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113/409

113、なかなか決まらない

「シロ、クロ、アカ、3つすべてが比叡山迷宮のシュジンの名前なんですか」


「はい、そうです! 比叡山迷宮西部の迷宮の主人しゅじんの……あれ? 迷宮の主人あるじの名前です」


(言い直したな)



 ユウジさんが指摘したように、この田崎と呼ばれた人も、何者かに操られていたのか。ホルルタシスが魂に付着する呪いのエネルギーを喰ったから、彼も元に戻ったんだな。


 ということは、彼を操っていた術者は、シロ、クロ、アカの中にいる。


 3つとも迷宮の主人の名前なら、石塚先生ではないということだ。石塚先生が呪術名を使っている可能性は高いが、迷宮の主人ではないだろう。いや、だが、迷宮の主人ではないと言っていたか?


 僕は、記憶を探る。


 石塚先生は、救済だと言っていただけで、彼自身の話はしていなかった。僕の迷宮で、彼らは復活したはずだ。やはり、迷宮の主人ではない。迷宮の主人なら、死んだら自分の迷宮で復活するはずだ。




「比叡山迷宮の西側か。ちょっと探検しに行こうや。俺、行ったことないし、いっぺん遊びに行きたいと思っとったんや」


 ユウジさんが、突然、変なことを言い出した。いや、これが、そもそもの目的か。この場の空気感を変えようとしたのか、軽いノリだけど。


 いつもなら、ユキナさんがユウジさんの話し方を注意するのに、何も言わない。二人で事前に打ち合わせをしていたみたいだな。



「ユウジさん、それ、いつ行くんですか」


「今から行くに決まってるやろ。クソ暑いねんから、夜中しか探検できへんからな」


(やっぱり)



 すると、浮かれていたカナさんの表情が変わった。


「ちょっと、山田さん! バカなことを言わないで。比叡山迷宮に、しかも西部エリアに乗り込むなんて、自殺行為だわ!」


「別に乗り込むわけちゃうで。夜中の比叡山探検や」


「あのエリアに入るだけでも、自殺行為だよ! キミ達は何も知らないから、そんなことが言えるのよ。キミ達の迷宮は、この迷宮特区の中でも一番の希望なのよ!」


 カナさんは、中学生くらいの姿に戻っても、やはり迷宮案内者だな。僕達の迷宮が、比叡山迷宮に奪われることを恐れている。



「カナさん、私達は有名人らしいわね。帰還できないはずの時空の歪みを通り抜けて、帰還したのよね?」


 ユキナさんの口調から、カナさんは、比叡山を調べに行くことは決定事項だと察したようだ。


「でも、キミ達を失うわけにはいかないのよ」


「そんな失敗はしないわよ。それに、だいたいの把握はできているわ。ただ、実際に、自分がその場に行かないと掴めないこともあるのよ。わかるでしょう? 私達は、高熱化を改善したいのよ」


 ユキナさんの凛とした雰囲気には、誰も逆らえない。たぶん言葉に何かの術を使ってるよな。


「でも、危険すぎる……」


 カナさんは、眉間にシワをつくり、何かと葛藤するような顔をしている。



「それなら、自分が案内します! 比叡山のことは、だいたいわかりますから」


 田崎と呼ばれた人が、なぜか嬉しそうな顔をして、案内を申し出た。僕達を連れて来いとでも命じられているのか? 呪いの効果は消えたはずだが、ホルルタシスは記憶は喰わないからな。


「田崎は比叡山に入ると、殺されるんちゃうか? 操られとったんなら、術が解除されたことがバレとるやろ」


(ん? 解除じゃないけど)



 ホルルタシスは、魂に付着した汚れを引き剥がして喰らうだけだ。術はエネルギーを失って効果を失うが、呪い自体が消滅するわけではない。


 だから、僕はこの術を修得したんだ。


 これは、白の魔王フロウから教えてもらった術だ。冥界から氷河の光を呼び出して浄化すると、エネルギーだけが消えるため、術の解除によるデメリットが生じない。


 しかも、エネルギーを失った術は残っているから、それ自体がブロック機能を持つ。つまり、その術より弱い状態異常への耐性を獲得するのだ。


 同じ術にかかるかは、不明だと言っていたっけ。でもエネルギーの追加はできないから、古い術を術者が解除してからじゃないと、同じ術は使えない。


 ホルルタシスを召喚してしまって焦ったけど、結局は同じはずだ。冥界の氷河は、ホルルタシスが生み出しているらしいからな。


(だが、これは黙っておこう)




「俺達だけでええから。ここの転移魔法陣をタダで使わせてくれるやろ? 井上」


「は、はい! もちろん使ってください。助けてもらったお礼は、また後日に……」


「ほんなら俺達に、転移魔法陣の使い放題権をくれ。それで今回のことはチャラや。なぁ? ケント」


(ユウジさん……)


 ユキナさんに睨まれると、すぐに僕を巻き込むんだよな。だが僕には、こんな顔のユキナさんに逆らう勇気はない。


「転移魔法陣の使い放題が、今回の報酬ですか? 結構、迷宮エネルギーを消費するんですよ?」


「なっ? ほな、使い放題やなくて、回数券10枚でええわ」


「勇者ユウジ! 冗談は顔だけにして! 出かけるなら、さっさと行くわよ」


「痛っ、何すんねん、俺のかよわい腕がちぎれるやんけ」


(ほんと、仲良しだな)


 ユウジさんは、ユキナさんに腕を掴まれ、痛そうなフリをして顔を歪めている。



「お礼も兼ねて、俺が案内をするよ。迷宮のエネルギーは、さっきの召喚でグンと増えたからな」


 井上さんは、しっかりとした表情で、そう言ってくれた。冒険者歴の長い彼が一緒だと安心だ。


「そう? じゃあ、井上さんに案内をお願いするわ」


 ユキナさんは、すんなりと承諾した。すると、カナさんが口を開く。


「ちょっと待って。井上 夏生は、まだ体力も魔力もボロボロだよ! それに比叡山なんて……」


「それなら、俺が行こうか?」


 今度は、副団長の小川さんが手をあげた。


「副団長は、夜11時から『水竜の咆哮』の集会があるじゃないですか。それに、ゾンビになった人達が復活したときに、アナタがいないと彼らは混乱しますよ」


「それを言うなら、井上がここを離れるのは……」


「今夜の集会は、俺をパーティから追放するという連絡と、後任のスカウトを決めるためでしょう?」


 井上さんがそう言うと、副団長さんはバツの悪そうな顔をして目を逸らした。



「別に案内なんかいらんし。はよ、行くで」


 ユウジさんがそう言うと、カナさんがパッと顔をあげた。


「私が行ってあげるわ! 私の迷宮は、比叡山迷宮にあったのよ」


「俺も行きますよ。パーティを追放されたみたいですから」


「ちょっと待て、井上! メンタルが戻ったのに引退しろとは言わないぞ。それなら、俺が行く!」


(決まらないな)


 井上さんも、比叡山迷宮を見たいのかもしれない。僕達と一緒だと、単独行動よりは安全だと考えたのか。



「役に立つ人しか連れて行かないわ。これは遠足じゃないのよ!」


「ユキナ、何を言うてんねん。夜中の遠足やないけ。俺、お菓子も持って来たで」


「勇者ユウジ! アナタは黙ってなさい!」


(仲良しだね〜)



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