生き延びた」


(壮絶だな……)


 ここまでの話を聞いたカナさんは、言葉を失っているようだ。どう声をかければいいか、わからないよな。



 井上さんが口を開く。


「俺は、以前、開発チームにいた井上です。中央部で大勢の帰還者が殺されたという情報は、2年ちょっと前の迷宮特区が完成する頃に聞きました。迷宮特区への移転を打診された、アンドロイド未使用の迷宮の主人ばかりが狙われましたが」


 開発チームと聞いた瞬間、大きな猿のモンスターは、怪訝な表情を浮かべた。井上さんのことは直接は知らないみたいだな。


「自分の迷宮は、アンドロイドは使っていませんでした。移転の話は聞いていませんが、アンドロイド使用の打診はありました。でも、迷宮を奪われたのは、2年前ではない。去年の夏です」


「そうですか。中央部にいて、去年の夏まで無事だったというのは、非常に稀なことです。階層が多かったんですね」


「自分の迷宮は、10階層までしか成長しなかったですよ。アンドロイドを使用すれば、もっと安定して、安全な迷宮になるという話があったんですけどね。その担当者が来る予定の日に、魔王に攻め込まれましたよ」


(えっ? そんな偶然?)


 井上さんは、カナさんに目配せをした。カナさんは、僕達の顔をサーッと見た後、口を開く。



「矢田さん、その話は、迷宮特区管理局から聞いたのかしら?」


「あぁ、そうだったと思う。迷宮特区にいるからすぐには行けないので、3日後に訪問すると言っていた。担当者の名前は覚えてないが、威圧的な中年男性の声だったよ」


(管理局に……)


 やはり、迷宮特区管理局には、相反あいはんする二つの勢力があるようだ。高熱化から守るために迷宮を作ることを推進する勢力と、迷宮を潰そうとする勢力。


 カナさんが所属する迷宮特区事務局は、ほぼすべてが前者だろう。迷宮を作り、そこに多くの避難者を収容できるようにしようと頑張っている。


 実際のところ、台風被害から逃れるには、帰還者迷宮に逃げ込むしか助かる手段はない。


 だが、帰還者迷宮は、ポラリス星の技術を使ったおりだ。行方不明の原始の魔王が、檻に原住民を保管して地上を無にしてしまいたいなら……。


(敵はどっちだ?)



 深夜にラランの話を聞いてから、僕は、様々な見方が変わった。


 迷宮を潰して回る勢力の意図を確かめる必要がある。じゃないと判断ができない。


 石塚先生は、迷宮の主人を殺して迷宮を奪うことを救済だと言っていた。あの時は、ありえないと思っていたが、どうなんだろう?


 迷宮の主人の地位を失うと、彼が言っていたように自由になれる。不死を約束する迷宮では、数時間後に復活できる。その後は、迷宮に縛られない自由の身になる。



 迷宮を奪う方法は、特殊なケースもあるらしく、僕はイマイチわかっていない。


 僕の認識としては、ダンジョンコアを壊し、主人を殺すと、そのコピーを持つアンドロイドを支配した者が、新たな主人になるようだ。


 迷宮の主人の死と、ダンジョンコアの破壊。この二つが揃うと、迷宮を奪われる。


 迷宮の襲撃者がダンジョンコアの破壊を狙うのは、迷宮の主人は、自分の迷宮では戦闘能力が高いためだ。石塚先生のように自信のある人は、迷宮の主人から狙うようだけど。




「で、ケント、どうするんや?」


 ユウジさんは、いつの間にか、僕の隣に立っていた。僕は考え事をしていて、途中から話を聞いていない。


「あ、すみません。何でしたっけ?」


「やっぱり聞いてへんかったんか。猿軍団が、水場のお礼に、監視塔まで護衛するって言うとるで」



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