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116、ややこしいお金の話

「井上さんの名前がありますが、兼任するのですか?」


 僕は素朴な疑問を、彼にぶつけてみた。


「俺は『水神会』を抜けましたよ。怪しい宗教団体は、一つしか加入できませんからね。『青い蝶を探す会』の方が興味深いので、まぁ改宗ですかね」


(改宗?)


 迷宮の主人あるじは、基本的には冒険者にはなれない。その抜け道として用意されているのが、宗教の自由というやつだ。


 だから宗教団体というのは、ただの隠れみのであって、おそらくは、名刺に印刷する程度の存在価値しかない。



「井上、何が改宗やねん。おまえは、お人好しすぎるんちゃうか? ダンジョンを奪われそうになっとったやんか。俺やったら、貢献した冒険者パーティに殺されそうになったら、あちこちに言いふらしたるけどな」


 ユウジさんは、かなり怒っている。


「そうよね。引退に追いやろうとする冒険者パーティなんて、私が井上さんの立場なら、徹底的に叩き潰すわね」


 ユキナさんの方が過激だが、当然の反応だと思う。


「井上 夏生が脱退したことは、明日の朝には騒ぎになるわね。ただ、最近の彼の状態も知られていたから、追放されたと考える冒険者が多いと思うよ」


 カナさんは、井上さんをこういう事態から守るために、ずっとここにいたのかもしれない。



「まぁ、俺としては、これでよかったですよ。この迷宮に来る冒険者は減るでしょうけど、階層を少し整理したので、ちょうど良かったです」


 井上さんは、笑顔でそう言いつつも、かなり辛そうに見える。ずっとスカウトとして、貢献してきたんだもんな。


 彼が『水竜の咆哮』を離れる判断をしたのは、正しいとは思う。さすがに引退を強要していた人達と、再び信頼関係を築くことは難しい。それに彼を殺した人の処遇も、うやむやになっているようだからな。


 僕なら誰も信用する気にはなれずに、引きこもると思う。下手をすると、迷宮を崩壊させてしまうかもな。




「とりあえず、何か受注せな、朝になってまうで」


(確かに!)


 僕達は、比叡山迷宮を見に行くために、こんな冒険者パーティをつくったんだからな。


「中央部なら、いろいろとミッションがありますよ。探しますね。あっ、冒険者パーティへの供託金は、500万でいいのかな?」


(供託金って何?)


「ええ、それでいいわ。野口くんからも500万円を預かっているから。井上さん、冒険者ギルドの銀行に繋いでくれる?」


 ユキナさんは、井上さんから別の銀色のアンドロイドを借りたようだ。この迷宮には、銀行の機能もあるのか。



「ユウジさんとケントさんも、500万円ずつ出してちょうだい。冒険者パーティに加入すると、一定金額を預ける義務があるのよ」


(えっ!? 500万円?)


「ふぅん、俺、イマイチわからんから、ユキナに任せるわ」


「じゃあ、ユウジさんの迷宮アンドロイドと繋ぐわね。ケントさんは?」


(ひぇっ!)


「あの、ユキナさん、僕は500万円もの大金は持ってませんよ」


 僕がそう言うと、皆の視線が一斉に僕に突き刺さった。皆、信じられないモノを見るような目をしている?



 すると、カナさんが口を開く。


「キミは、自分でお金の管理をしていないのね。私がずっと、井上 夏生に時間を取られていたせいかもね。川上さん、供託が終わったら、そのアンドロイドをこちらに回してくれる?」


「もう、完了したわ。どうぞ」



 カナさんは、銀色の玉が表示する画面を、僕に見せた。


「ここにキミの魔力紋を刻めば、残高照会ができるわよ。私は担当者だから守秘義務がある。気にしないで、ここに触れてちょうだい」


「はぁ……この後は?」


「私が操作するから見てなさい」


 ポチポチと画面が進んでいく。銀行のATMと似ているかもしれない。あっ、銀行だよな、これも。


「ほら、500万円くらい、余裕で出せるじゃない」


 カナさんにそう言われて、画面を見た。


(はい?)


 見たことのない桁だ。えーっと、約30億円?


「カナちゃん、なぜ、こんな金額が入ってるんですか? 物価が10倍だから、えーっと、この10分の1だとしても、おかしくないですか? まだ迷宮が出来て2ヶ月ですよね?」


「少ない方だと思うよ。それに給料などで、かなり使ってるわね。もう4月になったから、4月分の家賃も入ってるでしょ。あとは入場料と台風避難受け入れ協力の謝礼かな。やはり、居住区の月額家賃を150万にしてるから少ないのね。半分は事務局に取られるし」


「えっ? 家賃が150万? あー、そうか、10倍だもんな。でも、平均月収100万では?」


「普通は複数の家族で、一室を借りるでしょ。キミの居住区のアパートの部屋は異常に広いから、20人は住めるもの」


(そこまで広くないって)



「冒険者ギルドへ供託金500万円を送金するわよ。金額を確認したら、魔力を流してくれる?」


「あぁ、はい」


 確かに30億円もあるなら、500万円は余裕だ。だが、家賃が入ったばかりなんだよな? 給料の支払いもあるし、各階層が、必要な物を居住区でいろいろと買っている。どの程度の余裕があるのか、さっぱりわからない。


(優秀なアンドロイドに任せておこう)




 冒険者パーティ『青き輝き』の供託金は、6人分で3,000万円か。供託金の送金完了を確認すると、ユキナさんは口を開く。


「冒険者ギルドからの報酬は、冒険者パーティの共通口座に入るわ。供託金に加える分を差し引いた額が、そのミッションに参加した冒険者の口座に、自動的に分配されるの。便利でしょ」


「へぇ、川上さんは詳しいんだね。供託金は、脱退するときには返してもらえるよ。また、冒険者パーティとしての支出は、共通口座からすればいいから、ミッション中の宿代などは、個人での支払いは不要なんだ」


 井上さんが補足してくれた。僕は必死に耳を傾けたけど、ユウジさんは全く聞いてないみたいだな。


 供託金というのは、冒険者パーティ全体の財布という感じなのか。


 だけど、冒険者の口座とは何だ? 迷宮の残高とは別なのだろうか。供託金は、共通口座に入っている? 供託金って増えたり減ったりするのに、脱退するときに返してもらえるのか? そもそも供託って何?


(やっぱり無理だ)


 僕が適当な笑みを浮かべると、ユキナさんがため息をついた。ユウジさんへのため息かもしれないが。




「比叡山迷宮中央部のミッション、これはどうかな? 薬草採取だけど、この薬草は、監視塔近くに群生地があったはずだよ」


 井上さんは、ユキナさんの条件に合うミッションを探してくれたみたいだ。


「いいわね、それを受注しましょう」


(やっと出掛けられる!)



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