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122、アンドロイドの可能性

「もう片付けたんかいな」


「はい、この付近のザコは一掃しましたが……」


 ユキナさん達の近くへ移動すると、ユウジさんがニッと笑った。彼は知らない術を見ると、少年のようなキラキラした笑顔を見せる。


「ユキナが監視中のボスは、そっちの茂みにおるで。草が凍ってると、ボスも近寄って来ーへんな」


 ユウジさんが指差した方向を見てみたが、僕には巨大なサソリの姿は見えない。



「生体反応でサーチしていますが、俺には見つけられないです。通常のサーチを弾いても、生体反応でサーチすれば、この距離なら把握できるはずなのにな」


(やはり、そういうことだよな?)


 井上さんは首を傾げ、少し暗い表情をしていた。ユキナさんやユウジさんの能力と、自分を比べているのか。


「僕にも、全く察知できません。ただ……」


 僕がわからないと言うと、井上さんは少しホッとしたように見えた。気のせいかもしれないが。



「ん? 何や? ケント」


 僕が話すべきかを迷って、話を途中で止めたことにユウジさんが気づいてくれた。


「はい、僕の勘が正しければ、生体反応を察知できないそのボスは、ダンジョンコアを守るアンドロイドではないかと……」


「は? 何でアンドロイドが、魔物を毒殺するんや? そもそも、ダンジョンから出られへんやろ」


(確かに……いや? そうなのか?)


 僕は、カナさんに視線を移す。迷宮案内者である彼女は、アンドロイドに関して、一番よく知っているはずだ。



「あぁ、中央部に近いから、アンドロイドが魔物化している可能性はあるわ。この付近の迷宮は、ダンジョンコアを守るアンドロイドの試作実験もしていたからね」


(やはり!)


「アンドロイドが、魔物や人間を襲うんか?」


「まぁ、試作品だからね。アンドロイドは、主人への絶対服従が徹底されているけど、主人を害する人間を殺そうとする個体もあるわ」


「俺のとこは、気まぐれやで」


「キミ達は、帰還者の中でも少し異質だから、アンドロイドの成長は、私には予測できないわ。しかし、変ね。アンドロイドなら、エネルギーがあるうちは迷宮は崩壊しないし、迷宮が崩壊しないならアンドロイドは外には出られないはずだけど」


 カナさんにも、見えているのだろうか。巨大なサソリがいるという茂みの方に、視線を向けている。


(あれ?)


 僕は自分の勘の、致命的な欠陥に気づいた。ウチのアンドロイドの原型となった個体なのに、なぜ水魔法を嫌がるんだ?


 白色の猫は身体が汚れると、1階層の小川に飛び込んで水浴びをしていたよな? あんなに冷たい小川の水も平気だし、6階層の雪も大丈夫だろう。



「カナちゃん、アンドロイドなら、水を嫌がるわけないですよね? やはり、ただのモンスターかも」


「ん? そうね。試作品でも、確かに防水機能は万全よ。ただ、ボールのプロテクターの種類によるかも」


「ボールのプロテクターの帰還者迷宮は、迷宮特区に集められているんですよね? 金属塊みたいな人工コアには、アンドロイドは使わないんですか?」


 そう尋ねると、カナさんは嫌そうな顔をした。すると、井上さんが口を開く。



「人工コアにもアンドロイドを使っている迷宮はあるよ。ただ、ボールのプロテクターじゃないと、アンドロイドは変形しないんだ。カナちゃん、ちゃんと説明しないと」


(あー、そういうことか)


 そういえば、ウチのアンドロイドが銀色の猫の置物みたいな姿だった頃、ボールのプロテクターがどうのと言っていた気がする。


「話してなかったかしら? 強制オープンとかがあって、よく覚えてないわ。キミのボールのプロテクターは、特に柔らかいから、アンドロイドの変形が起こりやすいのよ」


(なるほど。だからって、赤ん坊?)



「でも、アンドロイドが毒を使うのかしら? 分身は作れるし知能も高いけど、攻撃能力は無いわよ」


 ユキナさんのアンドロイドは、たくさんの分身を作っているんだったな。だが、ウチのアンドロイドは、火魔法を使って綿菓子を焦がしていた。毒を使うアンドロイドがいても、おかしくはない。


「確かに、アンドロイドは防御特化だからね。井上 夏生は、どう思う? 迷宮特区では一番古いでしょ? 琵琶湖の水が完全に枯れる前から居るんだから」


「ふふっ、カナちゃんよりも古いと言いたいのかな。俺の知る限り、念話を利用して混乱させたり、迷宮のモンスターを操って冒険者を殺そうとするアンドロイドはたまに聞くけど、毒を使うアンドロイドは聞いたことがないな」


「やはり、そうよね。じゃあ、ただの階層ボスね」


(いや……)


 なんだか、胸がザワザワする。何だろう? 何か……助けを求めるような……。



「俺、ケントの勘に1票や」


 突然、ユウジさんが、僕に賛成すると言ってくれた。


「山田さん、その根拠は?」


「さっき、ケントがザコを爆破したやろ? せやけど、何も臭いがせんかった。それに生体反応が無いんやろ?」


(あっ! そうだ!)


「ザコは、血も体液も無かったんですよ。なんだか、破壊された機械に見えたような気も……」


「キミ! それを先に言いなさいよ。ただ、ここには金属系のモンスターも存在するわよ?」


「あー、なるほど」


「金属系の魔物なら、生体反応はあるはずやで?」


 サーチ系の話は、僕にはイマイチわからないな。



「もし、アンドロイドなら、捕獲して回収する必要があるわ。魔物化したアンドロイドは、サンプルが少ないのよ」


(サンプルか)


 僕は、アンドロイドなら話せばわかると思っていた。だが、カナさんから見れば、アンドロイドは道具なんだよな。まぁ、当たり前のことだが……。




「ほな、俺らで行くか? とりあえず捕獲やな。ユキナは適当に、おりを作ってくれ」


「もう作ってあるわ。アナタ達ごと捕獲するわよ」


「それでええけど、サソリを通さへんやつやで?」


「勇者も通さないわよ」


(あれ? 何か怒ってる?)


 ユキナさんは、とても不機嫌に見えた。あぁ、そうか。彼女がリーダーなのに、僕達が仕切ってるからか。



 僕達が茂みに近寄って行くと、突然、地面から柵が現れた。空を見上げた瞬間、もう付近は木々よりも高い柵で覆われている。地面の下にも柵がある。四角い檻の中だ。


(すごい能力だな)


 柵には、何かの術が重ねがけされていた。確かに、これは、逃げ出すのは難しい。



『あっ!』


(ん? 声が聞こえた)


 ユウジさんと顔を見合わせる。彼にも聞こえたらしい。


「おーい、隠れてんと出てこいや。おまえは、アンドロイドなんか?」


 ユウジさんがそう声をかけると、茂みが揺れた。


(でかっ!)


 僕の目に映ったのは、木々ほどの高さのある巨大すぎる銀色の何かだった。


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