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118/409

118、比叡山迷宮の東部を歩く

 検問所を無事通過した僕達は、さらに地下道を進み、地上への階段を上り始めた。


 一段ごとに、気温が上がっていくように感じる。


 階段の端には、休憩している人や仮眠をとっている人もいる。一応ここは安全らしい。


 一番上まで上がると、左右と天井が鉄格子のような物で造られた空間があった。灯りはない。少しカビ臭いような土の匂いがする。正面には、頑丈そうな巨大な門があった。門は、地下道の出入り口を守っているみたいだな。



「真っ暗やな。何も見えへんで」


 ユウジさんは、たぶん見えているはずだけど、キョロキョロしている。見えないと言っておく方が、観察しやすいのだろう。鉄格子の先に鋭い視線を向けている。


「比叡山に入る人は、こちらです」


 門の右端に、点滅する光が見えた。ユウジさんの声が聞こえたらしい。門番が常駐しているのか。


 僕達は、巨大な門の右側の、小さな門へと移動した。




「冒険者さんですか?」


「ええ。私達は、ミッションを受注して、薬草採取に来たの。中央部へ行きたいんだけど、転移魔法陣はあるかしら?」


「近くの企業迷宮に、監視塔へ行く専用の転移魔法陣はありますが、利用料をかなり高く取られますよ。道も整備されているし、小一時間の距離だから歩く方がいいですよ」


(えっ? 企業迷宮があるのか)


「それなら歩いていくわ。迷宮の崩壊情報は入ってないかしら?」


「最新の情報は10日前ですね。もう対応は完了しているので、東部エリアと中央エリアには警報は出ていません」


(さっきの話とは矛盾するよな)


 門番は、迷宮特区事務局の制服を着ている。この門までが、迷宮特区の管轄なのだろうか。


 彼は一瞬、カナさんの方を見たような気がしたが、首を傾げただけだった。今のカナさんは呪いの効果が消えて、中学生に見える。これが本来の彼女の姿らしいが。



「じゃあ、行くわよ。ちゃんと剣を装備しなさい」


(あっ、確かに)


 カナさんは杖を持っているし、井上さんは迷宮を出るときから、装備を整えていた。


「えー、暑いやんけ」


 ユウジさんは、常に短剣はポケットに入れているが、剣を装備するためのベルトが暑いと言っているようだ。だがこれも、彼のいつもの道化どうけだな。ユキナさんが少し緊張しているからだろう。


「はぁ、アナタねー。あら? ケントさんも暑いのかしら」


(ひぇっ!)


 ユキナさんが作ってくれた不思議な金属棒を、しっかり見えるように、胸ポケットに入れてるのに。



「そこまで警戒しなくても、整備された道を歩いていけば、東部エリアは大丈夫ですよ。中央部に入るときには、装備は必須です。各所に様々な看板がありますから、見落とさないように気をつけてください」


「わかったわ。いろいろとありがとう」


 僕達を先に通したユキナさんは、最後に小さな門をくぐると、門番に軽く会釈をしていた。


 そして僕達は、方向を示す看板に従って中央部への道を歩き始めた。




 ◇◇◇



 しばらく整備された道を歩いていくと、ユキナさんがユウジさんに何かの目配せをした。突然、暑さを感じなくなる。ユウジさんが全員に、結界バリアを張ってくれたみたいだ。


「みんな、この先は右に進むわよ。文句は後で聞くから、今は従ってちょうだい」


(しゃべるな、か)


 整備された道は、この先はトンネルになっている。分岐を示す看板が、さっきあったよな。ユキナさんが進もうとしているのは、整備された道を外れた山越えコースだ。



 僕達は無言で、ユキナさんについて行く。整備された道には灯りがあったが、山道にはない。雨が降ったばかりなのか、くぼんだ場所には泥水がたまっていた。


(サソリ対策かな)


 少し歩くと、右奥にある拓けた場所に、冒険者らしき人達が集まっているのを見つけた。だがユキナさんは、無言で山道をのぼっていく。冒険者達に気づかれないように、気配を消しているようだ。


 整備された道へ誘導する看板をいくつか見送ったところで、ユキナさんは歩みを止めた。



「この辺りで、少し休憩しましょう」


 山道を外れて、道なき道を進むユキナさん。僕達は無言でついていく。ここは比叡山迷宮だから、どこで声を拾われるかわからない。


 再び彼女が立ち止まった場所は、草が生えている緩やかな斜面だった。


「ここにしましょう。テントを出すわ」


 ユキナさんは魔法袋から大きなテントを出し、一瞬で地面に固定したようだ。僕達はその中に入るまで、ずっと無言だった。




「もう、しゃべってもええか?」


 ユキナさんがテントの出入り口を閉め、結界を張ると、すぐにユウジさんが口を開いた。


「ええ、問題ないわ。ここまで見てきた物の情報共有をしましょうか」


(へ? 情報共有?)


「せやな。お菓子でも食いながらにしよか。ケント、飲み物に余裕があれば出してくれ」


「はい、水分補給は必須ですね。フルーツ氷の方がいいですよね」


「どっちでもええで。ユキナはどっちも飲んでへんやろ」


(確かに!)


 ユキナさんに渡した分は、地下道の検問所で、賄賂わいろに使ったもんな。


 僕は、テント内のテーブルの上に、簡易魔法袋を出した。するとユキナさんは、金属製のマグカップを人数分、錬金してくれた。


 僕はユウジさんの目配せで、井上さんが少し辛そうなことに気づいた。それでユキナさんは、休憩することにしたのか。


 人数分のマグカップに、スムージーを注ぐ。体力を回復するには、こちらの方が良いはずだ。



「ふ〜、美味いな。ユキナのコップで飲むと余計に冷たく感じるで」


「手に冷たさが伝わるからでしょ。ケントさん、その簡易魔法袋は、閉じられてないわよ? 溶けるから、必要ない分はアイテムボックスに入れなさい」


(配る方がいいよな)


 僕はフルーツ氷を2本だけ、アイテムボックスに放り込んだ。子供達から注意されていたことが頭に浮かんだためだ。これは、ずっと常備しておこう。



「僕のアイテムボックスは、開く場所が限定されるので、皆さんで分けて持ちたいと思います。僕の分は、もう確保したので、必要な分を取ってください」


「そうね。じゃあ、私も2本もらうわ。水魔法が使えない人や魔力値の低い人は、多めに持っておく方がいいわね」


 ユキナさんは、そう言うと、井上さんとカナさんの方に、視線を向けた。たぶん、二人とも水魔法は使えると思うけど。


「俺は、氷をもらうで。パリパリ食うと美味いからな。はよ取らんと溶けるで」


 ユウジさんはボトルを2本取ると、魔法袋に入れた。カナさんも2本取ると、残り10本くらいを井上さんの方へ、押しやっている。今の井上さんは魔力値が低いのかな。


 井上さんは一瞬だけ困った顔をしたが、僕に軽く頭を下げ、ボトルを魔法袋に収納し、口を開く。



「情報共有ですね。ここまでに迷宮崩壊は2ヶ所ありましたね。さっきの分岐のトンネルの先は、小さなモンスターのスタンピードが起こっていました。サソリかもしれませんね」


(えっ? だから山道を来たのか)



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