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117、比叡山迷宮への検問所

「めっちゃ蒸し暑いやんけ。なんでクーラー入れへんねん?」


「これでも涼しいのよ? 外はもっと暑いわ」


「はぁ? 真夜中に来た意味ないやんけ」


 僕達は、比叡山迷宮へ入るための地下道にいる。井上さんの迷宮の転移魔法陣を使って、迷宮特区の比叡山側出口に移動したんだ。そして今、広い地下道を歩いている。


 迷宮特区には結界バリアがあるから、真夜中はそこまで暑くはない。だが地下道は人が多くて蒸し暑いためか、身体が重く感じる。


 結界を使えば、この不快さは解消できる。だが、検問所をスムーズに通るためには、目立つことはしない方が良いらしい。


 ユウジさんは暑いと騒いでいるが、これはムードメーカーの彼としての、いつもの道化どうけだろう。



 検問所が二つ見えてきた。一般と冒険者で分けてあるようだ。どちらも長い行列ができている。冒険者の列の方が長いが、進むのは早い。僕達は冒険者の列に並んだ。




 ◇◇◇



「次の人、どうぞ」


(あれ?)


 井上さんは有名なはずなのに、検問所の人は気づいてないようだ。いや、違うか。見た目を信じないのか。幻術を使っている可能性もあるもんな。



「私がリーダーの川上よ。冒険者ギルドのミッションで、薬草採取に来たわ」


「メンバー全員、それに触れてくれ」


 僕達は、順にタブレットに触れた。所属パーティ名と自分の名前とレベルが表示される。入山記録というものらしい。



「この先に行ったことのないパーティか。あっちの小屋に進んでくれ」


 検問所の人の態度は酷い。やる気のない声に、死んだような目。この仕事に心底飽きているようだな。




 僕達は、真っ直ぐに進んだ先の小屋に入る。


 事前に井上さんから説明を受けた通りだ。新たに結成された冒険者パーティは、小部屋で説明という名の、尋問を受けるらしい。下手をすると追い返されるという。それほど比叡山迷宮が危険だということだ。



「聞いたことないパーティだな。まだ実績がないから、Gランクか。比叡山迷宮の報酬の高さに目がくらんだのなら、やめておけ。簡単に死ぬぞ?」


(高圧的な人だな)


「新人さんは、よく勘違いするんだけどね。不死を約束した迷宮内以外の場所で死んだら、復活はありませんよ」


(ダルそうな人だな)


 小屋の中にいた男性二人は、僕達を、ゴミを見るかのようなさげすんだ目で見ている。女性二人に対しても変わらない。



「アナタ達は、ずっと地下道にいるのかしら? 私が『青き輝き』のリーダー川上よ。迷宮特区から来たのよ」


 ユキナさんは、いつも以上に、キツイ言い方をしている。事前に打ち合わせた通りだ。リーダーが交渉する方が、彼らは話を聞くらしい。僕とユウジさんは、口出しをしない約束になっている。


「ふぅん、迷宮特区ねぇ。ここを通る冒険者は、だいたい迷宮特区から来るよ。比叡山なんてやめて、帰る方が良いんじゃないか」


 彼らのデスクの奥には、賄賂わいろでもらったらしき物が、まるで見せびらかすように積み上げられている。ここを通りたければ、通行料以外に何かを渡せということらしい。


 ユキナさんは魔法袋から、プラスチックボトルを取り出した。僕が、さっきユキナさんに渡した試供品の、フルーツ氷だ。彼女は、飲まなかったんだよな。



「アナタ達、これは知ってる? 迷宮特区にある迷宮で手に入れたのよ。天然水のクラッシュ氷よ」


 ユキナさんがそう言うと、彼らの表情は変わった。水は貴重品だ。この蒸し暑い地下道で、クラッシュ氷は美味しいだろう。


「天然水? あー、そういえば、小川のある迷宮が出現したという噂は聞いたことがある。それを凍らせて持ち出したのか」


「1階層に交換所があるわ。爽やかなフルーツの香りをほのかに感じるわね。知らないなら、アナタ達にあげるわ。いろいろな貢ぎ物をたくさんもらってるでしょうけど」


「サーチしても?」


「ええ、どうぞ。もう、アナタ達のものよ。自由にしなさい」


 彼らは、フルーツ氷にサーチ魔法を使って、成分を調べたようだ。そして、みるみるうちにその表情が輝いていく。


「これは、本当に天然水のようだ。なんと貴重な品を!」


 まぁ、よく見る反応だ。ユキナさんは、さらにフルーツジュースも出した。彼らは、すぐさまサーチ魔法を使い、大きく目を見開いた。


 その横で、ユキナさんが、思いっきりドヤ顔をキメている。



「アナタ達、疲れているのか酷い顔をしてるわね。仕方ないから、これも差し上げるわ。フルーツのスムージーよ。ドロドロしているから、しっかり振ってから飲みなさい。あぁ、コップも必要かしら?」


 ユキナさんは、その場で金属製のマグカップをふたつ錬金し、彼らのデスクに置いた。


「これは、また、凄い! フレッシュな果物のスムージーなんて、どれだけ高価なんだ!? しかも、よく冷えている」


「冷たいうちに、飲みなさい。少しは疲れも取れるんじゃないかしら?」


 ユキナさんは、自ら、シャカシャカしてマグカップに注ぐと、彼らに手渡した。


 ふわっと、南国風の甘い香りが漂う。


 彼らは一気に飲み干すと、恍惚とした表情で、しばし固まっていた。


「残りは魔法袋に入れておく方がいいわよ。すぐに温まってしまうわ。こんなに湿度が高いと、すぐに腐るわよ」


「あぁ、そうだな」


 ダルそうにしていた人は、驚くほど機敏な動きを見せた。



 二つのボトルを魔法袋に入れ、僕達の方に視線を戻したときには、まるで別人のように、にこやかで親切そうな表情をしていた。


(賄賂の効果って凄いんだな)




「えーっと、『青き輝き』さんね。あぁ、この薬草なら、中央部の西側にある監視塔近くに群生地があるよ。ちょっと待ってくれ」


 高圧的だった人が、地図を出してくれた。


「この辺りが群生地になっている。ただ、ここへ行く道には、ちょっとモンスターが多いと思うよ。まだ公表されてないが、こっちの迷宮が崩壊したことがわかったんだ」


(極秘情報?)


「溢れたモンスターの種類は、わかるかしら?」


「あぁ、今、調べている。えーっと、あった。5階層までの帰還者迷宮だな。まぁ、一般的なモンスターが多いが、ちょっと厄介な奴がいる。最深層のボスが、毒を持つ巨大なサソリだ。乾いた砂地を好むようだな。魔力耐性が高いから、気をつけな」


(すごいサービス!)


 そのサソリの写真も、タブレットに表示して見せてくれた。銀色に光っているから、なんだかアンドロイドに見える。銀色の猫のせいか。


「これは、1体だけよね?」


「巨大な奴は、1体だけだ。しかし最深層は、サソリが異常繁殖していたようだ。ザコはこれだ。やはり、魔法耐性が高い。遭遇したら、奴らが嫌う水魔法だな。倒せないが、近寄ってこない」


「そう、わかったわ。貴重な情報をありがとう」


「あぁ、それが俺達の仕事だからな。『青き輝き』さん、比叡山迷宮は整備された道も危険だ。気をつけてな」


 高圧的だった人が、比叡山迷宮への通路の扉まで開けてくれた。


(賄賂の力って、すごいな)



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