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111、禁術と冥界のホルルタシス

「警戒度を伝える道具ですか?」


 井上さんの目には、光が戻っている。ユキナさんの不思議な金属棒で、疑心暗鬼を克服できたのか。


(こんな簡単に?)


 いやユキナさんは、彼がここで復活した後にも会っている。彼女が、井上さんを治そうと試行錯誤した中で、この不思議な金属棒を自然に渡すことに思い至ったのか。



「この魔力の帯び方を見ればわかるよ」


 僕は、もう一つの金属棒を手に持ってみた。さっきの僕の言葉に嘘がないことを示すためでもある。


「井上さん、僕にはそういう繊細なことは、わからないですよ。魔力を帯びている不思議な金属棒だなぁって……あっ」


(ご本人の登場だ)


 カナさんが飛び出したのだろう。ユキナさんは、カナさんの後ろを歩いてくる。



 それに気づいた田崎と呼ばれた人は、身体に魔力を纏った。防御かと思ったが、わずかに僕の身体が軽くなった。これは……。



「来るな!!」


 僕は、彼女達に向かって叫んだ。慌てたユキナさんは、カナさんにバリアを張ったが、それは違う。


 田崎と呼ばれた人の口角が、わずかに上がった。


(チッ! やりやがった)



「ケント、なんや?」


「ユウジさん、決して攻撃魔法は使わないでください。干からびますよ」


「は? 何も……」


「アイテムボックスは開けるとすべて奪われます。ここには今、使えるマナがない」


「はぁ?」


 ユウジさんは知らないんだ。当たり前か。そして僕が、この術に対処できなかったことを、石塚先生は知っている。



「あれ〜? 井上さんに渡された物は、呪物じゃないですかー?」


(発動キーワードは呪物か。コイツ……)



 さっきまで、青く見えていた人達は、次々と赤く染まっていく。副団長だという小川さんは、黄色の点滅に戻った。


「皆の様子が……」


 井上さんも、僕と同じ光景を見ているようだ。


 もう、この金属棒を持っている必要はない。ポケットに放り込み、胸ポケットのペンのような棒を両手に持った。




「ククッ、何が勇者だ。この空間は既に私のテリトリーだよ。全く気づかないんだね。笑っちゃうよ。もう少し『水竜の咆哮』で遊んでいたかったんだけどね」


「田崎! 一体、何をした?」


「副団長はまだ抵抗するのか。まぁ、その方が楽しいね。時間の問題だけど」


 赤く変わった6人は、次々と剣を抜いていく。


 すると、副団長の小川さんも剣を抜いた。



「副団長、やめておきなよ。無駄だよ? ククッ、そっちの有名人が固まっているじゃないか」


(やはり、知っているか)


 田崎と呼ばれた人は、僕の方を見てニヤニヤしている。だが僕が、この術を破れなかったのは、石塚先生がいた頃のことだ。



「副団長さん、彼の言う通りです。あの6人はカース状態です。正確にいえば、生きるゾンビです。あの6人を斬ると、その血しぶきから呪いが移ります」


「な、なんだって? 状態異常回復を……あれ?」


 攻撃魔法じゃなくても同じか。この空間のマナは妙な術に支配されていて、他者への魔法が発動できない。



 ユウジさんに、チラッと視線を向けた。


(やはり、戦い慣れてるな)


 彼は僕の意図を察して、井上さんの前に立ち、多重バリアを張った。それを見たユキナさんも、バリアを重ねたようだ。



「ククッ、攻撃から守るだけでは、すぐに終わりそうだね。無駄に抵抗してくれる方が、早く終わるんだけどね」


 田崎と呼ばれた人は、もう完全に勝ったつもりらしい。


(実戦経験は少ないな)



「キミは、本当は何という名前なの?」


「えっ?」


 一瞬、彼が揺らいだ隙をつき、僕は、両手のペンに魔力を流した。特殊な氷を纏わせただけのつもりだったが、僕の魔力に反応して、グーンと伸びた!


(面白い!)


