表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/409

109、『水竜の咆哮』と不思議な金属棒

「冒険者か? 階段を間違えてるぜ。金鉱石は上の19階層だ。この先の22階層は、ただの荒地だ。もう何もないぜ」


(荒れ地?)


 集まっていたのは、男性ばかりが9人か。下層への階段近くに、井上さんがいる。他の8人を22階層へ進ませないために、そこに立っているのだと感じた。


(しかし、まるで別人だな)


 僕の迷宮に来たときは、明るくて親切な人だった。少し強引なところもあるが、彼の正義感からの行動だと感じた。


 だが、今の井上さんは、完全に目から光を失っている。すべてを疑っているかのような、暗くてボーっとした表情をしていた。



「俺達は、『水竜の咆哮』のスカウトマンに会いに来たんや。おまえらは何や? ケンカか」


 ユウジさんは、井上さんの状態に気づいただろうか。ヘラっと笑って、なんだか挑発しているようにも見える。



 僕は念のために、左手をジャケットのポケットに入れた。そこには、ユキナさんが作ってくれた魔力を帯びた不思議な金属棒がある。


(あれ? 見え方が変わった)


 魔力を帯びた金属棒に触れると、僕の目に映る人達全員の前に、透明なフィルムのようなものが現れ、色分けされている。


 ユキナさんから渡されたときは、こんな見え方はしなかった。あっ、ついになっているのか? 2本とも触れると反応は消える。1本だけに触れると、色分けされるようだ。


 ユウジさんは青い。井上さんも青だな。他はほぼ全員が黄色。黄色の点滅をしている人もいる。一人だけが赤だ。まるで信号機だな。


(何の色分けだ? ステイタスか?)



「ふぅん、アンタらは、俺達の冒険者パーティに入りたいのか。だがもう、井上はスカウトの仕事はしない。コイツは引退するからな」


(えっ? 引退?)


 すると、ユウジさんの視線が鋭くなった。


「おまえら全員が『水竜の咆哮』のメンバーなんか? スカウトマン井上っていえば、おまえらの代表みたいなもんちゃうんか?」


「アンタは知らないらしいな。井上は、もうダメだ。迷宮もこのままだと崩壊する。だから、すべてから引退してもらうことにした」


(何を言ってるんだ?)


 黄色の点滅の人が、井上さんを見捨てるようなことを言った。そうか、井上さんから迷宮を奪うつもりか。


 だが井上さんは、あんなにボーっとした状態でも、階段を守ろうとしている。彼は、迷宮を渡す気はないんだ。



「おい、井上! 『水竜の咆哮』のスカウトマンをやめる気なんか?」


 ユウジさんがそう尋ねると、井上さんは首を横に振った。


「ちょっとアンタ、井上の意思は関係ないんだよ。これは、俺達の冒険者パーティの問題だ」


「俺らは名刺をもらってるで? どういう問題なんや」


「あぁ、名刺を渡されたということは、一応合格だな。レベルは?」


「は? あぁ、さっきの変な部屋で、俺はギリギリの30って言うとったな。コイツは、21やったかな」


「そうか。その30というのは、迷宮レベルか? それとも冒険者レベルか?」


 彼らは、ユウジさんにサーチ魔法を使っているようだ。一緒にいる僕のことは、スルーだな。僕がレベル21とわかり、鼻で笑っていたからか。


「よう知らんわ。同じもんちゃうんか?」


 ユウジさんは、わざと相手を苛立たせるようなことを言っている。相手は、僕達が迷宮の主人あるじか否かを知りたいんだ。


(また、挑発してる)


 ユウジさんは、チラッと僕の方を見た。なるほど。井上さんを助けるんだな。だが、剣を装備したユウジさんは、おそらく彼らから警戒されている。



 僕は、キョロキョロしながら、階段へと近寄っていく。


 ユウジさんが、僕のレベルが21だと言ったことで、僕は完全にモブ扱いされたようだ。僕が移動しても、誰も気にしていない。


 僕は、彼らから井上さんを守れるギリギリの距離で立ち止まった。近すぎると、彼らは僕を警戒するかもしれない。


 下への階段を覗いてみる。別に22階層に行くつもりはないが、僕が移動した理由付けになるだろう。


 チラッと、ユウジさんの方を見た。特に何の合図もしない。だが彼は、ちゃんとわかっている。



「おまえらは井上のダンジョンが欲しくて、しょーもないことを企んだんやな? 頭がガキのまま大人になると、こんなアホになるっちゅうわけか」


(あーあ、煽ってる)


「なんだと? レベル30くらいで強いつもりか? 俺達の冒険者パーティは、レベル50からが一人前だ。井上の名刺を見せても、アンタのような失礼な奴は、加入させないぞ」


 黄色の点滅の人が、この8人の中ではリーダー格らしい。彼が加入させないと言ったことで、他の数人は剣に手を触れている。


 赤く見える人は、剣を装備していない。ここにいる全員が『水竜の咆哮』のメンバーのようだが、彼だけが異質な感じがする。



「なんや? 剣を抜く気か? こんな口喧嘩で、剣を触るんは、弱い証拠やで」


(彼らに抜かせる気だな)


 そう思った瞬間、一人が剣を抜いた。すると次々に、その行動が連鎖していく。


「ちょ、なぜ、剣を抜いている? 先に抜くと……」


 黄色の点滅の人の色が、青に変わった。変わるということは、ステイタスの色分けではない、ということか。



「切りかかってくる気か? ここにはモンスターは、おらん。人間しか、おらんで?」


 ユウジさんがそう言うと、剣を握っていた人達が少し動揺したようだ。何かに操られているのか?


「剣をおさめろ! 話し合いをしているだけだ」


 青に変わった人がそう言うと、二人だけが剣を鞘に戻した。黄色から黄色の点滅に変わった。


(あぁ、わかった! 敵意だな)


 ユキナさんが作ってくれた金属棒は、僕達へ向ける敵意に反応しているんだ。おそらく、僕のサーチ能力が低いからだろう。


(さすが、ユキナさんだな)


 説明を全くしないのも、彼女らしい。



「まだ、剣を持っとる奴は、確定やな。完全にバケモノに操られとる。比叡山迷宮には、しょぼい魔王がおるらしいな」


 ユウジさんがそう言った瞬間、赤く見えている人から、強い殺意を感じた。


 僕は咄嗟に、井上さんの後ろに、物理防御バリアを張った。


 その直後、強い風圧を感じた。


 井上さんは、よろめき、背後のバリアに当たった。簡易バリアだが、なんとか耐えてくれたな。


 術者は、井上さんを階段の下へ、吹き飛ばそうとしたらしい。僕の立ち位置では、即発動される魔法には、対応できなかった。


(あぶねー)



 僕は、スッと、井上さんをかばうように、前に立つ。


 すると、赤く見える人が、わずかに目を見開いた。僕を知っているらしい。そして、さらに殺意が強くなった。



「おまえ、何をすんねん! 今、ふらふらな井上を階段から落とそうとしたやろ」


 ユウジさんが怒鳴っても、彼は僕のことしか見ていない。強い殺意だ。


(あぁ、そういうことか)



 僕は、彼を真っ直ぐに見て、口を開く。


「キミは、僕の迷宮を襲撃したよね? 青虫カリーフを操って苦しめて、爆弾として迷宮に放り込む理由は何? 石塚先生に命じられたの?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