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11、新人潰しの帰還者がいるらしい

「これは、さっき出来たんですよ。やしろなんですか? ただの丸太小屋ですけど」


「ダンジョンコアの台座を守る建物は、やしろと呼ぶの。でもせっかく造っても、階層が増えると無駄になるわよ」


「台座は、最下層に移動するからですね。じゃあ、移動した後は、丸太小屋は僕の住居にします」


「はぁ? 1階層は、災害時の避難用に空けておいてって言ったよね? 私、昨日、言ったよね?」


(面倒くさいな)


 呪いを受けて姿が変わったと言っていたが、確かにこの反応は、子供だよな。しかし、異世界からの帰還者で、しかも戻ってから時間が経っているなら、今の見た目くらいの時間を生きているんじゃないのか?


 そういう僕も、あまり中身が成長した気はしない。まぁ、赤の魔王ラランのせいかもしれないが。



「カナ先輩、これほど広い1階層なら大丈夫じゃないですか? それに、この広さを維持する迷宮は、当分の間は、2階層はできないですよ」


「あっ、そっか。それなら、(やしろがある方がいいわね。でも、危険だけど」


(危険?)


 僕が怪訝な顔をしていたのか、カナさんは小川を指差し、歩き始めた。水を求める人が殺到するから危険だという意味か?




「ひゃー、やっぱ、冷たいわね。飲んでもいいかしら?」


「はぁ、どうぞ」


 僕がそう返事をすると、若い男性二人も、小川に手を入れた。そして、すぐに一旦引っ込めた。


(まぁ、そうなるよね)


 彼女に促されて、二人は小川の水を飲む。その後は、昨日のカナさんと同じような顔をしていた。



「ね? わかったでしょ。魔法で作った水とは違うのよ」


「これは、かなり危険だと思います」


 僕は、彼らの会話に違和感を感じた。


「危険ですか? 確かに冷たい水ですが、川幅は、ほとんどの場所が簡単に飛び越えられるほど狭い。もし川に落ちたとしても、浅いし、流れは速くないですよ?」


「そういう危険のことじゃないのよ。私がこの二人を連れてきた理由から話すわ。二人とも私と同じく迷宮案内者をしているの。私だけでは判断が難しくて、連れてきたのよ」


「判断? オープンしないとか?」


「まさか! オープンするに決まってるじゃない。理解できていると思うけど、水は貴重なの。地下の湧き水なんて、すっごく高価よ。山の湧き水はもう存在しない。だから危険なのよ」


 カナさんは、話しにくそうにしている。二人の男性に説明を任せたいみたいだ。



「五十嵐さん、正直にお話します。実は、この迷宮特区付近には、新人潰し専門の帰還者が複数います。すなわち、価値のある迷宮を奪い取ろうとする者達です」


「泥棒ですか?」


「ダンジョンコアを潰して乗っ取ろうとする者達です。3階層程度の、浅い階層しかない迷宮ばかりが狙われています。五十嵐さんの迷宮は、1階層しかないので……」


(彼らと同じように、か)


 アンドロイドから聞いた話はしない方がいいだろう。彼らのプライドもある。迷宮を奪われたことは、知られたくないかもしれない。



「じゃあ、早めに2階層を造る方がいいのですね」


「はい、昨日一緒のバスで来られた二人にも、昨夜のうちに、この話はしてあります。オープン前には、必ずお知らせすべきことなので」


「ユウジさんやユキナさんは、もうオープンしたんですね」


「昨日、いえ、日付が変わった頃にオープンしました。どちらも、特色のある2階層が出来ていましたので」


(さすがだな)


「そうなんですね」


「はい、3階層まで成長すれば、迷宮同士の連絡も可能になると思います。アンドロイドも迷宮と共に成長し、知能が高くなっていきますから」


(ん? もう賢いよ?)



 カナさんが、何かを気にし始めた。時間だろうか。


「とりあえず、キミの迷宮はオープンさせるんだけど、川があることを隠しておけば、来る人は少ないと思うんだよね」


 人が来ないとエネルギーが集まらない。それを忘れてないか? アンドロイドがまたポンコツと言いそうだな。


「カナ先輩、それでは夏に間に合わないです」


「ひと月後までには、2階層に住居を造ってもらわないと……」


「わかってるわよ! だけど、奴らにこの迷宮を奪われたら意味ないでしょ!」


(心配されてるのか)



 三人の視線が同時に僕に向いた。


 新人潰しが、どの程度来るかはわからないけど、このダンジョンコアを守るのは優秀なアンドロイドだ。まぁ、大丈夫かな。



「せっかく小川があるんです。水に困っている人には、飲んでもらいたいですよ」


 僕がそう言うと、カナさんは目を光らせた。僕の決意を待っていたのか。


「わかったわ。じゃあ、川があることは宣伝していく方向で進めましょう。迷宮のエサを放つのは、高位の冒険者よ。入り口には検問所を……」


「いや、カナさん。そんな……」


「カナちゃんよ!」


(またかよ)


「あ、はい、カナちゃん。検問所なんてやめてください。お金がある冒険者なら、地下の湧き水も買えるでしょう?」


「だけど、無制限というわけにはいかないわ。じゃあ、迷宮の入場料を100倍にする?」


「入場料を取るんですか」


「当然でしょ。じゃないと、迷宮に入りきれないほどの人が来ちゃうわよ? それに私達の給料は入場料から支払われるもの」


(面倒くさいな……)


 彼らは、何かコソコソと話し合いを始めた。



『マスター、時間稼ぎをありがとうございました。エネルギーが15%になりました。そろそろ引き止めは時間的に限界です。彼らには次の仕事があります』


(別に時間稼ぎをしたつもりはないんだけど。多くの人を入れたら危険かな?)


『エネルギーは15%ありますから、もう危険ではありません。入場料については、年間パスポート購入者のみということにすれば、簡単に解決します』


(貧しい人は、来られないよ?)


『マスター、年パスには本人確認機能がありません。だから貧しい者達は譲り合いをします。すなわち、年パス発行枚数分の人しか、一度に入場することはできません』


(なるほど! ほんと賢いね)


『マスターが優秀だと、アンドロイドも賢くなります』


 ちょっと嬉しそうな声に聞こえる。



「カナちゃん、入場料は、年間パスポートのみにするのは可能かな? そうすれば、管理しやすいと思うけど」


 僕がそう言うと、彼女は、すっごく不機嫌そうな顔をした。


(ダメなのか?)



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