 レイピアに氷を纏わせたように見える。持ち手も、普通のレイピアだ。



「何をした? まぁ、いい。ふふっ、双剣で斬るのか?」


「田崎と呼ばれているけど、それは捨てた名なんだろう? 本当の名前は? 石塚先生が名付けたなら、シロとかクロとか、あぁ、そのオーラから、アカかベニかな」


(当たりがあったらしい)


「おまえ、何を……れ!」


 彼が、パパンと手を叩いた。

 すると、6人が一斉に僕に斬りかかってくる。



 キンッ!


 僕は、特殊な氷を纏わせたレイピアで、彼らの剣を受け、そして、足のケンを切って動きを封じる。


 彼らは、冒険者のわりには動きが悪い。ゾンビ状態になっているからだな。


 ズサッ!

 キン!


 動くたびに、彼らの体から、赤黒いカケラが落ちる。人間にこんな術を使うなんて、どんな神経をしてるんだ?


 急激なゾンビ化で、身体が一気に腐っていく。剣を振ると、その勢いで腕の肉が剥がれるらしい。だが、すぐに再生を始める。


 地面に落ちた赤黒い塊は、ウネウネと脈打つように動いている。僕は剣を振り、すべての肉片に氷刃を飛ばした。


「ククッ、血しぶきから感染すると言っていたくせに、斬っているじゃないか。あははは」


(やはり、気づいてないらしい)



「どこに血しぶきが飛んでいるって? 落ちた血肉から新たなゾンビは生まれたか?」


 僕がそう指摘すると、彼はハッとして辺りを見回している。だが、実戦経験の少ない彼には、わからないか。


「おまえ、何をして……」


(全員、倒れたな)




 僕は、レイピアで空中を切り裂く。レイピアに纏わせていた特殊な氷が、細かく砕けて空中を舞う。


(さて、始めるか)



『冥界の氷河より迎えし光よ! ここに在る、シロ、クロ、アカ、ベニが犯した罪を捧げる!』



 空中を舞う氷が、青い光に変わる。なぜか、ガツンと魔力を持っていかれた。


 そして、この空間が一気に青く染まった。


(あっ、しまった)


 迷宮は、ポラリス星のおりだからか。僕が想定した術の領域を大きく越えてしまった。確か、冥界でこれを使うと、何かが出てくるんだったな。



 青く染まった空間の一部に、歪みが生じている。


 ぐにゃりと大きく歪んだ空間から、ヌーッと白い何かが現れた。幽霊は苦手なんだよな。


 チラッと、ユウジさんに視線を移すと、まるで少年のようなキラキラとした顔で、白い何かを見つめている。




『ワレに貢ぎ物かや?』


 白い何かは、僕の目の前に、スーッと近寄ってきた。



「はい。禁術を誤って使った者がいまして」


 僕が、田崎と呼ばれた人に視線を向けると、白い何かは、彼の方へスーッと移動した。


『ふむ、あまりにも未熟な者じゃの。呪術名ベニよ』


「ひ、ひぃぃ、お、お許しください! 白神様!」


『ワレは、シロガミではないぞ? 何という未熟者じゃ』



 白い何かは、スーッと僕の方に戻ってきた。


(えーっと……)


 僕は必死に記憶を探る。だが、当てはまる日本語がわからない!


『ワレに何を捧げるのじゃ? ケント』


「はい、あの者が魂に使ったエネルギーです」


『ふむ。ワレに、肉片からエネルギーを抜き取れと申しておるのじゃな? ワレが誰だかわかって言っておるのかや?』


「はい、巫女様です。異世界から帰還したため、適切な日本語がわかりません。この国では神に仕える女性を、巫女と呼んでいます。異世界では、ホルルタシス様と……」


『そうかや。ケントは、ワレのことを知っておるのじゃな。ふむ、まぁ、よい。捧げるというエネルギーは、ここにある、先程の名のものじゃな?』


「はい、ホルルタシス様に捧げます」



 白い何かは、地面全体からギューっと引き剥がすように、エネルギーを抜き取ると、スーッと消えていった。



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